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村での生活 その1

 この村にやってきてから一週間が経った。だいぶ生活にも慣れ、シルクも少しずつだが話せる様にはなってきた。村にやってきた時に全体を案内されたが、予想以上にかなり広く人もたくさんいる様だ。

 ただ、ひとつ気になることがある…

 それは…シルクが人前だと俺は「お兄ちゃん」と呼び始めた事だ。俺と2人きりの時にはちゃんと名前で呼んでいるのだが…

 まあ原因は俺にあると思う。この村に始めてきた時にゴースファータとグライジンにシルクの事を俺の妹だと言った事だろう。どうしても気になるので直接本人に聞くことにした。

 夜、部屋に2人でいる時に俺はシルクに聞く。


 「なあシルク。なんで俺のことを急に「お兄ちゃん」なんて呼び始めたんだ?」


 「この村に来た時にアクシスが妹だって言ったから」


 「確かにそう言ったが別に呼んで欲しいわけじゃないからな」 


 「でも、こっちがいい」


 「わかった。シルクがそうしたいならそれでいい」


 聞きたいことを聞けたので、互いにおやすみと言って眠りについた。

 翌日、俺は早朝からゴースファータに連れられて村の外に出た。目的は薬草採取を手伝って欲しいと言っていた。俺はゴースファータの後ろをついて行き、森の中を歩く。森の木は間引きされており適度に陽の光を取り込んでいる。

 明るく見やすいのだが、整備されてない道は歩きづらくたまに飛び出た木の根に足を引っ掛けて転びそうになる。

 一応、足元には気をつけているんだが…どうも5歳児の体じゃあそもそもの身長が足りてないからな。ゴースファータも俺が足を引っ掛けるたびに心配してくれるのだがどうも俺が足を引っ張ってる様な気がしてならない。考えながら歩いているのも注意力が散漫になって危険か。

 そう思っているとゴースファータが声をかけてきた。


 「いいかい、アクシス。この黄色い花を咲かせているのが目的の薬草だ」


 言いながら薬草の根っこごと引き抜いている。


 「根っこごと引き抜くんだ。この薬草は全部が使えるから」


 「なるほど、ちなみにこの薬草の名前はなんて言うんですか?」


 「これは『バーセト』と言うんだ。花弁から根の先まで使える万能な薬草だ。だが、陽の光が当たる場所にしか生えない。覚えておくといい」


 ゴースファータは取った薬草を次々と背中に背負った竹製の籠に入れながら俺に教える。


 「はい、それにしてもそんなに便利な薬草があるんですね」


 「この辺でしか生えていないがな」


 そう言って黙々と薬草を採取を再開する。俺も少し離れた場所で薬草を背中の籠に放り込んでいく。この辺でしか生えてないと言ってる割に周りを見渡しても必ずと言っていいほどこの薬草が視界に入る。

 もしかしてこれ全部取るのか…?

 ゴースファータの方を見ても集中している様で話しかける気にもなれない。まあ、頃合いになったら向こうから話しかけるだろう。

 それから2時間ほど経過した。ひたすら薬草を引っこ抜くだけの作業に途中から飽きてしまい、ゴースファータに許可をもらって森を散策していた。

 案外、簡単に了承してくれたな。まあ、それだけ安全な森ということだろう。年寄りと子供だけで来れる森もこの世界じゃそんなに多くないだろうし。

 魔力を確認するとゴースファータからも村からも結構離れた森の深部に来ていた。奥に行けば行くほど木々が無茶苦茶に生えており、陽の光が届かないくらい暗くなっており、『バーセト』とか言う薬草も見られなくなっていた。如何にも手入れがされていないのが分かる。誰もこの辺までは来ないのだろう。


 「この辺なら魔法の練習も出来そうだ。まあ、希望としては開けた場所の方が嬉しかったんだが…どれだけ魔力を視ても木しかないし」


 だが、こんなところで火の魔法を使えば大惨事どころの騒ぎじゃ済まないだろう。まあ、一番簡単な解決策は俺が火の魔法を使わないことなんだが…特に人も来ない場所っぽいし、少し地形を変えさせてもらおう。

 俺を中心とした500メートルほどの大きさの魔法陣を展開する。


 「木だけを消すイメージして…『闇黒孔ブラックホール』」


 魔法陣が黒く輝き、そして光が消えると目の前にあったはずの木々が魔法陣の会った場所だけ綺麗さっぱりなくなり、地面が剥き出しになっている。


 「よし、これで問題なく魔法が使えるだろう」


 俺は開けた地面を見渡し、再び同じ大きさの魔法陣を展開する。


 「流石にこの場所だけ木が無いのは違和感があるし、それに村の住人にバレても困るし『完全障壁(パーフェクトバリア) 偽装(カモフラージュ)バージョン』!!」


 俺はそう言って魔法を発動させる。一応、外からは森が続いてる様に見える感じにはなってる障壁を想像してみたんだが、中にいてはサッパリ分からないな。ま、大丈夫だろう。

 俺は少し離れたところに俺を中心に円状に魔法陣を10個展開する。今回は前にやった人間の複製ではなく、オークをイメージして魔法を起動させる。10個の魔法陣が輝き、中から鎧を着たオークが出てきた。


 「やっぱり、動きはしないな」


 『魔力感知』で魔力核を確認するが何処にも見当たらない。生物には魔力核が存在するってテオスも言ってたし、仮に魔力核が有れば動くのかな?俺はそう思い、何か良い方法がないか考える。

 10分ほど考えて1つだけ思いついた。

 それは魔法で擬似的に魔力核を作れないかって事だ。魔力核は言ってしまえば魔力を生み出す為の器官であり、さらに言えばそれを身体に貯める為の器みたいなもんだ。

 俺が考えたのはこうだ。器を作り、そこに俺の魔力を込める。そしてそれを目の前に立ってるオークに埋め込む。という方法だ。ま、うまくいくかはわからないがやってみるだけの価値はあるだろう。

 俺は1体のオークを自分の方へ移動させる。


 「ものは試しだ、やってみよう。『擬似核(フェイクコア)』」


 俺は右手に魔法陣を展開して詠唱する。魔法陣から漆黒の球体が出てくる。


 「魔力核ってこんなに真っ黒いのか?なんかいつも視ていたのは虹色っぽかったんだけどな。まあ、いいか。入れッ!」


 俺はオークの胸に核を押し込む。オーク本体が黒く光り始め、そして爆発した。爆風が俺の前髪や服を激しく揺らし砂埃が舞う。


 「えぇ…爆発するのか、つまりは失敗だよなぁ。やっぱり難しいのかもな」


 俺は今日のところは諦めて普通に魔法の練習をして帰った。もちろん、魔法で作ったオーク人形は全て粉微塵し、外に出ると《完全障壁パーフェクトバリア 偽装(カモフラージュ)バージョン》はしっかりと発動しており、障壁に触れない限りは森と区別はつかなさそうだ。

 俺は来た道を戻り、ゴースファータを魔力で探して戻ってきた。ゴースファータは「おかえり、それじゃあ、戻るか」と言ったので後をついて行き村に戻った。

 家に帰るとシルクが俺に抱きついてきた。ゴースファータとグライジンは俺たちを見て微笑んでいる。少し恥ずかしくなってきたので自分達の部屋に急いでにげていった。

 部屋に着くと俺はベッドに腰掛けながらシルクに話しかける。


 「玄関で早々に抱きつくのはやめてくれ」


 「ごめんなさい。それでもやっぱり…」


 シルクは恥ずかしそうに口籠る。


 「まあ、別に怒ってるわけじゃない。じいさんとばあさんに見られるのが嫌なだけだ。2人だけなら好きなだけ甘えてくれて構わない」


 「本当に?」


 首を傾げながら彼女は俺を見つめる。


 「本当だ」


 俺は言いながらシルクの頭を優しく撫でる。シルクは心地良さそうに喜んでいる。

 さて、問題はすることがないということだ。特にこの家は畑を持ってるわけでも無さそうだし、薬草採取も毎日は行ってない。そして今日もこれで手伝いは終わりになった。午後から暇を持て余すことになりそうだ。

 その後すぐにグライジンに呼ばれ昼食を済ました。

 自分の部屋で何をしようか考えていたがシルクに誘われて村を散策することになった。一応、ゴースファータから村を大雑把には案内されたが、詳しくは教えてもらえなかったので丁度いい機会だ。

 俺たちが住んでいるこの家は村からしたら北の方にあり、村の中でも森に近い位置にある。ちなみに街の方角は南側だ。

 俺たちはひとまず適当に歩き始めた。

 この村は世間では存在しないことになっているので宿泊施設がある訳でもないし、 飲食店も1、2軒有るか無いかといった所だ。

 しばらく歩いては見ているが特に面白くもなんとも無い。だが、隣を歩いているシルクはやけに楽しそうだ。まあ、シルクが楽しそうならいいか。

 それよりも少し疑問に思うのは俺たちと一緒に来た呪い子(イクス)が馬車にいた時とは一変して普通に、いやそれ以上に活き活きとした表情で生活しているという事だ。やはり、あの首輪には何かがあるのかも知れない。だが、現物が手元に無い以上どうしようも無いことに変わりはない。


 「アクシス、どうしたの?」


 不意にシルクが話しかけてきた。考え事をしていたので、少し反応に遅れてしまった。


 「…ああ、なんでもない。少し気になることがあっただけだ。それよりこの村、見て回る程面白いものもないと思うんだが…?」


 「アクシスと一緒に歩いてるだけで楽しいの」


 周りに人はいるが特に俺たちを気にした様子もないのでシルクも名前呼びになってる。ちなみに時々間違えて俺を「アクシス」と呼んだ時は無理矢理後ろに「お兄ちゃん」と付けて誤魔化している。


 「そんなんもんか?」


 「そうなの」


 よく分からんな。子供といえばもっとアグレッシブに遊ぶものだろう。森に入って隠れんぼ的な遊びとか村全体を使っての鬼ごっことか。まあ、そもそもこの世界にそういった遊びがあるのかどうかも知れないが。


 結局、空が茜色になるまでには村全体を見ることができた。やはり、俺からしたら特に面白味も感じられなかったが、シルクが満足そうにしていたので良しとしよう。

 家に帰ると既に夕食の準備がされており、2人で食事の席に着く。談笑を交えながらの食事を終え、俺とシルクは自室に戻っていった。

 ゴースファータから明日は特に手伝う事はない、と言われている以上俺の自由に行動させてもらう。先ずはシルクのスキルを確認したい。という事でシルクには明日、付き合ってもらおう。本人の許可は今から取ればいい。仮に断られたなら「擬似核(フェイクコア)」の実験をすれば良い。


 「シルク明日は暇か?」


 俺はベッドに座りながらシルクに話しかける。


 「うん、暇だよ。でもどうして?」


 シルクは俺の正面、つまり自分のベッドに座った。


 「少し確認したい事があってな。ここに来る時にシルクのスキルを確認したのを覚えているか?」


 「うん。あの無効化ってやつだよね」


 「そうだ。あれがどのくらいの性能なのか試してみたくてな。明日、一緒に来てくれるか?」


 「良いよ。アクシスとなら何処にでも付いてく!」


 「別にそんなに遠くに行く訳じゃ無いからな」


 俺が苦笑混じりで言うとシルクは「分かってる」と言い、明日の予定が決まった。その後、少しだけ2人で話しをして眠りについた。



 翌日。いつも通りに起きて用意された朝食を摂り、家を出て森の方角へ歩いて行く。勿論、シルクも俺の隣を歩いている。今向かっているのは俺がこの間ゴースファータと一緒に薬草採取に行った時に作ったあの場所だ。

 森の中に入ると樹々の葉が陽の光を遮り、直ぐに薄暗くなった。シルクは怖くなったのか俺の服の袖をきゅっと掴んでくる。俺は立ち止まるとシルクに手を差し出して、


 「怖いなら手を繋いで行くか?」


 俺のその言葉を待っていたかのように俺の差し出した手を握り、顔を綻ばせる。


 「アクシスって優しい…」


 シルクの手を優しく、そっと握って再び歩き始めた時に不意にシルクがそう呟いた。しかし、独り言にしては大きくしっかりと俺に耳にも届いていた。ただ、本人の方を横目で見ても俺に伝えるために言った訳ではなさそうで。思っていたことが口からポロッと出てしまったようだ。


 「何か言ったか?」


 敢えて聞こえなかったフリをしてシルクに聞き返す。シルクは俺の方を向いて首を横に振り「何でもない」と答えた。

 しばらく歩くと俺が張った障壁が見えた。俺たちが入れる程の大きさの穴を障壁に開ける。中に入ると昨日と何ら変わりない剥き出しの地面が広がっている。


 「木があったはずなのに一瞬でなくなちゃった…アクシス、どうなってるの?」


 俺が開けた障壁の穴を塞いでいるとシルクが質問してきた。振り向くと目を丸くして辺りをキョロキョロしている。


 「まあ魔法で消した、とでも思ってくれれば良い」


 間違ったことは言ってない。そう実際に魔法で消したのだから…昨日だけど。

 さて、シルクのスキルは自覚することによって真価を発揮するものなんだがどう確認をすれば良いのだろう?一番分かりやすい方法はシルクに魔法を放って無効化出来るかどうかだ。ただシルクが魔法を怖がらないとは言い切れない。どうしよう?

 頭を悩ませているとシルクが俺の肩をトントン、と叩いてきた。


 「ところで私は何をすればいい?」


 一通り驚き終わったというような様子で俺に聞いてくる。


 「そうだなぁ、取り敢えずシルクにはスキルを使ってもらいたいんだが…」


 「どうしたの?」


 首を傾げて聞いてくる。まあ『無効化』が発動しなかったら俺がどうにかすれば良いか。


 「それを確認するためにシルクに向かって魔法を撃つ。もし何かあったら大変だからその辺は注意してやるが、それでもシルクが怖いなら別の方法を考える。シルクはどうしたい?」


 俺が聞くとシルクは考えるように頭を捻る。少しして答えが出たのか俺を見て


 「怖いけどやってみる」


 シルクはそう言うと両拳をギュッと握る。よく見ると両手は少し震えている。大したもんだ、本当は怖いのだろう。まあ俺も自分に向かって魔法を撃たれたら少しは怖いしな。


 「いいかシルク。今からお前に魔法を放つが明確に『無効化する』とだけ意識しろ。それで大丈夫だ」


 「わかった」


 シルクが頷くと俺はシルクと距離を取る。右手を前に出して魔法陣を展開する。出来るだけ威力は弱く、かつシルクに被害が出ないそして効果が目に見える魔法…火魔法か水魔法のどっちかだが、ひとまずは水魔法でやってみるか。


 「いくぞ、シルク。『水球(ウォーターボール)』」


 詠唱すると魔法陣からバレーボール程の大きさの水の球がシルクに向かって飛んで行く。シルクは両手を突き出して水球ウォーターボールに接触する。

 その瞬間、水球が球の形を維持出来なくなり崩壊する。ただスピードは残っているのでそのままバシャッ、とシルクに水がかかる。

 シルクに触れた瞬間俺の魔法の制御が一切出来なくなった。つまり、スキルがちゃんと働いているということだろう。次は火で試してみたいが今みたいの水みたいに火が残ってシルクに当たると危険だしな…どうしたもんか?

 真剣に考えているとシルクがボソっと呟く。


 「冷たい…」


 俺は声がした方を見るとびしょびしょに濡れたシルクがいた。俺は急いで駆け寄り、


 「すまんかった。直ぐに乾かす」


 魔法陣を展開してシルクの服を乾かす。10分もすれば大分乾いた。

 俺は両手を合わせて、


 「悪かった、俺が注意するとか言ってたのにな」


 俺がそう言うとシルクは首を横に振って


 「ううん、大丈夫だよ。冷たかったけど…」


 シルクは案外根に持つタイプなのかも知れないな。

 それよりも、今思いついたんだが別にシルクに向かって撃たなくても良かったんじゃないのか?

 そう、その方法とは魔法陣を展開して魔法を発動し、魔法を飛ばさずにそこに維持した状態でそのままシルクに触って貰えば良いんじゃないか?


 「シルク、ちょっと良いか?」


 俺は乾いた服を見て目を輝かせているシルクに話しかけた。

30話目になりました。作者の霊璽です。今回から新章突入って感じで行こうと思います。

一応、幼少時代の続きなのでまだ5歳のままからスタートです。

話が変わりますが今、思えばいつのまにか小説を投稿してから一年半くらい経つんですよ。自分でも意外に続けられてるなぁっていう驚きと読んでくれる方がいてくれるという嬉しさがあります。

これからもまだまだ続くのでよろしくお願いします。なんか後書きがいつもの適当な雰囲気じゃない…

それではまた次回の話で……

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