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初日から厄介な事に

 「見えましたよ」


 御者の声に意識が呼び起こされる。どうやら今まで寝ていた様だ。酔わない為に体が無意識に寝かせたのだろう。

 馬車の客車の後ろから顔を出し前を見ると城壁が目の前に映った。俺がいた領都の壁よりは小さいがそれでもかなりの高さがある。


 「出来れば顔は出さないで下さい。この馬車は一応王様からの命令で動いていますけど石とか投げてくる人がいますから」


 後ろを向いた御者に言われて俺はすぐに顔を引っ込めた。

 あれ?でもおかしいな。この馬車は前と後ろは見える様になっているのに。疑問に思い御者に聞いてみた。


 「でもこの馬車、前と後ろからなら中見えるじゃないですか」


 「それなら大丈夫。ちょっと特殊な魔法障壁でね、中からは外が見える様になってるけど外からは荷物が積んである様に見えるんです。まあでも石とか投げられたら普通に中に入ってくるけど」


 そうなのか。かなり高度な魔法だと思うんだけど…そこら辺は王国の力を使ったのだろう。そもそも障壁って言うのか、これ?

 色々な疑問が出て来るが聞くのはやめておこう。

 それよりも身を乗り出して外を眺めることが出来なくなったので大人しく待つことにした。

 少しすると馬車が止まった。多分街の中に入る為の手続きをしているんだろう。時々声が聞こえてくる。

 しばらく待つと「どうぞ」という声と共に馬車が動き出した。外に顔を出すなと言われたので後ろから見える景色で楽しんでいるが街には結構人がいる。王都や領都を程じゃないがそれでも盛んな方だろう。他の街がどうなのか知らないから何ともいえないが。

 魔力を視える様になってはいるし念の為に『魔力感知』も使っている。魔力核の大きい奴は基本的に魔法が使えて、しかも強い奴だからな。


 「そろそろ着きますよ」


 御者がそう言うと馬車も止まった。どうやらあまり人の集まらない街外れの広場に着いた。

 既に何人かのイクスとその母親が集まっている。俺と同じくらいの歳も居ればまだ1歳くらいの赤ん坊も居る。


 「それでは私は他のイクスを迎えに行って来ますのでここで待っていて下さい。絶対に出ないで下さいね」


 「分かりました」


 御者は馬車から降り、集まっている人達のところへ歩いて行く。御者は母親達と少し話をしてイクス達に俺と同じ首輪を嵌めさせ、その後親に一礼をしてイクスを連れて来る。

 後ろの板を下に下げると連れて来た子達を客車に乗せた。全員、親と別れたというのに泣く事もなくそれどころか感情が無いのか表情が一切動かない。

 後ろは今使っているので前から親の方を眺めると清々したというような顔つきだ。邪魔な存在が消えて余程嬉しいのだろう。互いに笑いながら話している。父さん達とは大違いだ。

 そう思っているといつの間にか子供が全員乗り終えていた。子供達は俺と同じ首輪を付けているが、一つ違うとすれば下を向き膝を抱えて黙っている。

 そんな事は気にせずに御者は全員乗ったのかを確認する。

 

 「これで全員乗りましたか。それでは出発しましょう」


 「えっ、もうこの街を出るんですか?」


 「はい。あと4つの街や村に行かなければならないのですがかなり遠いので移動に基本的に1日はかかりますから」


 御者がまた御者席に座ると馬車を走らせた。そのまま真っ直ぐ進み入った時とは別の門から外に出た。少し進むと周りは木々に囲まれ、薄暗くなった。

 乗った子供の数は4人。あと四つの街に回るとすれば合計で20人辺りか。まあ、馬車の広さから考えても妥当だろう。

 魔力と魔力核を確認し対して俺を基準に考えるなら足元にも及ばない。言っておくが俺を基準に、だからな。普通の大人の人間よりは強い。

 よく観察すると少しずつ魔力核の大きさが小さくなって行っている。ごく僅かだが。

 まあ、気のせいだろ。

 それよりも一つ気になった事があったので御者に聞いてみた。


 「でも、一つの街の間隔ってそんなに離れてるものなんですか?」


 「いやいや、そういう訳じゃないですよ。もっと近くには宿場町とかありますけど。この馬車が行くのはイクスの出生報告が上がった街なんですよ」


 「ヘぇ〜、そうなんですね。出生報告って期限とかは有るんですか?」


 「基本的には生まれてから一年以内だけど君もそうだし、後ろを見ると分かるように親が匿ったりしている時も有るんです」


 「でも、親が匿っているならバレる筈ないじゃないですか」


 「それがそういう訳にもいってない様ですよ」


 「何故ですか?」


 「この国の村や街の人は互いを監視し合っている。いくら親が匿ったところでバレるものなんです。因みに子供達を連れて来るのは本当の親じゃないですからね」


 なるほど、だから子供と別れる時に悲しむ様子がなかったのか。ずっと親だと思っていたが、違うならあの態度も納得だ。

 上位種に容姿が似ているというだけでここまでの扱いをするとは。どの世界の人間も見た目だけで判断する奴が多いという事か。

 実際、他のイクスを見て普通の人よりは魔力核が大きく魔法を使えば威力は普通の人よりは強いという事がわかった。

 だが魔力核が視えるなら普通の人より強くて危険だから、という事で隔離するならまだしも魔力核が視えるのは今のところ俺だけだろう。それに今じゃ劣等種と蔑んでいるのにここまでする理由は何なんだ?

 まあ、御者の人に聞いても分かるはずないか。

 他のイクスを観察しながら考える。

 ふと、気になることを見つけた。首輪を付けられた以来一切の感情を見ていない。


 「この首輪って本当に重さを感じさせなくするだけですか?」


 「ええ、その様に王から聞いていますけど」


 「じゃあ、なんで俺以外全員感情が死滅してるんですか?」


 「さぁ?知らないところに連れて行かれるんですから緊張でもしているんじゃないですか」


 知っているが話す気はない様だな。口調も変わったし。まあ、いずれ分かる事だろう。

 この人はずっと笑顔を崩さない。つまりどこで嘘をついているか分かりづらい。そこが王様に気に入られた理由の一つだろう。魔力核もそこそこの大きさだし。

 何となくだがイクスのこの扱いには王様も一枚噛んでいそうだ。まあでも、こんな予想したって事実が違えば意味ないんだけどな。

 不意に前から視線を感じた。俺の目の前にいるのは俺と同じ歳くらいの少女だ。俺が顔を向けた瞬間に下を向いてしまったが。

 この子はこの中で唯一の感情保持者かも知れない。あとで接触を図ってみよう。

 そう思っていると急に馬車が止まった。


 「どうしたんですか?」


 俺は馬車の中で立ち上がる。御者の横から顔を出し外の状況を確認しようとする。


 「顔を出さないで中に入っていてください!護衛はいますが盗賊だった場合、少々面倒な事になります。私は外を確認してきます」


 そう言って御者は御者席を飛び降りて外の様子を確認しに行く。荷馬車の方の御者も降りて前へ走って行った。


 「はい、分かりました…」


 俺が返事をしたときにはもういなかったので渋々中に戻る。もちろん、魔力が視える様になっているので外の状況は丸分かりだ。

 前方へ意識を向けると5、6人の髭面の男が立っている。格好から推測するに盗賊だ。俺が確認をした瞬間に外から御者が走って戻ってきた。


 「盗賊です!ひとまず交渉に持ち込みますが駄目だった場合は私も戦闘に参加してくるので皆さんは中にいて下さい」


 そう言うとまた前に走って行った。耳を澄ますと御者が盗賊と会話をしているのが聞こえた。


 「分かっているんですか?この馬車は王命を受けた馬車ですよ。王に知られたらどうなるのか分かっているのですか?」


 「それってよぉ、バレたらの話だよなぁ?今ここで始末しちまえば問題ないよなぁ」


 「どうやら話は通じない様ですね」


 盗賊の意見になるほど、確かにそうだな。と納得してしまった。

 そして金属同士がぶつかり合う甲高い音が聞こえた。確認してみると戦闘が始まっている。

 そんな事より俺はもう一度周りを確認する。15人も護衛がいるのに5、6人で襲って来るのはおかしい。それにこの自信、他にも隠れているはずだ。

 馬車の周りをさらに15人の盗賊が隠れているのが視えた。魔力核自体はさほど大きくない。つまり魔法戦は出来ない様だ。

 さらに注意深く観察していると護衛の半数が正面の盗賊を倒しに向かってしまった。


 「今だぁ!」


 前にいた盗賊の長っぽい奴が叫ぶと後方の木々から隠れていた盗賊が出てきた。


 「何ッ?まだ隠れていたのか!」


 後ろにいた兵士の1人が声を上げる。すぐに剣を抜き応戦するが数が違いすぎるので一瞬にして劣勢に陥る。前方の方も少し人数が増えており押され気味だ。


 「はぁ〜、1日目でこれか。辛いなぁ。これからもっと面倒くさい事になりそう」


 馬車の中で1人呟く。外には出られないので周りを確認すると魔力核が減っている。何人か死んだのだろう。格好から確認しているが盗賊の方より護衛の方が数が減っている。

 加勢に行った方が良いのか、このまま馬車の中で待機していた方が良いのか。どうした方が良いのか。

 考えいていると盗賊の1人が俺が乗っている馬車の中を除いた。


 「オイオイ、この馬車は荷馬車じゃ無いのか?中にガキしかいないぞ。……アレ?でもよく見たら真っ白い頭しか居ない」


 「何だと?…なるほどなぁ。おい、そいつらは殺すな!頭の色が白色なら高く売り飛ばせる」


 下っ端の話を聞いた盗賊の長が1人の護衛を殺し、少し考えたあとで大声で命令する。下っ端は頷くとそのまま仲間を助けに行った。

 今まさに護衛の半数が死んだ。御者を含めてあと8人。このままだと全滅しそうだ。

 俺達が村に行くことが出来なくなる。それは非常に困る。だから盗賊を始末する事にした。

 俺は馬車から降りて、近くに落ちていた護衛の剣を拾う。


 「何だ、このガキ。死にに来たのか?」


 「おい、殺すなよ。大事な商品だ」


 馬車から降りてきた俺を見て盗賊達が笑いながら言う。勝ちを確信しているのか周りにまだ兵士が居ても余裕を見せつけている。

 俺は右手に持った剣を思いっきり投げる。とてつもない速さで飛んで行った剣は盗賊の1人の頭に命中する。剣の勢いは衰えずに盗賊は後ろに飛んでいき木に突き刺さる。木に貼り付けられた盗賊はピクリとも動かない。


 「人を物扱いしやがって、ムカつくな。ま、盗賊なら殺しても罪ならないだろう。という訳で皆殺しだ」


 俺はそう言うと盗賊の一番偉い奴に向かって地面を蹴り走り出した。

 相手も剣を構える。

 俺は自身の周りに五つの魔法陣を展開すると氷の刃をイメージをする。そして魔力を込め、各魔法陣から氷の刃を出し射出する。

 相手はそれを転がった死体を持ち上げて防ごうとする。俺は氷の刃を巧みに操り死体を避け、後ろの盗賊に5本全て命中する。氷の刃は両腕両太腿そして心臓の位置に刺さっている。


 「ぐはっ……。ふっ、なかなかやるじゃないか」


 口から垂れた血を拭いながら盗賊は剣を再び構える。

 マジかよ…一本は心臓には到達してはいないがそれでもかなりの痛みだと思うだが。


 「魔法を使える白髪のガキか。これはまた高値で売れそうだ」


 「そんなにまでなっているのにまだ金の事を考えているのか?強欲な奴め。生きる気満々じゃないか」


 「当たり前だろう。大金が目の前にあるんだ。死んでいられるか」


 うわぁ〜、超強欲じゃんこの人。金の為なら何でもやります的なタイプか。


 「おいッ、お前らも手伝え!このガキを捕らえろ」


 「「「「はい!」」」」


 声を揃えて盗賊の部下が俺の方に向かって来る。護衛に関しては動けるが戦える状態の者が殆ど残っておらず、御者の2人も瀕死の状態だった。

 つまりこの状況下では俺1人で16人の盗賊を相手にしなければならないという事か。

 ていうか、殆ど盗賊の数が減っていない。魔法で一掃してもいいんだが、これだけ人数がいるんだ。少し楽しむとするか。

 周りの盗賊の4人が俺に近づいてきた。


 「そいつは魔法を使えるから気を付けろよ」


 長が忠告をしていたが全く聞いている様子ではなかった。

 地面にでも落とし穴を作るか。

 

そう思い、膝をつき両手を地面につけ魔法陣を展開する。俺を中心に近くにいた盗賊9、10人が入る大きさだ。


 「じゃあ、ひとまず一掃させてもらおう。『地面(グランド)操作(オペレーション)』!」


 詠唱すると地面に俺が立っている所以外の周りの地面が半径5メートル、深さに関しては底が見えない程深くなっている。

 俺に近づいて来ていた奴らはもちろんさらに数人を奈落へ誘った。ギリギリ穴に落ちなかった盗賊達も迂闊には近づけなくなった。

 少し遅れて穴の中からグチャッ、という鈍い音が聞こえてきた。

 一体どれだけの深さなんだ?この穴。自分で作っておいて分からないのも問題あると思うが…

 穴を覗きながらそう思った。

 かろうじて穴に落ちなかった盗賊達は愕然としていた。手から武器を落としている者、腰を抜かしている者などなど。唯一、盗賊の長だけは立っていた。

 皆、放心状態だったので今のうちに何人残ったのか数えてみる事にした。

 生き残った人数は6人。10人は奈落の底に落ちて行った。


 「くっ、コイツには勝てない。お前ら逃げるぞ!」


 ようやく力量の差が分かったのか、部下に指示を出し背を向けて逃げようとする。一足遅れて周りの盗賊達も逃げ始めた。

 だが、彼らが行く先に一本の渓谷を創り出した。先程使った『地面(グランド)操作(オペレーション)』を使用したのだ。しかし、結構便利だなこれ。自由に地面を動かすことができるし。

 そんな事を考えながら足元に魔法陣を展開して『飛行(フライ)』を使い逃げ出した奴らの前まで飛んで行く。


 「逃げられると思うなよ、お前ら全員地獄に落としてやるよ」


 そう言って俺は両手と自身の周りに五つの計7個の魔法陣を展開した。

26話目の投稿になります。作者の霊璽です。

この間投稿したとき十万文字超えたと思っていたら微妙に足らなかったんですよね。先程25話目も少し修正したのでもしかしたらもう超えているかも。

まあこれを投稿する時には十万は超えていると思いますが。

本編に一切触れずに後書きが終わりそうです。

次回は盗賊退治とその他諸々あるかも無いかも。

それではまた次回の話で……

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