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旅立ちの時

 「…さま、…シス様、アクシス様」


 体を優しく揺さぶられて俺は目を覚ました。完全には意識が覚醒していないので一度体を起こしたがまたベッドに寝転がる。


 「アクシス様、起きてください!」


 いつまでもベッドでグダグダしていたら今度は激しく体を揺さぶられた。


 「なんだよ、もう少し寝かせてくれよ」


 目を擦りながらリリアに文句を言う。

 昼寝以上に気持ちよく寝れるものはないと思っている俺は睡眠を邪魔されて少し不機嫌になる。


 「もう夕方です。いい加減起きてください。それと旦那様が部屋に来る様におっしゃっていましたよ」


 「父上が?分かった。すぐに行く」


 ベッドから降りてボサボサになった髪の毛を手櫛で整える。チラッと窓の方を見れば空は真っ赤に染まっていた。

 そんなに寝ていたのか。と思いつつ自分の部屋を出て父さんがいる部屋に向かう。

 父さんが俺を呼んだって事は多分明日の出発に関することだろう。何を言われるんだか…考えてるといつの間にか父さんの部屋の前まで来ていた。

 一度深呼吸をして、そしてドアをノックした。


 「入れ」


 「失礼します」


 中から父さんの声が聞こえたので俺はドアを開け、中に入る。

 部屋に入れば父さんが机に向かって何か書類を書いていた。


 「父上、何か用があると聞いて来たのですが…」


 「アクシスか。まあ、そこに座ってくれ」


 父さんに座る様に言われたのでひとまず座る様に父さんも書類から目を離し俺の前に移動して来た。


 「それで話とは何ですか?」


 「ああ、明日の行き方の説明についてだ。まず朝に迎えの馬車が来る。それに乗って行くんだが…」


 「何か問題でもあるんですか?」


 「それがな、かなりの距離があって3日くらいかかるんだ。それに各地の呪い子(イクス)を集めながら向かうから最低5日、最高で一週間はかかる」


 「そ、そんなにですか!?」


 父さんの説明を聞いて驚いて目を丸くする。

 まさかそんなにかかるとは…しかも馬車。酔いという名の地獄が俺を襲ってくる。まさに俺の天敵だ。くそ5日かも乗っていなくちゃならないなのか。


 「そういえば食事とかはどうするんですか?」


 父さんの話を聞いてふと疑問に思った事を聞いてみる。食事は生きて行くために必要な事だからな。これだけは聞いておかないと。


 「それなら食糧を積んだ馬車が別で付いていくから大丈夫だぞ。それに護衛の兵も王国側から出してくれるから安心していいぞ」


 「そうですか。それなら安心しました」


 俺は安堵の息を吐く。そこまで厳重に守って行くんだったら安心だ。

 確か王様も呪い子(イクス)は珍しいって言ってたし。希少だから盗賊とかに狙われやすいのかもな。


 「ひとまず伝えたい事は以上だが、何か気になる事はあるか?」


 「いえ、特にはないです」


 「そうか。それでは夕食に行こう」


 「はい!」


 俺と父さんは席から立ち上がり部屋を出た。とうさんの斜め後ろを歩きながら食堂へ行く。

 これでここでの食事も最後か。あ、明日の朝で朝で最後か。前世の頃の食事に比べればかなり贅沢をしていたがそれともさようならになると寂しいもんだ。

 思いに浸っているといつの間にか食堂の前にたどり着いていた。ドアを開け俺は食事の席に着く。

 テーブルにはいつも以上に豪華な料理が並んでいる。これは料理長なりに俺への最後の手向なんだろう。俺は最後の夕食を楽しみながら食べた。

 俺は食事を終えて部屋に戻っていた。外はすっかり日が沈み、満月の明かりが部屋を照らしていた。部屋を明るくするのも面倒だったのでそのまま窓の近くに置いてある椅子に座り月を眺めていた。


 「はあ、明日から5日も馬車に揺られるなんて嫌だな〜。こればっかりは魔法でも対処ができないな。酔わない自分のイメージなんて絶対出来ない」


 試しに魔法陣を展開してやってみようと思ったが馬車もないし失敗した時のダメージが地味にでかいんだよな。

 明日も早いしもう寝ようと思い椅子から立ち上がると部屋のドアを誰かがノックした。俺はドアを開け誰が来たのか確認するとそこにはリリアが立っていた。


 「夜遅くにすいません。少し話があったので」


 そうか、と返事しつつリリアを部屋に通した。

 リリアは部屋に来たので蝋燭に火を付けて俺はベッドにリリアを椅子に座らせた。


 「それで話ってなんだ?」


 「はい…そのですね。アクシス様とこれでお別れになるじゃないですか、無礼を承知でお願いがあるのですが…」


 リリアは一度話を止める。彼女はいつになく歯切れが悪い。

 蝋燭と月の明かりしかないこの部屋でも顔を赤らめている事がわかる。


 「まあ、聞くだけ聞こうか」


 そう言うとリリアは少し嬉しそうに顔を綻ばせる。

 そこまで嬉しいのか。よくわからないが俺が出来る事ならやってやろう。


 「私と主従の契約を結んで頂けないでしょうか!」


 「…なんだ?それ」


 リリアが言った言葉に俺は首を傾げる。


 「私のスキルです。正確には私のスキルを使うために必要なことです」


 「なるほど。それで俺は何をすれば良いんだ?」


 「私のスキルは簡単に言えば自分が主と認めた人と契約することでその人を守ることが出来るというスキルなんです。そこでアクシス様を主としてお願いしたいんです」


 「ああ、そういうことか。いいよ。で、俺はどうすれば良いんだ?」


 「そこが問題なんです…」


 「問題?」


 「はい…そ、そのですね…自分の認めた人とキ、キスをしなくてはならないんです」


 顔を真っ赤にしながらリリアは蚊の消え入りそうな声で俺に言う。そしてすぐに俯いてしまった。

 なるほど、確かに問題だ。5歳とキスなんて出来たもんじゃない。かなり勇気のいることだ。それりゃあ緊張して顔も真っ赤になる。

 心の中でうんうん、と頷きながら俯いているリリアに話しかける。


 「別にそんなに緊張することじゃないだろ。好きな人とするわけじゃ無いんだから」


 「は、はい、そうですね!やましい気持ちなんて一切無いですから、大丈夫…です……」


 リリアはどんどん声が小さくなって行く。後半の方は辛うじて聞こえたぐらいだ。

 こういう態度をを取られると勘違いをしてしまいそうで困る。それに俺だって全く緊張していない訳じゃない。

 そのまま待っているとリリアは決意を固めた様に顔を上げる。


 「大丈夫か?駄目そうならやめとくか」


 「い、いえ大丈夫です。続けましょう。それでは少し準備をするので待っていてもらえますか?」


 「分かった」


 そう返事をするとリリアの足元に魔法陣とは異なる陣が出現する。


 「アクシス様、準備が出来ました」


 「じゃあ、始めよう」


 俺はそういうと目を瞑りそのまま待機する。今回は魔力も見えない様にしている。だが、ゆっくりと近づいて来ている事は気配で容易にわかる。

 そして二人の唇が重なる。リリアの驚くほど柔らかい唇の感触が伝わってくる。

 これが初めてのキスか。前世でもした事なかったのにまさか異世界に来て5年で経験ができるとは。異世界怖い。

 10秒ほど経った後リリアは唇を離した。目を開ける先程よりも赤くなったリリアと目が合う。リリアはすぐに俯き再び目を合わせようとはしなかった。

 ずっと黙っている様だったのでこちらから話しかける事にした。


 「えっと…契約は成功したんだよな?」


 人差し指で頬をポリポリと掻きながらリリアに問いかける。


 「はい、無事に成功しました………」


 リリアは少し顔を上げると俺に伝えてくれた。

 どんどん声が小さくなって行ったがひとまず成功した様で何よりだ。


 「あの、アクシス様。この事は旦那様には内緒にしておいて下さい」


 今度は顔を上げしっかり俺の目を見て伝えて来た。いつになく真剣な表情だ。


 「内緒にするって言っても明日には出発だから意味ないと思うが、良いよ」


 俺がの言葉を聞くと彼女は、ほっと溜息を吐く。


 「では、私はこれで失礼します」


 そう言ってリリアは部屋を出て行く。俺はベッドに寝転がると先程のキスの感触を思い出す。

 柔らかかったな…と呟く。

 最後の最後に忘れ様にも忘れられない記憶が出来てしまった。こういう時は寝れば万事解決。

 俺はそのまま目を瞑るが結局、小一時間は眠ることが出来なかった。


  *  *  *


 アクシス様の部屋を出て行くとすぐに自分の部屋に戻り、ベッドの上に座ります。先程起こった事を追い出して声にならない声を出しながらベッドに仰向けで倒れ悶えます。

 何をしているんですか私は!アクシス様にキスなんて失礼にも程があるでしょう。嫌われてしまったでしょうか?

 まあでもスキルを使うための契約なので仕方ない事ですよ。アクシス様も了承してくれましたし、これで離れた所にいてもアクシス様の行動が分かります。出来れば片時も離れたく無いのですが…

 アクシス様と一緒に行きます!と旦那様に言っても聞き入れてもらえなかったので見守るくらいなら怒られませんよね。

 私は忘れないように先程の事を思い出しながら眠りにつきました。


  *  *  * 


 翌日の朝、リリアが起こしに来てくれたのだが昨日の事を思いしてしまうので極力目を合わせない様にしていたら


 「アクシス様。昨日は申し訳ありませんでした…」


 と謝られた。ただ緊張して目を合わせられないだけなのだが…こんな事を言う事は恥ずかしい。


 「い、いや大丈夫だ。リリアが謝る事じゃ無い。そもそもスキルのためなんだろ、仕方ない事だ」


 そう伝えるとリリアは、ほっとした様に部屋を出て行った。着替えを済ませて部屋を出るためにドアを開ける。一度振り返りもう見る事はない部屋を目に焼き付けてから部屋を出て行った。

 食堂に行き父さん達と今度こそ最後の食事を済ませる。

 その足で玄関に向かう。先程リリアから馬車が着いたとの知らせがあった。玄関を出てそのまま門まで歩いて行くと馬車が門前で止まっているのが見えた。

 4頭立ての4輪大型馬車で大人なら10人、子供なら15人くらい乗れそうな感じだ。その後ろには荷馬車が並んでいる。

 魔力を視える様にし中を確認するが客車の方は誰も入っておらず、荷馬車の方は中身が食糧で一杯だった。

 護衛は前に5人客車と荷馬車の間に5人一番後ろに5人の合計15人が隊列を組んで並んでいる。


 「あれが迎えの馬車ですか?」


 念のために父さんに聞いてみる。


 「そうだ。あれに乗って行くんだ。しかし今回は護衛が多いな」


 門を出て馬車の前まで行くと御者の人がこちらに挨拶をした。挨拶を返すと自己紹介をしてくれた。どうやら王様の側近の人の1人らしい。荷馬車の方の御者はずっと座っている。

 父さんが御者の人に護衛の多い理由を聞いている。理由としては俺が乗るから出そうだ。一応貴族だからという待遇が入っているとの事。元じゃないのかな、俺って。

 そんな事を考えていると父さん達の方の話が終わった。次に俺に御者の人が近づいて来た。俺の目線の高さまで屈むと、


 「それでは、そろそろ出発致しますのでお乗り下さい」


 そう言って御者の方が後ろの板を下ろし登りやすくしてくれる。俺は乗る前に父さん達に振り返り、


 「父さん母さん、リリア。今までありがとう」


 一言だけ、そう伝えると急いで馬車に乗った。父さん達も何か言いたかったんだろうけど俺は辛気臭いのが嫌いだから。

 扉についている小窓を見ると母さんとリリアは涙を流しながら手を振っていた。父さんは目に涙を溜めていたが流す事なく笑顔で手を振ってくれた。

 俺も小窓から顔を外に出し前世も含めて最高の笑顔で手を振り返していた。小さくなってもずっと手を振っていた。

 父さん達が見えなくなると顔を引っ込めた。馬車の中はかなり広いがまだ誰1人いない。

 舗装された道路なのでまだ揺れは少ない。念のためにこの旅は魔力を視える状態を維持していこう。


 「そうだ。これを付けてもらってもよろしいですか?」


 御者が前を向きながら俺の方に何か投げてきた。俺は上手くキャッチするとズッシリとした重みがあった。手の中の物を見てみるとそこには金属製の首輪があった。


 「首輪ですか。一体何の為に付けるんですか?」


 「何の為…何の為なんだろう?申し訳ありませんが私も詳しくは聞かされていないんです。でも昔からそういう規則でやって来ているので付けてください」


 「まあ、良いですけど…」


 そう言って俺は首輪を二つに割り左右から挟み込みようにして嵌める。

 その瞬間首輪が黒く光り始めた。

 何だこれ?何かの演出か?

 しばらくそのまま時間が過ぎる。だが特に体に目立った変化は表れない。『魔力感知』を使い魔力核を確認するがこちらも特に変わった様子はない。

 一体何だったんだ。そうだ、御者にきけば何か分かるかも。

 俺は御者の近くまで行き声をかけた。


 「あの、この首輪光ったんですけどなんか意味有るんですか?」


 「それですか?確か重さを感じさせなくするらしいですよ」


 「そういう事ですか。確かに重さは感じないですね。ちょっと首が動かしづらいけど…」


 首を左右に動かして可動範囲を確認するが首輪が引っかかる事が以外は問題は無さそうだ。

 それよりもずっと街道沿いを真っ直ぐに進んでいるのだが何処に行くのか聞いていなかった。


 「今は何処に向かっているんですか?」


 「今はネストって言う次の呪い子(イクス)が居る街に向かっています。確か、半日くらいかかります」


 どのくらい時間がかかるのか聞いていないのに教えてくれた。なんて便利…じゃなくて心遣いの出来る人なんだ。流石、王様の側近。

 それよりも次の街まで半日か。今は朝だから昼過ぎくらいには着くのだろう。多分。


 「はあ、結構遠いんだなぁ…」


 独り言を呟きながら馬車の外の景色を眺めている。

25話目の投稿になります。作者の霊璽です。

今回で十万文字超えたのかな?多分超えているでしょう。普段長続きしない僕がこれだけで続けられたのは読者の皆さんがいたという事ですね。いなかったらやめていたでしょう。

これからもどうかこの作品をよろしくお願いします!

それではまた次回の話で………

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