領都から村まで その2
リリアと向き合った俺はいよいよ頭を抱えていた。本当のことを話すにしても家の外に出たなんて言ったら絶対怒られるよな。俺がいつまで経っても話さないことに痺れを切らしたのか
「どうしたんですか?アクシス様。早く話して下さい」
仕方なく俺は真実を話す事にした。ここで嘘をついても証拠を出せとか言われたらお終いだ。まあ、結構自然と嘘はついているんだが
そんな事を考えながら俺は口を開く。
「俺が転移の魔法を使えるのは知っているな」
「はい。王都で一緒に家まで転移しましたから」
「それを使って外に出てその本を買った」
「買ったってどうやってですか?アクシス様、お金は持っていませんよね?」
「それは魔法で作っただけだ。気にするな」
「どうやってですか?お金を魔法で作るなんて聞いたことありませんよ」
「実演した方が早そうだな」
俺は手を開いて出しその上に魔法陣を展開する。前にやったようにそこに小銀貨を作り出すイメージをする。そうすると魔法陣から小銀貨が生成されて行く。
リリアは唖然としていたのでリリアの手を取りその上に小銀貨を置く。
「どうだ?本物だろ」
俺がそう聞くとリリアは手に置かれた小銀貨を少し眺めて納得したように頷く。
「ええ、確かに本物ですね。ですがこの様な魔法は見た事も聞いた事も有りません。一体何処でこれを知ったのですか?しかも無詠唱でなんて…」
あ、墓穴を掘った。まずいまずいまずいまずい、なんとか誤魔化さないと。
「まあまあ、話を戻そうじゃあないか!」
無理矢理話を戻そうと大声で俺がそう言いながら手を出すとリリアは小銀貨を返してくれた。だがリリアが俺を疑っている事に変わりない。しかし、そんなこと聞かれてもなんて答えればいいか分からない。だから先手を打つ。
「ひとまずその本を返してくれ」
「まあ、嘘をついている様には見えませんし…分かりました」
リリアは俺に本を返してくれた。よくあれで納得してくれたな。街に行った方法だって転移じゃないし。まあ、リリアが知らなくてよかった。街にデカい穴があるって事を。
俺は受け取った本をパラパラと捲りながら中身が破れていないか確認し、特に傷が無かったので本を閉じる。
「ところでアクシス様。先程の小銀貨を生み出す魔法の件についてですが―」
「悪りぃ、俺用事を思い出したから。それじゃあ、『転移』」
どうにも言い訳が思いつかないので転移で逃げる事にした。もちろん転移先は裏庭だ。
転移の魔法を使うと目の前が真っ白になり、俺は裏庭にやってきた。本を横に置きそこで仰向けに寝転がった。
だがこれも一時凌ぎにしか過ぎない。この間に言い訳を考えなければ…うーむ、どうしたものか?
頭を抱えて悩んでいるが、いくら考えていてもいい案が浮かばない。いつもなら、いや前世なら自然と言葉が浮かんで来たんだが。それが本当だろうが嘘だろうがな。
つまりバレなければ全て問題無い。バレた時はかなりやばくなるが…
「まあ、その時はその時だ。今はリリアから逃げることに専念しよう」
多分ここには来ないと思うが。誰も俺が一人になりたい時に来るって知らないはずだし。
そう思って空を眺めていると、誰かが俺の名前を大声で呼んでいる。聞き覚えのある声だ。
「アクシス様。何処ですかぁ?」
俺は急いで魔力を視える様にする。少し離れた所に見慣れたシルエットが映る。
何故だ。何故リリアがここに居る。
くそ、どうする。もう一回違う場所に転移するか?だが、何処もイメージが出来ない。焦ると人って本当にダメだな。昔はもっと冷静にものを見ることが出来たのに…
そんな事を考えながら頭を抱えているとある事を思いついた。前回一回だけやったやつだ。
気が付けばリリアがもうすぐそこまで来ていた。
上手くいくか分からないが、とりあえずやろう。
俺は魔法陣を展開しある事をイメージをして魔法を使う。
詠唱はしない。声で居場所がバレるかも知れないからだ。
魔法を発動させてすぐにリリアが俺のいる場所を見に来た。
「おかしいですね?この辺にアクシス様の気配を感じたのですが…」
オイオイ、嘘だろ。俺の部屋からここまで結構な距離あるぞ。なんで気配が分かるんだよ。
俺は心の中で驚きの声を上げる。
俺はずっと息を潜めている。流石に今声を出すとリリアにバレかねない。
「この場所ではありませんでしたか。一体何処に行かれたのでしょう?」
そう言いながら、リリアは来た道を戻って行く。
十分にリリアが離れた事を確認してから魔法を解除する。
俺が使った魔法は不可視の魔法だ。
俺はリリアからの認識を外れたのだ。勿論、魔力からの視認も逃れることに成功した。
更に俺はリリアに気付かれない様に出来るだけ壁に張り付いていた。だから、結構疲れた。声を出さず、物音一つ立てない様に頑張っていたから神経が削られかなり疲れた。
部屋に戻って寝ようにもリリアが帰ってきたら叩き起こされて質問攻めに遭いそうだし。ここは街にでも行って時間を潰すか。
俺は足元に魔法陣を展開し「飛行」と詠唱し、空に浮かび上がった。
人が米粒程の高さまで上昇し練習の時の感覚を思い出しながら、街の方へ飛んで行く。今回は特に目的も無いので適当に空を飛ぶ。
一番最初に訪れた店はあっという間に通り過ぎて更に家から離れていく。
気が付けばいつの間にか領都の端の方まで来ていた。俺は一度そこで止まり少し降下する。
前回は落下しているだけで街の端の方は見ていなかったので目の前にして少し驚く。城壁の門をの先には舗装された街道が通っているがちょっと先を行けば森が広がって居る。
俺は森の方に飛んで行き、人がいないことを魔力の流れで確認し、地面に降り立つ。周りを見渡せば木、木、木!まあ、森なんだから当たり前なんだろうけど。日差しは生茂る木々の葉によって遮られており少し暗い。陰気な雰囲気を醸し出している。
散歩がてらの探索を始める。腰の位置にある小枝がたまに引っかかり、イライラすること以外はさほど何かが起こるわけでもなく順調に歩いていく。
しかし、驚くことに一度も魔物と会わない。小動物程度なら足元を通り過ぎて行ったりしているがオーガやオークの様な巨大なタイプの魔物を見ない。
流石に領都の近くは危険がないように狩り尽くされたか。もう少し奥に行こう。
そう決意し、森の深いところまで進んで行く。奥に行けば行く程森は薄暗く不気味な雰囲気を醸し出している。
魔力を視える様にしているのは疲れるので解除していたのが失敗だった。周りを警戒しながら歩いていたのだが気付くのが遅れ、目の前に巨大な何かがいる事が分からなかった。
「ガァァアアアッッ」
突然、目の前に怪物が現れ咆哮する。あまりの大きさに耳を塞いでもまだ聞こえてくる。
デカい。2メートルぐらいある。筋骨隆々で片手には錆びた大剣を持っている。ひとまず後ろに下がって距離を取ろう。
怪物との距離を取るため後ろを向いて走る。勿論、見逃してくれるはずも無く追いかけて来る。木にぶつかっているのだが簡単に折れるて吹っ飛んでいく。
「くそっ、足速いなっ!おい」
俺は結構本気で走っているつもりなのだが怪物との距離が一向に離れない。しかも走っていると小枝がちょくちょく足に引っかかったり、顔や腕に当たり速さが阻害される。
もう良いや。引き離す事出来なさそうだし。そう思い俺は立ち止まると怪物も俺の目の前で止まる。
「ガァアアアッ!」
怪物は俺に向けて咆哮しながら片手に持っている大剣を振り下ろしてきた。
俺は咄嗟に横に転がり上手く剣撃を躱す。
怪物は勢いが強すぎたのか剣が地面にめり込んで抜けなくなっている。
「こいつ阿保だな」
俺は怪物を見ながら高笑いする。笑い声に気づき怪物がこちら向き怒り狂った様に今までで一番大きな咆哮をする。大気が揺れ木々がざわめく。
「うるさっ!」
俺は急いで耳を塞ぎながら怪物の方を見ると大剣は地面から抜けておりこちらにゆっくりと近づいて来る。
耳を塞ぐのが少し遅れたので耳鳴りがし、脳震盪を起こし上手く立つことが出来ない。
俺がそうこうしている内に怪物が俺に向けて再び剣を振り下ろしてきた。今度は避けることが出来なくそのまま俺を斬り裂いた。
いや、斬られるはずだった。俺は斬られるどころか切り傷一つ出来ていない。逆に怪物の剣が根本からバキリ、と折れて地面に転がっている。
あ、そうか。俺結構頑丈だったんだっけ。
脳震盪がようやく治り立ち上がることが出来た。武器を失ってもまだ戦うのか。
「ガァアアアッ」
怪物は右の拳を握り締めて俺に向けて突き出す。俺は片手を前に出して受け止める。
「オイオイ、危ないじゃないか」
俺は怪物が反応出来ない速度で怪物の拳を殴る。怪物の右腕が木っ端微塵に弾ける。怪物は膝をつき肩口からは体量の血が溢れ出る。
「ガァァアアアッッ!」
怪物は再び立ち上がり俺に向かって残された左手で殴ってきた。俺は先程と同じ様に左腕も木っ端微塵にする。
両腕がなくなった怪物は地べたにうつ伏せに倒れた。俺は怪物の頭に足を乗せて潰さない程度に徐々に力を入れる。
「まだ潰れないか。ならもう少し力を入れてみても問題無いよな」
グググッと足に力を入れた瞬間、グチャっと頭が潰れてしまう。脳が弾け飛び血が首から溢れ出る。両腕がないせいで血はすぐに止まってしまう。
「ああ、汚れちまった。このまま帰ったら色々怒られそうだなぁ」
俺は血のついた服を見て溜息を吐く。いつの間にか怪物との戦闘で辺りは木々が吹き飛び暗かった森は俺と怪物の死体がある場所は日が見えている。
血のついた服をどうしようか悩んでいると近くの茂みでガサガサ、と音がした。
俺はそちらに振り向き魔法陣を展開しておく。魔法は氷魔法をイメージしておく。
森で炎なんて使ったら大変な事になるからな。
「誰だ!そこから出て来い!」
俺が茂みに向かった叫ぶと人影が動いた。すっと立ち上がりこちらに歩いて来る。
「やっと見つけましたよぉ。アクシス様」
「り、リリア!何故ここにいる!どうやって俺の居場所を!?」
現れたのはリリアだった。メイド服は汚れ、纏まっていたはずの綺麗な黒髪は木に引っかかったりしてやや跳ねたりしている。
「何故って、あなた様を探しに来たからに決まってるからじゃないですか」
茂みから出て服装や髪の毛を整えながらこちらに向かって歩いて来る。
「だが、ここから家まではかなりの距離があるはず…一体どうやって?」
「そういえば、アクシス様には伝えていませんでしたね。実は私魔眼持ちなんです」
そう言ったリリアは一度瞬きをすると次の瞬間にはの瞳の中には魔法陣が描かれていた。
確かテオスが前にこの世界には魔法とは違う魔眼という特別な力を持つ者がいるって言ってたな。の一人がリリアだということか。
「私の魔眼は『探索眼』と言って探したい人を強く考えることでその人がどこに居るのか場所が分かるというものなんです。これを使ってアクシス様を探し出しました」
なるほど。『探索眼』か。確かに普通に魔力のオーラを辿って人探しをするよりは楽だな。
それに俺が裏庭に居た時にリリアがあそこに来た事にも合点がいく。不可視の魔法で見えなくなっていたから確実な場所が分からなかったんだろう。
「ひとまず無事で何よりです、アクシス様」
リリアは俺に近づくとギュッと抱き締めた。何故だかとても落ち着いた気持ちになる。
さっきまで何処までしたらあの怪物が死ぬのか、なんていう考えは何処かへ消え去っていた。
しかし少し苦しいな。力強く抱き締められていることと柔らかな2つの果実を顔が覆う様に押し付けられて息苦しい。
「ちょ、ちょっとリリア、苦しい」
「ああ、申し訳ございません。取り乱してしまいました」
リリアがパッと俺から離れた。リリアのメイド服には俺の顔に付いた血が写っていた。
「おい、服に血が写ってるぞ」
「私の服は大丈夫です。それよりもこの血どうしたんですか?アクシス様のものでは無いですよね」
リリアはそう言ってポケットからハンカチを取り出し俺の顔に付いた血を丁寧に拭き取る。
「この血はそこに転がっている肉塊のものだ」
俺は親指で怪物も死体が転がっている方を指す。指を指された方をリリアが見ると顔をしかめる。
いかにも信じてない様子だ。
「あれを、もしかしてアクシス様が倒したのですか?」
「ああ、そうだ。頭を踏み潰したら結構気持ち良かったぞ。グチャって感じが」
リリアが怪物に近づき死体を観察し始めた。少しの間、観察していたが俺の方に戻ってきた。
「とてつもない力で両腕が引き千切られているのですがこれもですか?」
半分呆れた様な目で俺を見つめて来る。
「はい…そうです」
「相変わらず馬鹿力なんですね」
「やっぱり覚えていたのか」
「ええ、それは勿論です。アクシス様がいつ何処で何をしているのか完璧に把握していますので」
真顔で言うリリアに少し引いてしまう。
まさか俺が街に行っていたことも知っているのか?流石に怖くなってきた。
「しかし、オーガまで倒せるなんて…」
「ん、これオーガなのか?」
「はい。オークよりも強く人を襲い喰らう化け物ですよ」
そうか、と頷きつつ死体を眺める。これがオーガか。意外に弱かったが黙って置こう。
それよりもオーガって人を食うだな。まあ、確かに人って食べてみたいと言う好奇心には駆られるが多分、前世でこんなことばっか言っていたからサイコパスとか言われたんだろうな。
「それよりもアクシス様、早くこの場から立ち去りましょう。他の魔物が来ないとも限らないですし、他の人がアクシス様を見たら大変なことになります」
あ、そうか。俺今髪白色のままだった。
人の目が届かないぐらいの高さで空を飛んで来たから気付かなかった。
「よし、それじゃあリリア転移するのと空を飛ぶのどっちが良いか選んで」
「え、えっと…どういう事でしょうか?転移は一回王都でしてもらったので分かりますが空を飛ぶというのは…?」
「そっか。まだリリアには見せていないんだったな。それじゃあ飛んで行くか。はい、じゃあ捕まって」
俺はリリアに両手を差し出す。言われるがままリリアは俺の手を掴んだ。
「じゃあ行くぞ。『飛行』」
俺は詠唱をし空に浮かぶ。俺が先に浮かび上がり、リリアは両手をギュッと掴んで浮かぶ。
「ア、アクシス様…その、これ辞めませんか?」
「え、なんで?」
俺はよく分からず首を傾げる。だが、リリアの手からは小刻みに振動が伝わってくる。
あ、もしかしてリリア高い所が苦手なのか?これが本当なら少し申し訳ない様なもう少し虐めたい様な。
俺は一度地面に降りる。リリアはほっとした様に胸を撫で下ろしていた。
「両手を掴んでいるだけというのが心許ないって事だろ。じゃあ俺に抱きつけ。それなら怖くないだろ?」
「え、でも、それは…どうしましょう?アクシス様を合法的に抱き締めることが出来るという事ですよね?」
最初の戸惑いの声は聞こえたが後の方は小声でよく聞こえなかった。
リリアはずっと悩んでいて決まりそうに無かった。一体何をそんなに悩む事があるんだ?
俺はこのままではいつまでも決まりそうにないと思いリリアに声をかけた。
「もういい。ほらそれじゃあ行くぞ。」
「ちょ、ちょっとアクシス様!?」
俺はリリアの腰の辺りを掴み、そのまま飛行魔法で浮かび上がる。
リリアの顔は赤くなり、素っ頓狂な声を上げる。
そんな事はお構い無しに俺はそのまま高度を上げ人が豆粒程度に見える高さまで上がると家の方に向かって加速する。
リリアとの身長差で前が見えない状況なので魔力の流れに意識を集中させて目を瞑って飛行している。何故目を瞑っているのかといえば目の前にリリアのアレがあるからだ。
当たらない様に手は伸ばしているが腕の長さが短いのでたまに柔らかいものが顔に触れてこちらまで恥ずかしくなる。
「はぅう…私今、アクシス様と二人きりで空を…少し怖いですけど、でもこれはこれでなかなか…」
リリアは何かずっとボソボソ言っていたが風切り音でよく聞こえなかった。大方、高すぎて怖い、とでも言っているのだろう。
もう家は見えてきたのでリリアに声をかける。
「リリア、そろそろ家に着くけどこの事は父さん達には内緒にしてくれ」
「はぁはぁ、アクシス様に抱えられて…」
確実に俺の声が聞こえてない。リリアが何を言っているのかも聞こえない。もう少し声張らないとダメか。
「リリア!そろそろ家に着くけど!この事は父さん達には内緒にしてくれよ!」
「は、はい!」
今度はちゃんと聞こえていたらしくちゃんと返事してもらえた。
なんか顔が赤いが熱でもあるのか?まあ、家に帰れば自分でなんとかするだろう。
そうこう考えているうちに家が見えてきた。俺はそのまま裏庭の方に回り、降下した。
「リリア、着いたぞ」
「は、はい。ありがとうございました。それでは失礼します」
「さっきの事ちゃんと約束してくれよ」
「はい。承知いたしました」
リリアはそう言いながら俺の方に腰を折り一礼しフラフラしながらそのまま部屋に戻っていった。
「さて、俺も部屋に戻るか『転移』」
俺は部屋に転移しそのままベッドに寝転がる。
いや〜でもリリアが硬貨を生み出す方法の事忘れてくれた様で助かった。もう疲れた。眠いし、一度眠ろう。飯になれば呼びに来るだろう。
だんだん重くなる瞼に抗えず目を閉じ泥の様に眠った。
24話目の投稿になります。作者の霊璽です。
今回はかなり長く書きました。なぜかと言えば特に理由はないですがコロナで暇なので気付いたらこんなに長くなっていました。
今回の話ではオーガという魔物を出しました。調べたら人喰いの化け物らしいですね。これからも出す時はこういう設定でいこうと思います。
ちょっとずつサイコな一面を出しているつもりなんですけどこれから話が進んで行くにつれて増やしていくつもりなのでお楽しみ〜
それでは長くはなりましたがまた次回の話で……




