最後の時間 その2
やって来たのは俺が白髪だとバレた魔法訓練場だ。中では何人かのローブを着た人が魔法の練習をしていた。
王子様とルナが訓練場に入って行くと全員練習を一旦やめて挨拶をした。そしてすぐにまた練習に戻った。俺はその時を見計らって訓練場に入って行く。
「おい、何をやっている。早く来い」
厳しい口調で王子様は俺に言ってくる。はいはい、と小声で言いながら歩いて行く。訓練場の半分ほど空いている方に行く。俺はてっきり魔法で勝負をするのかと思ったら王子様の片手には模擬戦用の木剣がある。ルナが俺の方に歩いて来て俺にも木剣を差し出す。
「どうぞ、受け取ってください」
「ありがとう」
俺はルナにそう言って剣を受け取る。肩を慣らすために適当に軽く振り回す。うん、なかなか軽い。軽すぎるくらいだ。しかし、この決闘のルールを聞いていないな。
「ところで、この決闘のルールはどうなっているんですか?」
「そういえば、貴様に言っていなかったな。ルールは戦闘不能になるか負けを認めるかのどっちかでそれ以外は特に無い」
そう言うと王子は剣を構える。鋭い目つきで俺を睨んでくる。これ確実に殺す目だよね。
俺は戦いたくないから剣は下ろしたまま焦った声で王子様に訴える。
「ちょっと待って下さい。この決闘をやる意味って何ですか?」
俺がそう聞くと王子は剣を下ろした。そして苛立った様子で俺に言ってきた。
「貴様はルナに魔法を教えたらしいな。それが本当なのか実力を確かめるためだ」
「そんな事ですか!?」
「そんな事とはなんだ!ルナの成長を一つでも見逃した事が問題なんだ!」
あ、こいつシスコンだ。ダメだこりゃ。そう思い俺は無言で剣を構える。俺を見た王子も剣を構える。
「やっと戦う気になったのか、捻り潰してやるから覚悟しろ」
「最後に一つだけ。魔法は使っていいのですか?」
「いいだろう。俺は年上としてのハンデで魔法は使わずにいてやる」
こいつ俺がルナと同い年だからそんなに魔法は使えないと思ってやがるな。ならこちらも全力で潰しに行くだけだ。
「何処からでも来ていいぞ」
王子は剣を構えた状態で俺に言ってくる。しかし、俺は剣の構えを解き、剣を下ろす。
「どうした、怖気付いたのか?」
「いいえ全く。ただ、決闘をする時は名を名乗るものなのでは無いのかな、と思っただけです」
「確かに決闘の時は名乗るか。なら貴様から言うといい」
納得したように頭を縦に振る。構えを解いて剣を下ろし、俺と向き直る。
「いや、人に名前を聞く時は自分からですよ」
「いいだろう。私の名前はフルスト・フューリア・レギンス。この国の第一王子だ」
「僕はアクシス・フォン・ガーディナです。ガーディナ家の長男です」
「なるほど、剣聖の息子という訳か」
「はい。まあ、そんな事より自己紹介も済ませたので早くやりましょうか」
「いいだろう。さあ、来い!」
フルストが叫んだが、俺は剣を構えずに剣を支えとして寄っ掛かっている。手を使って挑発する。
王子が俺に一直線に向かって来る。俺は剣を構えるのをやめ、剣先を下に下ろす。それを見た王子は激昂して走っている足を早める。
上に振りかぶった剣を振り下ろして来る。俺は剣は使わずに剣を持っていない方の手で受け止める。
「なっ!?」
フルストは渾身の一撃を片手しかも素手で受け止められたことに驚いて間抜けな声が出ている。
「なんだ。大口を叩いた割に弱いですね」
俺はそう言って剣を離す。実際握り潰す事もできたが、敢えて手を離す。フルストは距離を取るために後ろに下がる。
「き、貴様何故手を離した!ふざけているのか!」
「いえ、至って真剣ですよ」
そう言って俺は今度はちゃんと剣を構える。そして離れた間合いを一気に詰める。上から下に振り下ろすだけの単純な攻撃をする。反応できていないフルストは少し遅れて剣で防ごうとするが俺の方が速く、フルストの頭の上数センチのところでで止める。
「は、速い!」
驚きのあまりにルナの口から本音が漏れている。フルストも唖然としている。
俺はフルストの頭の上で剣を止めた状態で問いかける。
「あの、これで決着がついたという事で良いですか?」
フルストは俺の問いかけでようやく何が起こったのか理解できたらしく俺の方を向いて
「いや、もう一回勝負だ!私も油断していたのだ。次こそは勝つ!」
「分かりました。では、お互い全力でやりましょう。ハンデもなしです。フルスト様も魔法をお使い下さい」
「いいだろう」
フルストの顔を見る限り不満しかないように見えるが俺だった不満はあるんだ。そこは黙っててもらおう。因みに俺の不満だが決闘って一回だけじゃ無いのかなというだけだ。
そんな事を考えながら最初の立ち位置に戻る。フルストが戻ったところで俺はもう一度剣を構える。今度のフルストは剣を下げて剣を持っていない方の手を前に出す。
「炎よ、目の前の敵を燃やし尽くせ!火炎放射」
フルストは、開始の合図を待たずに魔法の詠唱をし、突き出していた手からの魔法陣が展開。その中から炎が火炎放射のように勢いよく吹き出してきた。
「おいっ、まだ開始していないぞ!」
俺は炎を避けながらフルストに向かって叫ぶ。
「それがどうした。勝つためだ。燃え尽きろ!」
何を言っても聞かない様子だ。どうしてそこまで勝つ事に必要以上に拘るんだ。俺は無詠唱で魔法陣を展開しフルストの炎を水で掻き消すイメージをする。そして魔法陣に魔力を込め水を放射する。炎と水で相殺する。
「なっ、相殺しただと!馬鹿な、俺より年下のくせに何故だ!」
「今度は別のいきますよ!衝撃波」
俺は手を前に出して魔法陣を展開し、フルストの脳を揺さぶるイメージをして魔法を放つ。魔法陣から放たれた魔力の衝撃波がフルストの頭に直撃し膝をついて地面に倒れる。
「おっと、本気でやり過ぎたか?」
俺はフルストに近づいていき生きているか胸ぐらを掴んで顔を軽く叩いて確認する。魔法の加減はしたつもりだったんだが呼吸はしているので気絶しているだけのようだ。
「お兄様!大丈夫ですか!?」
倒れたフルストに駆け寄って来る。俺は胸ぐらを掴んでいた手を離し、ルナに向き直る。
「大丈夫だ。気絶してるだけだし。何なら無理やり起こす事もできるが?」
ルナに聞いたが首を横に振り大丈夫だと思います、と言ったので起こさずこのままにしておいた。とりあえず、訓練場の隅で寝かせておかないと他の人に邪魔だ。俺はフルストを持ち上げて隅の方に運ぶ。後ろには心配そうな顔をしているルナがついて来ている。
「あの、アクシス様はどうしてあんなに魔法が使えるんですか?」
「さあ?何でだろうな」
「誤魔化さないで下さい!」
誤魔化すなって言われても前世の記憶が強いイメージとなっている事とテオスが俺の身体能力やらを普通の人間じゃなくした事が原因なんだが言っても信じないだろう。どうするか…
俺はこの質問を回避する方法を考える。俺は周りを見渡しながら考える。そうか、ここは魔法訓練場だ。なら簡単だ。
「それよりも、魔法の練習をしたらどうだ?」
「そうでした!私、頑張ります!」
ルナはそう言って的のある方に向かって魔法陣を展開しようと目を瞑る。しかし、いつまで経っても魔法陣は展開されない。
「おい、何をしているんだ?」
「何って魔法の練習以外に何がありますか?」
目を瞑ったまま俺に答える。俺は魔力が視える目に切り替えるがルナの周りで魔力が動いている様子が全くない。
「いや魔法陣でてきてないぞ」
「う、嘘ですよね?」
ルナは俺が言ったことを嘘だと思い目を恐る恐る開ける。もちろん魔法陣は出ていない。
「どうして…さっきは出来たのに…」
「それはお前の問題だ。俺が同行できる事ではない。アドバイスを与えるとしたら…出来るだけ過剰にイメージする事だな」
「過剰に、ですか。やってみます」
ルナは再び目を瞑る。今度は周りの魔力が動き出し、かなり、でかい魔法陣を組み上げていく。これちょっと大きすぎやしませんかね。
「お、おい、今何を考えている?」
「そうですね…さっきお兄様が使った魔法より大きい炎をイメージしています」
ルナは目を瞑ったままなので平然と答える。周りの魔術師も少し騒ぎ始めてきている。魔法が使えないはずの王女が無詠唱で大魔法並みの魔法陣を展開しているんだ。仕方ないとは思う。俺はいつでもルナの魔法を消せるように水魔法の準備をする。
「えっと、お兄様は確か……そう!火炎放射です!」
ルナがそう言うと魔法陣が起動しフルストが使った魔法の3倍の大きさの魔法が放たれる。的はいとも簡単に燃え尽き、壁にぶち当たる。このままだと壁を覆っている魔法障壁が突破されて建物に炎が燃え移ってしまう。水で掻き消すだけじゃ間に合いそうにない。術者の方を止めるか。
「ルナ、もういい!魔法をやめろ!」
「私、魔法使えているんですね!」
今がどういう状況なのか見えていないルナは呑気に答える。
「ああ!使えているから目を開けろ!」
俺が叫ぶとルナは目を開ける。
「す、すごいです。これ私がやったんですよね!」
「そうだ。それより早く止めないとこの建物が燃えるぞ!」
「えっと、どうやって止めるんですか?」
「イメージするのをやめるんだ。そうすれば、自然と魔法は消える」
「じ、実はですね。もうイメージしていないんです。何故かずっと燃えているんです」
マジかよ。意識しないと魔法が使えないのに使えたら無意識に魔法が続くのかよ。厄介だな。しかし、こんな事をしている間にも障壁の耐久値がどんどん下がっていっているだろう。仕方ない。こうなったら…
「ルナ、すまん!」
俺はそう言ってルナの鳩尾を殴る。ルナは気絶し、魔法は止まった。俺はルナが起きるイメージをし魔法陣を展開してルナを起こす。
ルナは起きてすぐに俺に文句を言ってきた。
「どうして急に殴ったんですか!?」
「そうでもしないと止まらなかったからだ」
俺がそう答えると黙った。まあ、今回は俺の責任もあるだろう。過剰にイメージしろと言ったのはよくなかったか。ま、謝るつもりはないがな。俺が悪いと気づいていないなら黙っているのが一番だ。
「魔法は使えたんだしよかったんじゃないか」
「そうですね。私ももっと練習してあなたみたいな魔法が使えるようになります」
「ああ…まあ頑張れ」
俺はそう言ってその場に座り込む。なんか疲れたな。まあ、こういう事ももうなさそうだしな。いい思い出になった。
「大丈夫ですか?」
急に座り込んだ俺に対して心配してルナが声を掛けてくる。
「大丈夫だ。それより魔法の事だが、こういう風に単発の魔法の方がいいかもな」
俺は無詠唱でファイアボールを放つ。20メートルほど先にある的に当たった。
「分かりました。やってみます」
ルナはそう言って的に向き直る。俺は疲れたので少し休憩する事にした。
21話目の投稿です。作者の霊璽です。
そろそろ幼少時代も終わりそうな気がしないでもないですね。幼少時代が終わった後の話も考えているのでお楽しみにって感じです。
それより後書きって誰か読んでくれているんですかね。そこら辺が気になります。まあ、読んでくれている人がいなくても書き続けるだけなんですけど。
唐突に終わりますが、それではまた次回の話で……




