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恋なんて知らないハイエルフですが、種族関係なく恋を成就させることになりました  作者: 角松
種族の壁を越えて

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愛の詩を贈ろう⑨

「お待たせしましたー」


 教会から出てきたラミアは美しかった。

 ラミアの瞳と同じ深い青のラインが入った修道服に、輝く金色の髪を包むベールが整った顔立ちを強調している。

 その両手はアルノとアーミアに繋がれ、さながら人々を優しく包み込む聖母のようだった。

 レーベンはデートのことなど忘れ、その見目麗しい神官にしばし目を奪われた。


「レーベンさん今日はいつもと違いますねー」


 レーベンはぼんやりと見つめていた自分にハッとして気を取り直す。

 そう、今日はデート。

 服を買い替えるような余裕はなかったが、汚れたマントは時間をかけて洗ったことで少しはマシになっただろう。つばの広い帽子に付けている飾り羽も、パルマの案で最近流行りのレッドホークの赤い羽根を付け、目を引くデザインにしてもらった。

 背に背負うリュートは磨いたことで元の金色を少し取り戻していた。

 それらすべてが自分を魅力的に見せるために必要な事だ、とパルマは言った。

 少し打算的で、気の強いハイエルフ。しかし今は彼女を信じてみよう、覚悟を決めてラミアへ向き合う。


「で、では行きまし……」

「ねぇお腹すいたー」


 詩人の覚悟などお構いなしに、アーミアがラミアの手を振り回して甘えた口調で訴える。

 アーミアの兄であるアルノは敵意を隠さずレーベンへ冷たい視線を向けていた。

 男同士、考えはお見通しだと言わんばかりにラミアの手を守るように強く握る少年の目は、レーベンの心を動揺させた。


「みんなで屋台を見てみましょー、アーミアの好きなクッキーもあるかもですねー」


 無邪気なアーミアが喜びの声を上げてキンド大通りへ繋がる道を駆けていく。

 そしてライバルである詩人から引き離そうとしているのか、ラミアも引っ張られていく。

 レーベンにこの関係性に入るほどの度胸はない。

 置いてけぼりをくらったように気まずい表情で見ていた彼に、ラミアは振り返った。


「さぁ、レーベンさん。一緒に楽しみましょー」


 平等に向けられる笑顔、自分だけの特別ではない普遍の愛情。

 その優しさが胸をチクリと痛ませる。


 ──でも、その優しさが彼女のいいところだ。


 この街にも長居しすぎた。

 師匠のように吟遊詩人として世界を回り、後世に残る物語を紡いでいきたい。

 だからこそ今日、想いを伝えて前へ進む。

 卑屈な考えかもしれない。しかし神官である彼女の優しさに甘え続けた自分には、吹っ切るためのきっかけになるだろう。

 詩人として生きることを決めたレーベンにとって、ラミアという存在は複雑な思いを抱かせる存在でもあった。

 自分がずっと前に捨てたと思っていた家族の暖かさを、憧れに変えられてしまいそうになる。

 根無し草の自分には縁のなくなったと思っていた世界に。

 今日を最後にこの街を離れよう。

 そう決めたレーベンはラミアたちを追いかけるように歩を進めた。


 ―――――――――


 傾き始めた陽がキンド大通りを朱に染め始めていた。

 普段よりも往来の増えた通りを挟むように、

 小麦の香りを漂わせ、色とりどりのパンが並んでいたり、サファイアの埋め込まれた美しいペンダントが目を引く派手な装飾店など様々な屋台が立ち並び始めていた。

 ダイバテインに住む多くの種族が道を埋め尽くし、祭りを楽しんでいた。

 その中でひと際目立っていたのは『愛の教会出張所』と書かれた木の看板を掲げたシルバだ。

 ただ大きいだけではない筋肉質の体を意図せず見せつける無表情の騎士に、すれ違う女性たちの黄色い声が上がる。

 その傍では両手に商品である腕輪を持ったディンが通行人へ掲げるように喧伝している。


「さあさあ寄ってらっしゃい! これが王都でも大大大人気の『聖なる腕輪』! 着ければ神の力で心も体も元気になるんじゃ! そこのお嬢さん! お肌もピチピチになるぞい!」


 詐欺師も顔負けの売り子姿に恥ずかしさで消え入りそうなパルマが頭を抱える。


「ディン! 王都で売ったことなんてないでしょ……!」

「固いこと言うない! ちゃんと癒しの力も込めとるんじゃから! お! そこのお兄さんも一つどうじゃ!?」


 意地汚い妖怪に呆れたパルマがシルバに視線を移すと、獣人の種族である『ウェイドッグ』の二人組が肉汁こぼれる串焼きを大きな口でかぶりついているのを不可思議そうな目で見ていた。


「何を見てるんです?」

「いや、ウェイドッグは初めて見た。王都近辺にはいないからな」

「ダイバテインは大陸の中央に位置するのでほとんどの種族が住んでますよ」

「ふむ、まぁハイエルフも物語でしか聞いたことが無かったからな」

「ふふふ、まるで精霊のような美しさでしょう!」

「ああ、とても美しい」

「へ!?」


 表情一つ変えずに言い放つシルバを前に、パルマは尖った耳の先まで真っ赤に染まった。

 数えきれないほど読んできた本の中に書かれていた好きな人へ贈る言葉。

 あまりにも無防備に言葉を浴びたパルマは動揺を隠せなかった。


「む、来たぞ」


 固まるパルマを前に、まるで何事もなかったかのようにシルバが通りの奥を指さした。

 耳に響くほどの音が鳴る胸を押さえ、シルバの差す方向を見やると、人込みの中でひらひらと赤い羽根が踊るように飛び出ていた。


「さ、さぁ来ますよ! 何かあったらフォロー!です!」


 パルマは熱くなった額を冷ますように手であおぎながらシルバのそばをすぐに離れた。


 ──まだドキドキしてる……。


 仏頂面で何を考えているかもわからない騎士からの一言が耳に残る。

 あの騎士のことだから特に深く考えずに発した言葉なのは理解しているが、自分が不意打ちの一言に弱いことがわかった。

 人の恋愛に口出ししているが、自分自身恋愛は未経験。

 それを改めて分からされたような気がして、少し怒りが湧いてきた。

 精一杯にシルバを睨みつけていると、ラミアの「わー」という声がすぐ傍で上がった。


「パルさんー! 屋台出しているんですかー? あれ……?」


 いつの間にか目の前にいるラミアがパルマの表情をじっと見つめる。


「なんか顔が赤いですー……?」

「き、き、奇遇ですねー! あ、あれ? レーベンさんも!」

「ど、どうも……」


 ラミアの後ろから顔を出すレーベンの表情はあまり芳しくはなさそうだった。

 どうやらアルノはレーベンを敵視しているようでラミアから離れないであろうことが分かった。


「みんなでおでかけですか? いいなー、二人もこんばんは」

「こ、こんばんは……」


 アルノとアーミアはあまり言葉を交わしたことのないハイエルフを前に、ぎこちない挨拶を口にする。

 どうやらアーミアはディンが気になるのか、チラチラと小さい司祭を見ていた。


「どうしたのアーミアちゃん、気になる?」

「たぶんーハーファの方を見たのが初めてみたいですー」


 我ながらいい考えか、思い付きではあるがサポートすると決めた以上できることはやろう。


「あのおじいちゃんが喜ぶこと教えてあげよっか」


 パルマがアーミアに耳打ちする。

 アーミアがクスクスと笑い、腕輪を売りさばくディンの傍にこっそり近づくと、ピカピカに光る頭をその小さな手で撫でた。

 突然のことに固まったディンがアーミアを振り返る。

 八歳程度だろうか、幼い女の子に無遠慮に撫でられたハーファの偉大なる司祭は、火にかけたやかんのように真っ赤になった。言葉にならない奇声を上げ、短い腕を振り回す。

 嬉しそうな声を上げて逃げ回るアーミア。

 レーベンへ厳しい視線を向けていた流石のアルノもアーミアへ駆け寄っていく。

 隣の屋台の周りを駆けまわる三人を横目に、パルマがレーベンへ向け合図を送る。


「あー、ラミアさん。良ければあっちの屋台に行きませんか?」

「あ、でもー……」


 心配げにチラリとディンたちを見るが、パルマが優しく声をかける。


「あの子たちは見ておきますよ! 何かあればあの騎士様が守ってくれますし」


 大きな看板を軽々と掲げたシルバはパルマから「何かあれば全員を守るように」との言いつけを守るようにディンたちの近くに佇んでいた。

 パルマは屋台に並べていた腕輪を二つ手に取りレーベンとラミアに渡した。


「これはお守りです」


 ペア感を出すことで互いを意識する。これもパルマの作戦だった。

 同じデザインの腕輪を付けて照れたように笑い合う二人。


「たまには楽しんでください」


 パルマの後押しに、ラミアが長い耳を揺らして笑顔で首を縦に振った。

 レーベンはぎこちないながらも屋台を巡ってリードしようとしていた。

 その様子を見守るパルマがほくそ笑む。


 ──順調順調!


 ディンはアルノ、アーミアを捕まえてひとしきり説教すると、売り物の腕輪を持たせて売り子係にしていた。

 アルノはディンとともに道行く人々へ声をかけ、小さいアーミアはシルバの肩に乗って腕輪を掲げていた。

 空を見上げると黒く染まった空に輝く星が浮かんでいる。

 一時は荒廃していた世界も少しずつ変わってきている。

 神への感謝の言葉をつぶやくと、一つ背が抜き出た建物の屋根に付いた鐘が重く響く音を鳴らした。

 その音はデートを次に進める合図だ。

 パルマは屋台へ戻ってきたレーベンに目配せを送る。


「ラミアさん、花火を見るのにいいところを知っているんですが、一緒に行きませんか?」

「わー、花火は遠くからしか見たことないですー! 行きましょー」


 子どもたちはこのまま見てますから、とパルマが言う前にはアルノが二人の間に割って入っていた。


「花火だって、楽しみだねー」


 アルノと遅れて来たアーミアの頭に手を置き、嬉しそうに語り掛けるラミアの顔は慈愛の光に満ちていた。

 子どもたちを預かる作戦だったが、こればかりは仕方ない。

 デートの最後でどうにかしよう、そう決めたパルマはレーベンへ向かって頷いた。


「み、みんなで行きましょうか……!」

「いきましょー」

「おー!」


 アーミアが手を掲げてとびっきりの笑顔を二人に向ける。

 無邪気な笑顔を向けられたレーベンはふっとため息をついて笑っていた。

 パルマたちに手を振り、去っていくその後ろ姿にパルマは暖かさを感じ、少し羨ましくも感じた。


「今のところ問題はないか?」


 いつの間にか傍らにいたシルバの声にびくりと体を震わせる。


「その静かに近づくのやめてもらえます?」

「で、どうする?」

「どうするも何も、追いかけますよ! 準備は出来てますか?」

「非番の騎士たちに声は掛けた。ハインツ橋近くの裏路地で待機しているはずだ」


 次の作戦は少し特殊だ。ミスの無いよう見張る必要がある。

 屋台は金の亡者に任せ、様々な種族でごった返した道を抜けてレーベンたちの後を追う。

 空を見上げると、黒く染まった夜空に星が浮かんでいる。

 二人のため、心の中でパルマは祈った。


「二人の道に光があらんことを」

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