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恋なんて知らないハイエルフですが、種族関係なく恋を成就させることになりました  作者: 角松
種族の壁を越えて

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愛の詩を贈ろう⑧

「ほ、ほんとにやるんですか……?」

「無理に、とは言いません。あなたが抱える想い、それを伝えるか伝えないかはご自身で決めてください」

「わ、分かりましたよ! やればいいんでしょう」

「本当は詩を贈るのが手っ取り早いんですけどね~」

「嫌味ったらしいですね、本当に神官ですか……?」

「あなたに言われたくないですよ」


 鳥の鳴き声が心地いい朝、明るい陽射しに照らされた建物の影から覗き込むような姿勢で話しているのはパルマとレーベン。

 二人がいるのはダイバテインを縦に切り分けるように走るキンド大通りを一歩入ったところ、慈愛の教会近くの路地だ。

ダイバテインは今日の夜から行われる〈星天祭〉に向け、星型の装飾や屋台の設営、花火の準備と大いににぎわっていた。


「わ、わ、出てきた……」

「ほら! 行ってください! ほらほら!」

「お、押さないで!」


教会の前では、大きな籠を手に持ったラミアが朝日に目を細め、暖かな陽気を全身に浴びていた。

その前にレーベンが転げるように現れる。


「あらー、レーベンさんー」

「お、おはようございます……」

「おはよーございますー、炊き出しはまだですよー?」

「あ、いえ、今日はそういうのではなく……」


パッと切り出さんかい! パルマはいまにも乗り出してしまいそうな気持ちを抑え、鬼のような表情で見守るしかなかった。

うつむき、もじもじとしていたレーベンだったが、覚悟を決めたのかラミアへ向けて真面目な表情を向けた。


「……ラミアさん!!!!」

「へ!? は、はいー……?」

「私と! 私と……!!」


ラミアを前に言葉に詰まるレーベン。今の姿では吟遊詩人といっても誰も信じないだろう。


──パル=メク神よ、彼に勇気を……!


両手を胸の前に組み、必死にパルマは祈る。

その願いが通じたのか、レーベンが言葉を絞り出す。


「私と、星天祭に、行きませんか!!??!!??」


その声の大きさは、歩く人々の足が止まるほどだった。

ラミアが目を見開いて「まぁー」とこぼしたのをパルマは見逃さなかった。

そう、これは愛の儀式、「デート」への誘い。

チェロフの描く物語全てにこのデートは存在していて、そのドラマティックでロマンティックな愛の交流が多くの読者を離さない要因の一つだった。

その読者の一人であるパルマがレーベンに提案したのは星天祭デート。

星の瞬く夜空の下、共に過ごして言葉を紡ぎ合う。

一方的に想いを伝えるのはエゴであり、お互いの想いを確かめる必要があるとチェロフは自著で伝えている。その為にデートは存在しているという。

この誘いはデートへの入り口となる重要な関門、パルマはレーベンと同じく額に脂汗をかきながら祈っていた。

レーベンからの誘いを受けた当のラミアは……。


「楽しそうですねー、でも子供たちの世話もあってー……」


でも、の時点でレーベンは膝から崩れ落ちていた。


「あ、そうだー」


ぽん、と手を叩き、慌てて教会へと戻っていくラミアの後ろ姿を見送るレーベンの頭にはハテナが浮かんでいた。

しばらくして向日葵のような笑顔で出てきたラミアの足元には、慈愛の教会で暮らすアルノ、アーミアの姿があった。


「良ければこの子たちも、いいですかー?」

「へ?」

「星天祭が夜からなのであまりこの子たちを連れて行けてなくて……」


えへへ、照れ臭そうに笑うラミアを前にレーベンの顔が固まっている。

ラミアの足元にいる二人の子どもはレーベンに向かって渾身のアッカンベーをぶつけていた。

想定外、ではあるが背に腹は代えられない、パルマはレーベンが気付くよう物陰から体全体でマルを作ってアピールした。

思っていた展開ではなかったが、今はラミアの意志を尊重することが次につながる。

しかし一向にレーベンは気付かない。真剣に向き合おうとすると途端に弱気になる性格を考えると良くない想像がパルマの頭をよぎった。

しかしパルマの心配をよそに、引きつった笑顔でレーベンが言った言葉は「ダイジョウブデス」。


──おやおや? これは意外と……。


アルノとアーミアに鳥の羽を付けた帽子を取られてあたふたとしているレーベンだが、遊ばれているとはいえ嫌われているようには見えなかった。

気が強いタイプではないのが、子どもたちにとってはちょうどいいのだろう。

そんなやりとりを微笑ましく見ているラミア、その光景はどこか家族にも似たものだった。


「では夕方にまたここでー」


朗らかに手を振って市場へ買い出しに出かけたラミアとは対照的に、レーベンは教会の前で一人抜け殻となっていた。


「け、結果オーライですよ!」


パルマが慰めるようにレーベンの肩を叩くと、支えを失った棒人形のように力なく崩れ落ちた。


「……無理です」


うつぶせに倒れたレーベンから力ない声がこぼれる。


「あの子たち、ラミアさんが大好きで、私のこと絶対嫌ってるんです……。絶対無理です……」

「レーベンさん! 愛に障壁はつきものです! 一緒に乗り越えましょう!」

「いやいや、無理ですよぉ……」


ここから地面に額をこすりつけながらうだうだと弱音を吐くレーベンを励ますのに1時間かかった。

少しイレギュラーはあったがデートはデート。萎れたレーベンを愛の教会へ引っ張るように連れ戻すと、そこにはシルバが出迎えるように立っていた。

そのシルバに耳打ちするようにパルマがささやく。


「首尾は?」

「ああ、頼んでおいた」


眉一つ動かさず答えるシルバにニッと意味ありげな笑みを向けるパルマ。


「さぁさぁレーベンさん! 作戦会議です!!」

「……作戦会議?」


打ちひしがれた詩人がじろりとパルマへ目を向ける。


「良いですか! デートは流れが命! 無計画なデートは逆効果、なのです!」

「はぁ」

「デートの心得その一! 楽しんで緊張をほぐす!」


ピンと来ていないレーベンに見せつけるようにパルマが高々と人差し指を掲げる。


「まずは楽しむことが大事! 緊張すると言葉も出てきません。あなたもすでにご存じの通り!」

「最後のは余計ですよ」

「その二! 距離を縮める! もっとお互いを深く知ることが想いを伝えることへ繋がります」

「……なるほど?」

「その三! 価値の共有! 二人でその価値を共有できるようなものを見つけてください」

「価値ってなんでしょう……」

「なんでもいいです! 物でも、体験でも。それが二人を強く結びつけるでしょう」

「非合理的だな、恋愛というのは……」


いつの間にかレーベンと一緒にパルマの話に耳を傾けていたシルバがぼそりと呟く。

パルマももはや慣れたのか、水を差すようなシルバを華麗に無視して話を続ける。


「そしてその四! 二人きりで想いを伝え合う! いいですか? ”伝え合う”がポイントです。一方的ではダメなんです。自分と相手が同じ想いでないとそこに愛は生まれません」

「ラミアさんは、私のことはなんとも思っていないんじゃないでしょうか……」

「それを確かめることでレーベンさんが一歩前に進むきっかけにもなりますね」

「振られる前提ですか……?」

「卑屈すぎます、そんなんじゃ虫も逃げていきますよ!」


レーベンの曲がった背中をぴしゃりとはたき、胸を張らせる。

この詩人の良さを引き出す、それがパルマの腕の見せ所にもなる。


──パル=メク神、見ていてください。そしてチェロフ様、お力添えを……!


頭の中にこびりついたチェロフの作品をめくりながらデートの道筋を組み立てていく。

まずはキンド大通りでの屋台巡り、次に北東エリアで上がる花火を見るために移動しながらお互いの理解を深め、貴族が多く住むエリアの入り口でもあるハインツ橋の近くで花火を見上げ……とまで話したところでシルバから手が上がった。


「花火が上がるのか? 王都でも中々見れないものだが……」

「そうなんです! 星天祭では魔道具で花火を打ち上げます。そして今年はどこかの敬虔で美しい神官によって増えた魔力のおかげで! たくさんの花火が上がる予定、らしいですよ!」


パルマはそう言い放つと鼻高々にその豊満な胸を張った。


「まぁ、貴族が住んでいる北東地区での打ち上げに限定はされますが」


そして次にレーベンから静かに手が上がった。


「大体の流れは分かりましたが……最後はどうするんですか?」

「最後はもちろん詩を贈るのが一番ですが……」


レーベンは詩と聞いて途端に表情を曇らせる。

物語や体験を詩とする吟遊詩人。だが今目の前にいるのはただの恋する男だ。

パルマは沈んだ表情のレーベンに一枚の羊皮紙を手渡した。


「決して詩じゃなくても、あなたの想いを言葉に、文字にするだけでいいんです」


そう、決して見栄を張らず、ありのままの想いを伝える。

それが大事だということを、あの時知った。

婚姻の儀。あの夜、バンダーとカイナは心を開いて向き合った。

レーベンはその差し出された羊皮紙見つめ、覚悟を決めたように受け取った。

胸ポケットから取り出したのは薄汚れた羽ペンだ。

吟遊詩人として物語を綴ってきたペンで、想いを書き連ねていく。


「さぁ、シルバさん! 私たちも精一杯サポートしないと!」

「ずっと付いて回るのか?」

「ノンノンノン」


パルマは指を左右に振った。

そして軽やかな足取りで教会の中庭へと続く扉を押し開けると……。


「儲け時~♪ 儲け時~♪」


愛の教会の司祭であり、守銭奴のディンが陽気に歌いながら何かを足元に並べていた。

並べられていたのはどこかで拾ってきたように年期の入った銀製の腕輪だ。

その腕輪を並べ終え、一呼吸置いて口からあふれ出すのは聖なる言葉。

歌うように紡がれた言葉は光となり腕輪へと降り注いでいく。

|《守護》《マキア》。古より人々の心を癒すために使われ続けた神聖なる魔法。

その光は曇った心を照らし、暖かな光を持って優しく包み込む。

銀の腕輪を包んでいた柔らかな光は少しして腕輪へと吸い込まれていった。


「私たちも屋台を出します! そうすれば傍でフォローできますからね」

「ふむ、大変そうだな」


パルマはまるで自分は関係ないとでも言いたげなシルバの肩に手を置き微笑んだ。


「あなたもですよ?」


鎧にめりこみそうなほどの力で置かれた手が、シルバの首を縦に振らせた。

何故ここまでするのか、そうシルバは考えているかもしれない。

もちろんレーベンも応援している。が、どちらかといえば唯一の友人の幸せを願っていた。

慈愛の神官として生きる彼女、ラミアの想い。

誰かの為に祈る彼女の幸せを、パルマは祈ることに決めた。

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