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出合い(真)

56話目です。仕事で発狂したり青い地球を守っていたらこんな時間になってしまいました。

 崩落に巻き込まれた僕達が見たのは、いわゆる『地下渓谷』と呼ばれる大きな空洞だった。レギーナ達が空洞の天井部分に当たる地面を掘り返したおかげで地盤が脆くなったと見える。


 「うわっ…とと」


 大体15m程の距離を落ちれば流石に大ダメージは免れない。なので《飛行》を使って落下速度を緩めようとした…のだけど。


 「ふぅ…何ぃッ?!うわァァァ?!」


 しぶとく伸ばされた触手の一本が足に絡みつき、そのまま引きずり墜とされる。他の触手が来ない辺りあちらも必死なのだろうが、状況は圧倒的にこちらの不利だ。


 「くぅッ…!死なば諸共ォッ!!」


 触手を切断しても遅い。ここまで勢いがつくと速さを殺しきれないからだ。それなら、ダメージは受けるものと割り切ってボスに一矢報いたほうが差し引きプラス。…受け身、うまく取れれば良いけど…


 「うまくいってよ…!」


 触手に、目一杯チェーンを伸ばしたフールミネを巻きつける。これだけではただ触手を締め上げるだけだが、この武器は雷属性を持っている。


 …このゲームはかなり属性に対してシビアというか、リアリティを求めている節がある。火属性攻撃で金属の防具に攻撃すれば一定以上の属性値であれば防具の耐久度に追加ダメージが入るし、その状態の防具に水や氷属性の魔法を撃ち込めば耐久度は一気に減るだろう。


 これらは一例だが、属性(エレメント)はある程度『現実に合わせた』性質を持ち合わせている。


 そして、雷属性攻撃は現実同様()()()()()()()()()()()を持っているのだ。


 もちろん、対象がゴムや純水といった絶縁体であればその限りではないが、うまく状況を整えれば、一撃で多数の敵を処理できるポテンシャルを秘めている。


 …今まではほんの一瞬、そう、触手を切断する程度のほんの僅かな接触だった。


 だが、今なら。苦し紛れに触手を一本だけ伸ばしてきた今なら。


 触手を通じ、継続(電撃)ダメージを叩き込める。


 「……………!!!!」


 発声器官を持たないのか、悲鳴の類は聞こえて来ない。だが、触手から伝わるケイレンじみた振動とガリガリ削れるボスのHPゲージが、ボスに痛手を与えている事を示していた。


 が、それも触手が離れていく事で終わる。後は重力に身を任せるのみだが、それでも受け身を取る余裕は出来た。


 「がふぅっ?!」


 それでもダメージは殺しきれない。あっという間にHPゲージが1/4を割り込んだ。だが、それでも。


 「無いよりマシか…!」


 泣き言を漏らしながらも立ち上がる…途中で思い切り身体を投げ出して地面を転がり襲いかかる触手を回避した。


 …振るわれた触手によって、土煙が吹き飛ばされる。


 「ハァ、全く…手加減するならもう少し優しくして欲しかったけどな…」《…私にはそんなつもりはないんだけど》


 ベディの正面10m前方。土煙の向こう側に居たのは、茶色い壁。…否。


 「いいや、手加減してたよ。でなければあんなに触手に幻…ううん、『蜃』気楼を混ぜないもの。最後の方なんか、殆どブラフだったじゃあないか」


 …蜃気楼。光の屈折により、見える物が実際と比べてずれて見える現象の事を指す。そしてその名は古代中国で(大ハマグリ)が吐き出す吐息によって楼閣を描いたという伝説を由来としている。


 ここまで説明すれば、もう読者諸君にはお分かりだろう。今まではベディ一行を散々手こずらせたボスの正体…それは、全長5m近い、巨大なハマグリだった。


 ----------------------------------------------------

  モルガナクラム Lv.32


  特記事項:説得可能


       推奨攻略人数:10人以上

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 《…そうだとして、わたしが手加減する理由は無い》


 その台詞が発せられると同時に、再び触手がベディに向かって伸びるも、その触手は途中で力鳴く地面に墜落する。


 《??!…こ、れは》《フフン、やっと効きだしたわね!》


 ようやく『彼女』も自分の身体に起こっている異常に気づいたらしい。


 タネは簡単…地上で一発入れた際にレギーナに『一刺し』してもらっただけ。だが、たった一回でも彼女が持って生まれた毒針に宿った劇毒はジリジリと、しかし確実に蜃のHPを減らしていた。


 (《劇毒針》…秒×最大HPの1%のダメージを60秒…これはヤバい)


 おまけに毒ダメージに加えて確定で麻痺も入る破格のスキルである。効果が出るまでに10~120秒程のタイムラグがあるのが微妙に使いにくいが、そのランダム性を差し引いても強力な事に変わりはない。


 《ぐ…がァ、あ、アアア!!》「…止まんない、か」


 だが、それでもなお、彼女は止まらない。萎えかけた触手に喝を入れ、ベディの喉を穿つ…!



 (…ピトッ)


 …事は叶わず、僅かに逸れた触手はベディの頬を撫でるにとどまった。


 《…》「…どうしてそこまで」


 最初、ベディは触手の雨の中で彼女の殺気を感知する事 で幻と本物を見分けようとした。だがそこに殺気は無く、仕方なくもう一人の彼であるアキの超聴覚に頼る形で回避していたのだが…


 「言いたくないのなら、別に構わないけど…少なくとも、この島に起こっている異変が関わってるんでしょう?だから、あくまで『排除』のスタンスを崩さなかった。こうやって戦ったのも、本意じゃ無かった…違う?」


 淡々と告げつつ、ベディは大ハマグリに近づいていく。それに連れて触手が一瞬彼へ先端を向けるも、少しもしないうちに俯くように力無く地面に下ろされ、やがて殻の中へ吸い込まれて行った。


 《………135人》「…?」


 沈黙を破り、大ハマグリが唐突に語り始める。


 《…私が物心ついてからあの村で、ううん、この島に人が来てから、生贄の名目で『奴』に『喰われた』娘の数。…わたしは、ずっと見てきた。ずっと…ずっと、見ている事しか出来なかった》


 ドサ、と何か軽い物が落ちる音とそれに伴って巻き起こった風に、ベディが思わずまばたきをすれば、そこにはあの巨大な二枚貝の姿は無く、この森で彼が出会った少女が泣きそうな表情で佇んでいた。


 《でも、もうそれもお終い。『奴』が覚醒(めざ)めれば何もかもお終い。この島の全てが奴に喰われる。村の人間達も、この島の獣たちも、…わたしも、やっと見るだけじゃ無くなる…無くなる、筈だったのに…!》


 少女の目から、涙が零れ落ちる。それは虚像でしか無いが、地面に跡をつけた、その雫は紛れも無く本物で。


 《何で!?何で今更になって貴方達は来たの?!何で今なの!?何で、今まで…来て、くれなかったの…やめてよ…今更無責任に、中途半端に私達に希望を持たせないでよ…大人しく元の所に帰ってよ…もう、放っておいてよ…》


 あとに残ったのは、彼女の嗚咽だけ。ベディはその様子に掛ける言葉が見つからなかった。


 ある意味当然か。彼女は大ハマグリ…触手を使えばあるいはと言ったところだろうが、基本は動けない。そんな彼女の嘆きよう、そして世界のテクスチャすら騙し切り、質量や体積すら偽ってのけた彼女の幻術から鑑みて、きっと彼女は村人たちと交流を持っている。否、持って『いた』のだろう。…見ている事しか出来ない己を責めたのか、何とか生贄から逃がそうとしたのかは判らないが…何れにせよ。


 彼女は、もう諦め切っている。諦めて、自分の運命()を悔恨の中で受け入れようとしている。早い話が自殺志願者だ。そんな彼女に、一体どんな言葉を掛けろと?心の底まで自責の念に染まっている者に、今更生きろと言えと?


 …言える訳がない。最初の街で出会ったエレメンタルの女性は、この世への絶望のままに死を望んだ。だが彼女は贖罪としての死を望んでいる。決心の硬度と、結論に至るまでの積み重ねがまた異なるのだ。


 …本当に?


 「…一度だけ」《……え…?》


 「一度だけでいい。どうせ死ぬなら、一矢報いてからでもいいんじゃない?」


 ベディの提案。それは要するに。


 《…私の命を、貴方達に預けろって?》「うん」《馬鹿じゃないの?自分で言ってて虫が良すぎるって思わない?》


 まあこの反応は当然である。ベディも同じ立場なら同じ事を言うだろうし。ただまぁ…



 その程度ではこの男は退くことは無い。何故ならば。


 「分かってるよ。今更生きろって言われても、見送った人達の事を考えると、ね…」《…まるで、貴方もそうだったみたいな言い方》


 よっこらせ、と彼女の側に腰を下ろしながら、ベディは話を続ける。


 「色々あったんだよ。何遍も泣いて、何遍も喚き散らして…自分が生きている事に押し潰されそうだった。でも、それでも『生きろ』って言ってくれた人がいる。僕が生きる意味を見つけるまで、自分と、逝ってしまった人達のために生きろ。それまで、死ぬことは断じて許さない。もし死んだら、三途の川まで追いかけると――だから、」


 君も、無理に生きろとは言わないから、せめて無為に死ぬことだけはしないで欲しい。積み重ねた(いのち)に報いるためにも。


 《………………全部終わって、その後の事は、どうすればいいの》「その後の事はその時考えればいいんだよ。時間はあるし、僕も一緒に考えるから」


 鈍痛すら走るほどの重い沈黙の後、少女が口を開いた。その眼には涙はなく、代わりに決意が溢れんばかりに湛えられていた。


 《分かった。貴方の口車に乗せられてあげる。だから、貴方も力を貸して。…私を、此処から連れ出して。絶望しか見えなかったこの場所から》


 ====================

 モルガナクラムがテイムを求めています。

  

   テイムしますか? y/n

 ====================


 ウィンドウが浮かび上がると同時に承認ボタンを指でなぞる。それと同時に少女がベディの胸に飛び込んだ。


 「ごめんなさい…でも少しだけ、このまま…」


 その後しばらく、誰もいない森の中で少女のすすり泣く声が聞こえたと掲示板で噂になったが、すぐに攻略情報とその晩発生した流星群に話題(トピック)を奪われ自然消滅していった。


 《モルガナクラムをテイムしました》

 《強制クエスト:『EX:前奏曲-胡蝶之夢』をクリアしました》

 ⦅プレイヤーが島の異変を全て解決しました⦆

 ⦅メインイベントクエスト:『EX:序曲-気炎万丈』がクリアされました⦆

 ⦅ボスの情報が開示されました。メインメニューのお知らせ欄からご確認ください⦆

 ⦅メインイベントクエスト:『EX:第一楽章(フェイズワン)-臥薪嘗胆』を開始します⦆

 

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