奇々怪々なる百の腕Ⅱ 大変化
30話目です。キリが良くなるまで書いたら長めになりました。あと今日は2話投稿しているので先にこの前のお話を閲覧していただければ。
あと、武器に攻撃力の概念を追加しました。やっぱり無いのはちょっとおかしいですもんね。あとステータスの数値もいじりました。Lv.1にしてあれはやり過ぎた…
2019/01/15 クロの台詞と文を修正。盾持ってんのはラグさんでした…
ゴゴゴゴゴゴゴ……
「なんだ⁈」
唐突に地鳴りが発生し、晴れていた空が雲に覆われていく。それに伴い、気温が段々下がっていく。
「おーい、ガキんちょ共見つけたぞ。奥の部屋で全員寝、て、た…なんじゃありゃあ」
子供たちの捜索を終えたバロールも啞然として空を見上げる。
彼らが見上げた空には、雲の切れ間から血のように赤い月が顔を出していた。
「とにかく奴を追いましょう。ロイカさんも今は落ち着いて、年長の子に看てもらうよう頼みましたし…」
数分後。地鳴りが落ち着いたころ、教会の前の通りに集合した一行は、今後の方針のすり合わせをしていた。
「掲示板にも書き込んだし、気付いた人達はみんな戻ってくると思う…どの位の戦力が集まるか分かんないけど」
ユニは若干自信なさげにそう言ったが、何分初めてのグランドクエスト、ほとんど準備ができていないのだ。「まあ準備できてないのはみんな一緒。行くしかないわね」クロはこう締めくくった…
その瞬間。
ドゴォォォォン!
凄まじい振動と轟音が同時に彼らを襲った。
「今度は何⁈」「あの野郎が行った方向から!」
クロたちが動揺するなか、ベディは、血の腕を近場の民家の屋根まで伸ばしていた。
「…なにやってるの」「もう時間がありません。荒っぽいですが最短距離で突っ込みます」
ルナからの問いかけに、血の腕をいくつも引っ付けながら答えるベディ。そのHPは既に最大値の8分の一まで減少していた。
「あ~…それってもしかして、『あの』親愛なる隣人が使う移動方法かな?僕、絶叫系苦手なんだけど…」
ラグはそう言って引き下がろうとしたが、もう遅い。既に血の糸は彼の腰に…否、クロ以下、彼女のパーティメンバー全員に括り付けられていた。
「あー…そうか~、問答無用な感じか~…」「ラグ。ここは男らしく諦めなさい」「(わくわく)」「(どうしよ。私もどっちかっていうと絶叫マシン苦手なんだけどなぁ)」「っしゃぁ!一発ド派手に行ったれェ!」「わかりました。それじゃ失礼して…発射ァ!」
カウント無しで解き放たれた張力は、既に6人を空高く吹っ飛ばすのに十分な力を溜め込んでいた。
かくして、彼らは戦場までの距離を一気に短縮することに成功したのである。
「せめてカウント位はしてええええぇぇぇ~……」
……ラグと言う尊い犠牲を出しはしたが。
-数十秒前 始まりの町中心部-
「何だったんだ…」
倒れ込んでいた通行人がよろよろと立ち上がる…も眼前に広がる光景にすぐに固まった。
「あ、ああ、あ…」
…彼の目に入ったのは、「手」。
いや…「手がいくつも張り付いた巨大な球体」だった。
「た、たしゅけ…」
それが、彼が降って来た球体に押しつぶされる前に遺した最後の言葉だった。
「ハ、ハハハハハハハハハ!素晴らしい!これが我らが主の威容、なんと壮観なことか!」
神殿に空いた大穴から飛び出してきた男は眼前に広がる惨状を見て哄笑した。
「これこそが我らの悲願、その始まりであ」
グシャッ。
…
「おわああああああああ!」
一方そのころ。町中心部に向かって射出されたベディ一行。空中の彼らからでも、その「ナニカ」は視認できていた。
(なんだあれは…⁈なんてデカさだ、目測で約8メートルか。…勝てるか?と言うか…気のせいか失速してません???)
まったくもって当然である。そう簡単に飛ばせてもらえるほど、空気抵抗と重力は軟弱ではない。
(クソ、またカタパルト方式で飛ぶしかないか⁈MPもそう多くは残らないけど…!)
そう思った時である。
⦅スキル《飛行》を習得しました。サブスキルス⦆
(ナイスタイミングぅう!!)
アナウンスがそこまで流れた所で、ベディはステータスから《鑑定》スキルと《飛行》を交換、即発動した。
バサァッ!
発動の瞬間、ベディの背からコウモリのもののような翼が出現する。
「おお…動く。これで滑空すればどうにか距離を稼げるか…?」
だがそれも一時的な物。このスキルはMPを使用して空を飛ぶことができるようになるスキルなのだが、スキルレベルが上昇するごとに、飛べる距離…すなわち、航続距離に対するMPコストが指数関数的に改善する性質を持つ…つまり、Lv.1の現状では大して距離を稼ぐことはできないし、MPが割とカツカツの現状ではあまり多用できないのだ。
(それでもないよりマシか…!)
謎の球体まで残り120メートル。その距離をどうにか詰めようと、必死になって彼は羽ばたき、MP消費を抑えるために風に乗り、そして…
「到着!」
ドサドサとクロたちは血の糸を解いて途中で降下しながら、ベディは着地の瞬間、転がって勢いを殺しながらも、どうにか大地の偉大さを噛みしめていた。
「ぐうっ…!」
転がる勢いもそのままに、ベディは立ち上がり、血液を回収しつつ駆けだす。クロたちもそれに続いた。
「ルナ!他に何かいないか索敵お願い!ラグは盾を!バフは私がやるから、二人はボスに攻撃して!それから!」
そこまで言って、クロはベディを振り返ってこういった。
「…あいつ、お願いできる?」「…ええ。もちろん」
そして、彼は対峙する。誰と?それは…
「ハァ、ハァ…ク、クククッ…ど、どうやら主人公は遅れて登場する、ようですね…ええ、そうですとも。ここで邪魔される訳にはいきません、絶対にいきませんよ…!」
そこには、半ば体を潰されながらも、執念深くHPを保っている狂信者の姿があった。
「ハハァ…この短時間であの距離を詰めたのは素晴らしいと言わせて頂きましょう。ですが…貴方は少々遅すぎた。これで何かも終わりです。間もなく我らが主がこの大地に顕現され、大地は原初の時まで回帰される事になるのです…!」
彼は半壊した体を持ち上げる。その眼は血走り、明らかに正気のそれではなかった。
「…もう、いいです。そういう御託はもう聞き飽きました」
その非情な言葉が狂信者の意識に届いた最後の言葉だった。
「さて、元凶は潰した訳だけど…やっぱり止まってくれるほど甘くはないか」首から上を失い、血を噴き上げながら崩れ落ちる狂信者の体を尻目に、ベディは謎の巨大な球体を見、そして嘆息した。
「そもそも…なに、アレ」彼は既に《飛行》スキルを《鑑定》スキルに入れ替えていた。その結果がこれである。
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呪塊:Hand-red Lv.40
特記事項:人類の脅威
推奨攻略人数:40人以上
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「なぁにこの…『人類の脅威』って。どうあがいても放置したらまずい類のシロモノじゃない。なんでこんな厄ネタがRPGの最初の街に配置されてんの」
実にもっともなツッコミであるが、それは目の前でゴロゴロ轟音と共に転がる巨体のボスを前にしていう台詞では無いだろう。だがこの時彼の独り言にツッコミを入れられるほど、周囲の人間は暇では無かった。
「あ、ベディ君!終わったならこっち手伝って!コイツデカい癖にそこそこ速くて攻撃を集中できない!…きゃあ!」
クロがボスが行った跳躍からの質量攻撃の余波で発生した振動でよろめく。その機を逃さず、ボスが転がってきた。だが、あわや轢殺といったところでベディは油断なく伸ばしたヌンチャクの鎖をクロの身体に巻き付け、ボスの進撃ルートから引っこ抜く。
「…ありがと」「どういたしまして。それで、どんな感じですか?見たところHPがあまり減ってませんが」
ベディが見やったボスのHPゲージは確かに減少していない。索敵を終えたルナやユニたちが幾ら攻撃しても、多少減少するだけ…否。
「あれって、まさか…回復、してる…?回復するボスは普通反則でしょうに…」「私もそう思う。どうも一定周期で回復しているみたいなんだけど…どのみち、このままだとジリ貧ね…」
とにもかくにも攻め手が足らない。ならばどうする⁈
(考えろ…何かカラクリがある筈だ…そもそもこれはゲーム…ボスを攻略不可能にするはずがない…どこかに突破口が…)
MP回復ポーションをぐい飲みしながら、ベディは思考を巡らせていた。
「…クロさん、さっき奴は『一定周期で回復を行っている』と言いましたね?」「…?言ったけど?それがどうかした?」
「なら、回復される前に回復しきれないダメージを与えるとどうなりますかね…?」
「うわぁ脳筋だぁ。でも大してダメ稼げてないけど」
「いえ、見た感じ、回復するタイミングは20秒に一回みたいなんで、その間に、ほら」
ベディが指差した先には、
「ボス戦キター!」「でかっ。でも怪獣並じゃないだけマシか」「盾役行って!」「はいよ。じゃあバフ撒きま~す」「鑑定結果がヤバすぎる件」「回復任せて!」「ナニあれ、手?」「グロいな…」「よっしゃー!行くぜ行くぜ行くぜぇ!」「突撃ィー!」「ヒャッハー!!」「WRYYYYYYY!!!」
掲示板を読んで来たのか、異変を感じて馳せ参じたのか、およそ30人ほどのプレイヤーが集結していた。
「これだけいれば、ダメージ量も違うでしょう。…さて、そろそろ僕も行くとしましょうか」
そう言って、得物をヌンチャクから戟に切り替え、ベディもボスに向かっていく。それを見てクロもメイスの柄を強く握った。
「「《ショットフレア》!」」「《サンダーバード》!」「《バブルグレネイド》!」「《ストーンブラスター》!」
異形の球体に向けて様々な属性の魔法が雨あられと降り注ぐ。違う属性の魔法が入り乱れているのは弱点を探るためらしい。
「《大袈裟懸け》!」「《グラブインパクト》!」「《レインホーネット》!」「《壊山掌》!」
近接部隊も負けてはいない。各々の自慢の武器と積み上げた経験、習得したアーツで球体にダメージを与えてはいたが、回復と相殺されてじりじりHPゲージを削るのがやっとだった。
「ハァッ!」
ベディもボスに向けて武器を振るうが、切り裂いた傍からじわじわと傷穴が塞がっていく。
(…なんだろ、この違和感)
そんな中、ベディは奇妙な違和感を感じていた。それは、
(この腕…コイツを覆っている、外殻のような物だと思ってたけど…)
武器を振るう。するとボスの皮膚はなんの抵抗もなく切り裂かれた。
(何故腕なんだ?そういうものと言えばそれまでだけど……!?ちょっと待てまさか…ッ!)
彼の脳裏にある仮説が閃いた時、戦場に声が響き渡った。
「出来ましたっ!皆さん一瞬引いてください!」
声の主は和服をたすき掛けにした女性のアーチャーだった。その後ろには、長弓を携えたプレイヤー達が横一直線に並んでいる。
それを見て他のプレイヤーたちが一斉に下がったので、ベディもこれに続く。
「射線が空きました!」「放てぇ!!」
号令と共に矢の雨が降り注ぐ。矢じりには何か瓶のような物が括り付けられて…
ドドドドドドドドドドゴォォォン!
矢が刺さった瞬間、矢じりが爆発した。どうやら瓶の中身は空気に触れると爆発するようだ。
「うわぁ…すごい音」
だがその分ダメージは大きかったのだろう。球体は至る所が焼け、HPゲージも半分近くまで減っていた。
「スゲー…」「あいつら誰だ?」「ほら、あの弓使いしか入れないっていうギルド」「ああ、《ヤドリギの葉》の連中か。あいつらナパームなんて持ってんのかよォ…おっかねえ」「てゆーか今のダメージデカいな。こいつ火が弱点か?」「かもな」
動きが鈍っているところを見ると、今の爆撃でボスはかなりのダメージを被ったようだ。プレイヤーたちはここが好機とばかりに畳みかけようとした、が…
バクン。
球体から飛び出した「ナニカ」が先陣を切っていたプレイヤー数名を叩き潰した。即座にヒーラー役が蘇生させるも、「ナニカ」はそれを見てヒーラーを狙って光弾を撃ち出した。
ヒーラー役のプレイヤーは横っ飛びで回避して難を逃れたが、「ナニカ」はさらに噴出し、その先端から光弾を乱射。
「きゃ!」「どわぉ!」
一部のプレイヤーは避けきれず被弾し出した。
「チッ…!」
思わず舌打ちを漏らすベディ。その視界には、「ナニカ」…もとい、球体に張り付いていた無数の手が展開し、その掌からお返しとばかりに光弾の雨を降らせる光景が映っていた。
「ベディ!」
ラグが大楯を構え、こっちに来いと手招きしているのが見える。だがその瞬間、球体はベディに向かって光弾を斉射した。
「しまっ…!」
当たる、と考え咄嗟に血で壁を作ろうとするも一歩遅い。光弾が彼の視界を埋め尽くそうとした…その時。
「おーい、若い衆、爺の手助けはいらんかね」
ドガガガガガガガガガッ!
青白い防壁と共に、ベディの前に数時間前に別れた老人がどこからともなく現れていた。
いかがでしたでしょうか。皆様の応援がこの作品の養分となります。良かったらブックマーク等していっていただけると幸いです。




