封じられていたもの
22話目です。またおくれてしまった…あ、その分今日は2話投稿しているのでそちらもどうぞ。
「はい、案内ご苦労様」そう告げた時のデコリの顔は蒼白だった。そりゃあそうだろう。何せ安心だと思ったら思い切り叩き落されたのだから。
「い、一体いつから…」「そりゃあ最初からですよ」正確には、書斎にその身体でもって潜伏していたレイの報せを受け取った時から、だけども。まさかフレンドのチャットが従魔との間でもある程度使えるとはね。
「そこに動かぬ証拠がある以上、もう言い逃れはできませんね。おとなしくお縄についてくれるとこちらとしては楽でありがたいんですが」これで詰みである。が、彼はここに来て不敵に笑いだした。「ク、クク…笑わせるな小僧。そんなもの、お前を消してからゆっくり処分すればいいだけの事…」その言葉と共に手下たちがにじり寄ろうとする。
だけど、冷静になって考えてほしい。ここまで作戦を考えておいて、最後に妨害される可能性を考慮しない人がいるだろうか。
「ほーう。ならこの人数を相手にするってか」どこからともなく現れる大勢の足音。ええ。一人で来るわけないでしょう。ちゃんと事前に衛兵の皆様に話は通してあります。
援軍はそれだけではない。「呼ばれて飛び出てなんとやら。ってことで、ここでいいのか?」物陰からヒョイと現れたバロールさんが僕に声を掛ける。それを皮切りに、クロさん以下、彼女のパーティのメンバーたちも姿を現した。抵抗されると相手の強さによっては間違いがあるかもしれないという事で、後詰めとして彼女たちを呼んでおいたのである。…「貸し」もあったことだし。
ちなみに、当事者であるロイカさんにも話を通したら、当然ながら物凄く怒られました。何故一人で動いたのか、もっと早く相談してくれなかったのかと。返す言葉もございません…
「そういうこった。文書偽造等、もろもろの罪で貴様等をひっ捕らえる。…大人しくしろよ?」
…この後最後のチャンスばかりに逃げ出そうとしたデコリであったが、その足の遅さが足を引っ張る結果となり、抵抗して暴れた手下たちと共に特に見せ場もなくしょっ引かれることになるのであった。合掌。
「シグさ~ん、この判子ってどうします?」「んあ?これは…偽造だな。コイツも証拠になる。押印の偽造は重罪だからな。そも、文書偽造も重罪だがな」へーそうなんだ。何でも昔、書類の偽造が横行して政治が乱れた国があったんだそうな。そうならないようにそんな規定になってるのか。
「ベディさん、これ」隣で僕と一緒に証拠物件とガラクタを仕分けていたロイカさんが、僕に何か差し出してきた。これは…ただの食器ですね。「いや、そいつも値打ちもんだ。前に王都の美術館から盗られた物だが、まさかここに流れ着いてたとはねぇ…」なんと。
ん?いつの間にロイカさんを呼んだのかって?デコリがため込んでいた美術品の中には宗教に関係があるものも多数あったので、専門家として彼女を呼んだのだ。
「これで、全部だっと!」バロールさんとラグさん、クロさんパーティの男衆2人が降ろした箱には、大量の金貨が入った麻袋がいくつか入っている。おいおいあの似非貴族、脱税までしてたのかよ。
そのほか、この部屋に溜まった埃を叩き出していると、急に背筋に寒気が走った。「………ッ!」反射的に振り向くが、そこにあったのはただの戸棚である。…本当に?
「? どうかした?」クロさんがこちらの状態に気付いたのか、僕に歩み寄ってきた。「いや、今なんか…」そう答える間も背中の寒気は消えなかった。
(何かあるのか…?)そう思い戸棚を調べても、何の変哲もない戸棚であることを立証しただけだった。けど絶対何かあるんだ。間違いなくここに何か良くない物がある。
「ねえ、これ」ルナさんが発した言葉に釣られて戸棚の下部を…否、その横の床を見てみると、そこに何か引きずったような、直線の跡が二本あった。その幅はほぼ戸棚と同じ。
「…OK、この下って事ね」…結局、ユニさんの言葉を切っ掛けに僕らは戸棚を動かし、そこに隠されていた、階下への通路を見つけたのだった。
階段の先は地下に通じていた。「うっへー。いかにもなんかありそうって感じだな。ベディよう、お前『フィルター』大丈夫か」「ええ、解除してあります」何の話をしているかというと、このゲーム、一応全年齢対象なんだけど、成年フィルターを解除すれば血液描写といったゴア要素などが解放されるのだ。未成年でも安心してプレイできます、という事らしい。
目の前に広がる空間は、薄暗く湿っぽくて、何ともおどろおどろしい雰囲気を漂わせていた。「こ、れは…」ロイカさんも口を押えて呻いている。やはり上に残してくるべきだったか…「いえ、大丈夫です!」それならいいんですが。…ホントに?「本当に大丈夫ですからね!」さいですか。
そして一行がたどり着いたのは、沢山の牢が並んだ通路だった。「あンの野郎一体何してやがった
…」シグさんがそう言いたくなるのも無理はない。牢の中には手枷足枷をはじめとする拷問器具が並べてあって、その全てから血の匂いが立ち上っている。いったいどれだけの人数の人の血がここで流されたのだろうか。
「あ、ドア…」目の前には大きな鉄扉。しっかりと大きな南京錠で施錠されている。「じゃあ…開けますよ」インベントリにしまっていた槍の石突で小突いて錠前を粉砕し、ドアに手をかける。そして…
ドバァン!音を立ててドアを開ける。そこに広がっていたのは…気分が悪くなるような光景だった。
そこにもたくさんの牢が並んでいた。だが、それまで通過した部屋と違って檻の中には人がいたのである。…ボロボロの衣服だけを纏って、生気の見えない眼をした女性達が。
「…クソが」一体誰が呟いたのだろうか。(とにかく女性たちを救出しないと)いち早く衝撃から立ち直ったであろうベディが檻の鍵を粉砕していく。それに伴って、他の皆も各々再起動して動き出した。
「…ねえ」そんなさなか、ベディに声を掛けた者がいた。思わず彼が振り返ると、そこにはやはり暗い闇をたたえた眼で彼を見る、耳の長い女性がいた。「あなたたちは、ここに何しに来たの?」そう問われ、ベディはこう返した。
「あなたたちを閉じ込めた者に一泡吹かせるため。彼は既に捕らえられ、法の裁きを待つ身です」彼が例の悪徳貴族の末路を伝えると、女性はふぅうーっとため息をついた。
「そう、あなたたちは、強いのね」「いえ、策に嵌った彼が墓穴を掘っただけです」そんな会話の後、彼女は唐突にこう告げた。
「ねえ、白い髪のひと。後生だから、私を殺してくれない?」
………………え。この、ひとは一体、何を言って、
「私、他の子たちと違って、攫われて来たの。私たち属性精霊族は、途轍もなく珍しい希少種だから、奴隷として高く売れるみたいで。その時、希少価値を上げるためだって言って、私を攫った連中が私が住んでいた村を焼き払って…お父さんも、お母さんも、村のみんなも…みんな焼き尽くされてしまった。私には、もう帰る場所も、迎えてくれる家族もいないの」彼女は虚ろな表情で話し続ける。
「私にはもう何も残ってない。あるのはボロボロに汚された私だけ。もう耐えられない。このまま無意味に生き恥を晒し続けたくないの。…もう、限界なのよ。だから、どうか私を」そう告げる彼女の目からは、涙が一筋流れていた。
「…そこまで、死にたいと」「ええ。まっとうに生きている貴方には分からな」
「ふざけるな!」
一瞬、時間が停まったような感覚がその場を支配した。ベディは続ける。「貴女のやろうとしている事は、ただの『逃げ』だ。現実から目を逸らしているだけだ!それにそれでは、ここで救われた意味が、僕が貴方を助けた意味がなくなってしまう!」
精霊の血を引く女性も声を張り上げて反論する。「じゃあ…じゃあどうしろって言うのよ!何をしても無駄だって思い知らされて、何にもできない自分が許せなくて…大切にしてた物は全部、全部丹念に壊された!貴方なんかに私の気持ちが分かる訳ない!」
「…分かりますよ」ベディは、先ほどまでとは打って変わって悲しそうに告げた。「え…」あまりのテンションの落差に、彼女を含めた周囲の全員が戸惑った。
「貴女の味わった艱難辛苦は、僕には分からない。僕は貴方ではありませんから。でも…」
彼は言葉を告げる。それと同時に、彼の顔を隠していたマフラーが、彼の手によって解かれていく。
パサリ。マフラーをほどき終わったベディは、左目を隠していた前髪を後ろにかき上げる。それに伴い、隠れていた彼の顔が、部屋を照らしていたランプの明かりに照らされた。
「『死にたい』と、今まで何度も思ってきましたから。だから、あなたの『絶望』は、よく分かる。でもだからこそ、そうやって貴女を死なせる訳にはいかないんです」
そこにあったのは…
左下半分を中心に焼けただれ、無残に黒く変色した顔と、明らかに視えているとは思えない、白く濁った瞳だった…
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