堂々巡り
21話目です。更新が滞って申し訳ございません…
「…ふう、とりあえず周りには誰もいないね…」この屋敷は生垣によって囲まれている。そのため僕が登ろうものなら音が出てすぐ気づかれてしまうのだ。故に、僕たちは下からではなく、上から侵入することにした。具体的には他の家の屋根伝いにね。いやー、大変だった。屋根伝いに移動するのって意外と大変なんだね…
ちなみにこの作戦は領主さん協力のもと行っております。屋根移動の開始地点も領主さんの屋敷だったし。なんでも衛兵さん経由で話を通したら全面的に協力するとのこと。やっぱり何か思うところがあるのかなぁ…
侵入開始から5分経過。「なんだ貴さむぇ⁈」「どうしぐぉ⁈」はい、おやすみ。一応顎に一撃見舞って昏倒させてるから、そう簡単に起きられないだろう。見つかるとまずいので、気絶した巡回兵達を猿ぐつわをかませて後ろ手に拘束した上で戸棚に隠しておく。ごめんなさーい。
(これで3組目…結構見回り多いな)その他にもうじゃうじゃ警備がいる。少々過剰な気もするが…
⦅スキル《隠密行動》を入手しました。サブスキルスロットに配置します⦆
⦅スキル《峰打ち》を入手しました。サブスキルスロットに配置します⦆
…このタイミングで?まあ確かにそんな行動してたけど…どれどれ、《隠密行動》は被発見率を下げる隠形系スキル、《峰打ち》は相手を倒せなくなる代わりに、相手のHPを1にして気絶状態にすることができるスキルか。こういう時には便利だね。《槍術》と《闇魔法》と入れ替えよう。
(しっかし、入り組んだ構造してるな…書斎はどこだろ)重要な書類は大体屋敷の主人の部屋か書斎に保管してあるものだと考えてたけど…多分侵入者対策でこんな入り組んだ構造にしてるんだろうね。わざと迷わせるような感じの。
(…同じところをグルグル回ってるように感じるな)実際そうなのだろう。侵入から15分ほど経っているのに書斎と思しき部屋が見当たらない。(となると隠し部屋か、それとも隠し通路か)そう考えながら通路の一つを見据える。その先は行き止まりで、あるのはただの白い壁だった。
が、(風が流れている)そう、行き止まりは他にもあったが、ここだけ風が吹き込む音がかすかに聞こえるのだ。これはつまり、
カチャリ。(やっぱり…)壁の真ん中付近、ドアならドアノブがついているであろう場所に、押すと裏返って出現するタイプの隠しドアノブがあった。それを引いてみると、その先にはまだ行ったことのない通路が口を開けて待ち構えていた。
(これは…違う。収支報告書か。じゃあこれも…違う。内容から察するに懇意にしている商人のリストかな…?)隠し通路のドアを元のように閉めた後、首尾よく書斎を見つけた僕だけど、デコリ氏の不正に関わるような証拠になり得るものはなかなか見つからなかった。レイも鍵穴からいかにも怪しい金庫の中に侵入したけど、入っていたのは貴金属や金貨など、貴重品しか入ってなかったみたい。
(う~ん、もしかしたらここにはそういうイリーガルな物は置いていないのか?)リスク分散のことを考えると十分あり得る。もし仮にそうなら、探し出すのは困難を極める。さてどうしたものか。
(一応、こういう時の為にプランBは用意してるけど…正直うまくいくか微妙なんだよねぇ…)でもこうしている間にも時計の針は進んでいく。いつ気絶させた連中が起きるかも知れない。今の僕にあまり時間は無かった。
(よし、プランB決行だ)やることは決まった。なら後は実行するのみ。僕は書類を元通りにした後、レイにいくつか頼み事をして、屋敷から脱出したのだった。
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「そうかそうか、問題ないか」次の日(ゲーム内時間)。ベディが侵入した隠し部屋にて。豪奢な椅子の上でふんぞり返るのは、この屋敷の主であるデコリである。
「はい、賊は侵入したはいいものの、どこに何があるか把握できなかった模様です。幸い人的被害も軽微でした」そう報告する警備責任者の顔には冷や汗が流れていた。目の前にいる雇い主は横柄なことで有名である。もし機嫌が悪くなれば…が、「分かった。もういい下がれ」…?どうやらおとがめなし、という事らしい。警備責任者は彼の機嫌が良いことに胸をなでおろしながらその場を後にした。
「あと少しだ、あと少しで…」警備責任者が退去した後の書斎。デコリはそう言いながら卓上の記録結晶(スクリーンショットを保存して置けるアイテムの一つ)を見ていた。そこから立体映像のように映し出されているのは、町はずれの教会で忙しく働くシスターの隠し撮り映像。
もうお分かりかと思うが、全ては彼の仕組んだことだった。先代の神父がすでに亡くなっていることをいいことに借金の証文を偽造、彼女に巨額の負債を負わせて首が回らない状態にした後、自分が借金を肩代わりすることでそれを盾に言いなりにする。彼は今までこの手口を始め、いくつもの手口で何人もの女性を手籠めにしていた。だからこそ、彼は下品な笑みを浮かべ、これからどう彼女を嬲ろうか捕らぬ狸の皮算用をしていたのである。
が、そうは問屋が卸さない。
「旦那、いるかっ!?」手下の一人が血相を変えて書斎に飛び込んできた。慌てて彼は記録結晶を隠すが、入ってきたチンピラはそんなことはどうでもいいとばかりに彼に詰め寄った。
「さっき例の教会の様子を見に行ったら、奴らが証文を盗み出した話をしてたんすよ!それに、証文も奴らの手にあるのを見ました」ガタン。デコリは思わず椅子から転がり落ちた。「な…なんだと⁈」もしそうなら、いやでもしかし、「奴らは隠し場所にたどり着けなかったのでは⁈」そもそもここには特に何も置いていない筈だ。「こっちは囮です!あいつら、こっちを目晦ましに」その一言で彼は総てを理解した。教会の連中は彼の秘密の場所を突き止めたというのか。いったいどうやって。
「い…いかん。すぐにあの部屋の全てを処分しなくては」あの部屋の存在は決して暴かれてはならない。彼の頭は教会にいるという賊をどう始末するか、証文の言い訳をどうするかについて、凄まじい勢いで回転を始めていた。
町の片隅。南側の門から少し歩いたとある裏路地。彼とその手下たちの足は此処に向かっていた。「ハア、ハア…もう少しだ」太っているので馬車から降りて歩くのも辛い。だがこんなところに作ったのは他ならぬ彼自身である。
「ハア、よ、ようやく着いた…」彼の前にはみすぼらしい一軒の家。何の変哲もないありふれた建物だ。そのドアを蹴破らんばかりの勢いで開く。
「⁈なんだ旦那ですか。脅かさないで」常駐していた手下が台詞を言い終わる前にデコリは彼の胸倉を掴んで怒鳴った。「馬鹿者!そんなんだから虫が入り込んだことに気づかんのだ!」そう言い捨てると彼は手下を投げ捨て書類棚へ向かう。「どこだ…どこだ…ああ、なんだあったじゃないか。」彼の手にあるのは紛れもなくかの教会の(偽)証文。証文を偽造するための資料やランタン、偽造した書類に押す判子も無事だ。「やれやれ脅かしおって…」これで彼の心配は杞憂に終わった。
だが、彼はここで二つ、致命的なミスをしていた。
一つは、ここで証拠たりうるものの数々を取り出したこと。
もう一つは…
「はい、案内ご苦労様」
…自分たちが敵の掌の上で転がされていたことに気づけなかったことである。
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