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プロローグ、或いは全ての始まり

2話目です。よろしくお願いします。

「……?」


東京の中心部から外れたとある町。この町に一人で暮らしている青年、佐賀美 想(さがみ そう)は、今まで見たことのない数の人で賑わう商店街で一人困惑していた。


 この商店街は、いわゆるシャッター商店街とまではいかなくとも、年々遠のいていく客足をどうにかしようと、自治会の人々が一生懸命に知恵を絞っているような、いわばゆっくりと衰弱していくような状態である。そんな状態なのに、道を埋め尽くさんばかりに広がるこの客たちは、一体どこから湧き出てきたのか。


 そんな風に訝しみながら、今日の夕飯と明日の朝食の分の食材を持って歩いていると、人口密度が一番高くなっているであろう黒山の人だかりにぶち当たった。いや、ただの人だかりではない。行列だ。軽く100人を超える数の人がそこに集結し、列を形成していたのだった。


「あのー、この列は一体…?」


想は『最後尾』と書かれたプラカードを持った自治会員のおっちゃんに声をかけた。


「ん?ああ想君か。すごい人手だろう。この列の先でくじ引きをやっているのだけどね、特等の景品がそれはそれはとんでもないものでさ。みーんなそれ目当てなんだよ」


そういいながら、苦笑しつつおっちゃんは列の遥か前方、『月一くじ引き大会』と書かれた看板を指差した。


「とんでもない、とは?」「それは見てのお楽しみ。何なら引いてみたらどうだい。その分だと一回か二回は引けるんじゃあないかな」


そう言って、おっちゃんは想の持つ買い物袋を指差した。


「……」


一体何があるのだろう。興味が無いと言えば嘘になるが、さりとて当たるとは到底思えない。ここまで人が来ているという事は、おそらく何かとてもいいものなのだろう。一応、くじを引くための券は会計の際にもらっているが、どうしようか。




「…ハァ…」


結局、想はこの行列に並ぶことにした。正直、さっさと帰りたかったのだが、一応特等を確認したいと思ったのと、なんとなく並んだ方が良いような気がしたのである。欲求が直感(に加えて好奇心)に対して譲歩した形になる。


 この月一開催のくじ引き大会では、いわゆるガラガラが使用される。よくくじ引きで使用される回すと球が出てくるアレ、と言えば分かるだろうか。アレを使用しているため、客の回転は非常に速い。実際、想が右足に疲れを感じるよりも早く順番が回ってきた。


「おろ?誰かと思えば想か。相も変わらずクソ暑そうな格好しよってからに…」


そう景品やガラガラが置かれたテントの中から想に向けて話しかけてきたのはこの商店街の自治会長の孫である。千葉の大学に通う彼が、なぜここにいるのだろうか。


「母親経由で緊急出動(スクランブル)かけられた。簡単な話さ。まあ別にどうとでもなると思ってたけど、これ見るとそうも言えんよなあ」


彼はあっけらかんと想の質問に答えた。どうやら急な客足の伸びに対し、手が足らなくなったらしい。特等はそれほどの物なのだろうか。そんなことを考えながら、想はテントの柱に括り付けられた立て看板を見やると…



 ====================================

 賞品

 特等(金):e-sphere&another world chronicle同梱パック  一名

 一等(赤):沖縄一泊二日ペアチケット            二名

 二等(青):最新式洗濯機                  五名

 三等(黄):そうめん3㎏                  十五名

 四等(緑):トイレットペーパー               百名

 参加賞(白):ポケットティッシュ&キャッシュバック五百円

 ====================================



「な?驚いたろ。どうもじいさまが開発にコネがあったらしくて、一セットだけ融通してもらったんだと。にしてもいったいどういうルート使ったらこんなアクロバット出来るんだか…」


彼はそんな風にぼやいていたが、そんな些末事は想にとってどうでもよくなっていた。成程、この人だかりは特等のES目当てだったと考えれば納得がいく。何しろ例のゲームの発表後、あっという間に予約がパンクしたのだ。どうにかしてほしいと考える者は多いだろう。だが想にとっては至極どうでもいいことだった。


(特等は今はどうでもいいし、チケットをもらっても同行してくれる人もいない。そんなことよりもそうめんだ。何としてでも確保する…!)


……こういうのを花より団子というのであろう。想の視線はすでに三等の大好物(そうめん)に固定されていたのであった。


「フーム…1500円分ご購入頂いたので、一回まわしてくださーい」


引換券とレシートの確認を終えると、彼はそう言って想にガラガラを回すよう促した。


 何故だろう。いざ回そうとすると妙に口の中が乾く。ただ回すだけだというのに、なぜ自分はこんなに緊張しているのだろうか。そんなことを考えながら想は取っ手に手を伸ばし、回す。そうして音を立てながら回されたガラガラから排出された球は…



 日の光に照らされて黄金色にかがやいていた。 


「……ゑ?」



 一瞬、思考が止まる。そしてその間に、


「お、特等じゃん。おめっとさーん」


おーあたりー、とベルを鳴らされてしまった。背後が俄かにざわめきだしたが、想はいまだに思考の再起動に手間取っていた。


「えっと、ちょ、その」「はいはいはい、これ賞品ね。とりあえず使い方は取説読んで」


そう言われ賞品を押し付けられてしまった。


「よし持ったな。忘れ物は?ない?よーし完璧だ、ハイエナ共が寄ってくる前にとっとと帰れ!本日はどーもありがとうございましたっ」


そんなことを聞きながら、想はされるがままに列を離れ、その場を後にするのだった。

いかがでしたでしょうか。良かったらブックマーク等をしてくれると非常に嬉しいです。

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