4-30 妄想力と創造力
「良い子の皆さん、こんにちは〜♪」
「こんにちは〜」と返事をするも、思ったほど声が出ない私。
「コ、コンニチ…ワ」と、困惑気味のエンジャ氏達。
「あれれ〜、おかしいぞう〜。みんな元気ないのかな〜? お姉さんに聞こえるよう、大きな声でお返事してくださいね♪
こんにちは〜!!」
「こんにちは〜〜〜!!!」と、声を張り上げる私。
「コンニチワ〜〜!!」と、私に釣られて声を出すハナナちゃん達。
「はぁい♪ 皆さん良くできました♪」
司会のお姉さんと化した弁財天美は、綴じた扇子をマイクに見立て、ノリノリで進行を続けている。嬉しそうで何よりだ。
いい年したオッサンが司会のお姉さんの進行に付いていこうと頑張る様は、滑稽ではある。声を出すのも気恥ずかしい。だけど、せっかくのイベントが盛り上がらないでは、誰も幸せになれないのだ。だというのに、若い衆のテンションが低いとは嘆かわしい。状況が全く理解できずに途方に暮れるのも分かるけど、もっと盛り上がっていこうぜ! いえ〜い♪
「ここで良い子の皆さんに、悲しいお知らせがあります。
ああ、なんということでしょう。199X年、世界は核の炎に包まれてしまいました!」
天美お姉さんが声のトーンを落とした途端、部室の窓から見える風景が赤く染まった。そして地響きのような爆発音が続く。蛍光灯は消え、部室は闇に呑まれ、窓から見える赤い風景だけが光源となる。ナイスタイミング! 緊張感溢れ得る演出だなっ♪
「海は涸れ、地は裂け、あらゆる生命が滅亡しようとしています。だけどまだ希望は残されていました。それがワタシ達、ハジマリ高校演劇部なのです!」
どこからともなくスポットライトが当てられ、6つの人影が暗闇に浮かび上がった。天美、ヂマリちゃん、ハナナちゃん、ナリザさん、エンジャ氏、そして私。みんな学生服を着ている。
「演劇部の6人正体。それは、かつてオトギワルドを救った、伝説の六勇者達の生まれ変わりでした」
それだとオッサンの私も勇者の一人になってしまうんですけど……。
まあいいか、遊びなんだし、そこら辺はテキトーで。
「しかし、前世の記憶が失われた今のワタシ達は、ただの無力な高校生にすぎません。
幸い学校は不思議な力で護られていますが、障壁が破られるのも時間の問題です。世界を救うため、知恵と勇気を振り絞って謎を解き、前世の記憶を取り戻してください!
君は、生き残ることが出来るか! 参加型アトラクション『ハジマリ高校演劇部最終章、エクスデウスマキナ編』、ハジマリです!
さあ良い子のみなさん、張り切っていっきましょう♪」
「お〜〜〜〜〜〜〜!!!」と、声を張り上げる私。
「オ、オ〜〜」と、渋々声を出すナリザさん達。
ゲームの開始を高らかに宣言した弁財天美は、やりきった満足感で満面の笑顔だ。
しかし、ハナナちゃん、ナリザさん、エンジャ氏の三人は、顔を見合わせ絶賛困惑中だった。
途方に暮れたハナナちゃんが私に助けを求めてくる。
「な、なあ、オトっつぁん。何でこんな事になっちまったんだよぉ。あたしらは『ハジマリ契り』が終わるまで、ごちそう食べながらノンビリ待っていれば良かったんじゃなかったの?」
「ちょっ! それで君らはさっきまで絡んでこなかったのかよっ! いいよなぁお気楽で。
ええっと…なんだっけ? あ、そうか、何でこんな事になったか、だったな。う〜ん、そうだな。強いて理由を挙げるなら、ヂマリちゃんの寝顔が可愛かったからか……」
「なんだよオトっつぁん、やっぱりロリコンじゃねーか!」
「ロ、ロ、ロ、ロリコンちゃうわっ!!!」
まあ確かに色々あってゴチャゴチャしてきたし、ひとまず私が分かる範囲で、おかしな事になった『ハジマリ契り』の経緯を整理してみよう。
これまでの『ハジマリ契り』は、契りを結ぶ対象と、対象が想いを寄せた女性の姿となったハジマリサマの、二人きりの舞踏会によって執り行われてきた。ここで『対象』と呼ぶのは、契りを結ぶ相手が必ずしも人間の男とは限らないからだ。要するにハジマリサマは、フィーリングさえ合えば誰でもいいわけだな。
二人きりの舞踏会は、『ハジマリ契り』が完了するまで続けられる。時間には個人差があって、ハジマリサマに心を開いていれば比較的早く完了するが、心を閉ざしていたり、迷いや疑念が強いとなかなか終わらない。丸一日踊り続けて靴がボロボロになった頃、ようやく終了…なんてことも珍しく無いのだとか。だから参加者は、24時間耐久舞踏会をやり遂げる決意のもと、事前に体力作りなどの対策を立ててから候補者選びに挑むわけだ。
ところがである。今回の『ハジマリ契り』は、ハジマリサマの気まぐれで、この私が選ばれてしまった。よりによってダンスを踊れない私がだ!! シャル・ウィ・ダンス? 無理です。
私の無様な半生を振り返ると、ダンスと言えば、中学時代の運動会のフォークダンスしか覚えが無い。思い返せば今なお悔やまれる。何故私は女子の手をちゃんと握ることが出来なかったのかっ! ピュアすぎんよ中学時代の私! だけどその時のリベンジを、青春真っ盛りの高校時代に果たすことは叶わなかった。だって男子校なんだもの! 嗚呼、進路に悩む中学三年生の私よ、何故共学を選ばなかったのだっ!
くっそくっそ、何だか思い起こすだけで情けなくて泣けてきた。これ以上傷が広がらないうちに話を戻そう。
とにかく、事前の準備も覚悟も出来ていなかった私に、24時間耐久舞踏会なんて出来るはずもない。そこでハジマリサマは、別のイベントで『ハジマリ契り』を執り行うことにした。ここで明らかになる衝撃の事実! 実は『ハジマリ契り』と舞踏会には何の因果関係も無かったのだ!! 単にハジマリサマが人間の真似事をしたかっただけなのね。
『ハジマリ契り』で必要なのは、対象がハジマリサマに心を開くこと。手段は何だってかまわない。でも、だからこそ困ってしまった。私にオトギワルドでの価値観が通用しないため、私をハートキャッチするための最適解が見いだせずにいたのだ。ハジマリサマがダンスホールになかなか現れなかったのも、そのためだった。
だけど予想外のハプニングが起きてしまう。トラウマを呼び起こしたヂマリちゃんが、発作的に泣き出してしまったのだ。仕方なく、ハジマリサマは弁財天美の姿でご降臨なされたわけ。つまりこの時点では全くのノープランだったのね。
ヂマリちゃんを天美の膝枕で寝かしつけながら、ハジマリサマが何を考えていたかは、神のみぞ知る…なのだけど、内心焦っていたのではないかと私は想像してる。
だけど、そこから事態は急速に動き始めるのだった!
泣き疲れて眠ったように見えるヂマリちゃんと、膝枕をしているセーラー服姿の弁財天美を見て、とっさに私は演劇部での一コマを連想する。
ヂマリちゃんラブリー♪
そんな私の妄想に、ハジマリサマ猛烈にときめく!
早速不思議な力で、神殿内の空間をダンスホールから学校施設に作り替えてしまう。さらに私やハナナちゃん達の服装までも、学生服に変化させてしまっていた。
あれ? スカート姿のハナナちゃんとか、激レアじゃないですかっ♪
見慣れた子の意外な姿を見て、雄斗次郎に電撃走る!
テンションの上がった私は、6人の学園ドラマを即興で妄想! 廃部寸前の演劇部を盛り上げようと頑張る少年少女+おっさんの、学園ラブコメディとしてプロットを組み立てる。ところが肝心のクライマックスに、これまでの展開を全てを台無しにする、デウス・エクス・マキナな超展開をぶっ込んでしまう。
この少年漫画の打ち切りエンドっぽい展開がたまらんのですよっ♪ 分かるかな〜、わっかんね〜だろうな〜
ところが、この打ち切りエンドから、ハジマリサマが閃いた! 閃いてしまった!
閉鎖空間に閉じ込められた仲間達が、力を合わせて謎を解き、世界を救うために本当の自分を取り戻す…。このプロットをアトラクションとして昇華すれば、舞踏会なんかよりずっと楽しいイベントになるに違いない!…と。
「………………」
「な、なんだよオトっつぁん。あたしの顔に何か付いてるか?」
「ハナナちゃん済まなかった。訂正しよう。原因はヂマリちゃんの寝顔だけじゃなかった。
ハナナちゃんのセーラー服姿も、最高にファンタジスタさっ♪」
「何言ってるんだよ! わけわかんねーよ!」
ボーイッシュな子がたまに見せる、女の子らしい仕草とか表情とか、萌えませんか? 萌えますよね♪
まあ、そんなこんなで、私の妄想力とハジマリサマの創造力が合わさり、トントン拍子に化学反応を起こした結果、『ハジマリ高校演劇部』は誕生した。素晴らしいな。感動的だな。だが無意味だ。
自己完結して何の意味がある? これじゃ自己満足と大して変わらない。
イラストを描けばpixivに投稿したくなるし、ノベルを書けば小説家になろうにうpりたくなる。動画を作ればニコやようつべに上げたくなるし、TRPGのシナリオを作れば配布前にテストプレイをしたくなる。何故か?
それは読者の、観覧者の、視聴者の、プレイヤーの、反応が知りたいからだよ!
そんな想いが、『ハジマリ高校演劇部最終章、エクスデウスマキナ編』という名の参加型屋内アトラクションへと昇華され、今の状況が開始されてしまったわけだ。
正にオトギワルドとガングワルドの、夢のコラボレーション! このイベントを通して、二つの世界に友情の架け橋が…って事にはならないだろうけど、僅かでも貢献できたなら、嬉しいな〜と思っている次第である。
「………というわけなのだよ。わかったか?」
「あはは、オトっちゃんゴメン。話が長すぎて途中で寝ちゃった♪」
「ええっとごめんなさい、ナリザもおねむでした〜♪」
「オレもです。さーせん」
………私こそ申し訳ない。やり方を間違ったみたいだ。気合いが足りなかったんだな。反省しよう。
「じゃあ野郎共! もっとかい摘んで話すぞオラァ! 耳かっぽじってよく聞いてろよウラァ!」
「お、おう! ガッテンだっ!」
よかった。これなら3人とも眠らずに聞いてくれるみたいだ。でもまいったな。この話し方…ていうか怒鳴り方、のどが痛くて凄く辛い。飽きさせないって事は大事だけど、長くは続けられないぞ。何とか短くまとめないと…




