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4-23 適切な言葉

「お、お父サマ! どうか落ち着いて! 落ち着いてくださいまし!」


 私の両手をギュッと握り、懸命に落ち着かせようとするヂマリさんを見ていると、不安や恐れがどこかへ行ってしまう。ああやっぱり、一生懸命な女の子って良いよねぇ。


「ありがとう、落ち着いたよヂマリさん」

「…………」

「え? なに?」

「いえ、その……何だか余所余所しい感じがして寂しくなってしまいまして…」


 そう言って寂しそうにうつむくヂマリさん。しかし意を決したか、頭を上げると決意の眼差しで私をキッと見つめる。


「お、お父サマ、お願いがございます!」

「な、なにかな?」

「ワタクシのことはなにとぞ、親しみを込めてヂマリちゃんとお呼びくださいまし!」

「へ?」


 あれ? ついさっきまで、ちゃん付けは馴れ馴れしくて嫌だと言ってなかったっけ?


「も、もしくはヂマリたん♪」

「…ヂマリちゃんにしようね」

「ちぇっ」


 ごめんよヂマリちゃん。女の子をたん付けで呼ぶのは、気恥ずかしくて私が辛い。

 ヂマリさんの親しげな変貌は嬉しい。だけど同時に、外堀を埋められている感が凄くてかなり怖い。可愛らしい笑顔の中にも、絶対逃がさないっていう鋼の意思……いや、金剛石のごとき頑強な意思が、伝わって来るのだ。

 そんなヂマリちゃんが、今度は愁いに満ちた瞳で私を見つめてきた。くっ! ヤバい! 目が離せない。もしやこれがハニートラップ!?


「不安をかき立ててしまい、申し訳ございませんお父サマ。誤解を招くような言い回しだったようです」

「誤解? えっと……なんだっけ?」

「『きっと良い子が産まれると思います』と」

「あ〜〜〜。うん、そうだったね。ちょっとパニクっちゃったかな?」


「ちょっとどころじゃねーだろ♪」とハナナちゃんに突っ込まれるが、ここは無視。


「『ハジマリ契り』とはその名の通り、ハジマリサマと契りを交わす儀式の事です。新たな可能性を秘めたお子を産むため、地上ビトの殿方から協力者を選びます」

「誤解する余地はどこにもないと思うけど……」

「いえ、それがですね……。ハジマリサマがお子を産むのに…………

 あの……お父サマ? ワタクシ共妖魔にとって、これは何ら意味のない言葉ですけれど、もしかして、口にしてはいけないのでしょうか?」


 察し!?


「そ、そうだね。女の子が安易に口にしちゃ絶対にダメだからねっ!」

「でしたら遠回しに表現いたしますね。

 …ハジマリサマは新たなお子を産むために『あんなこと』や『こんなこと』をする必要は無いのです」


 そ、その言い回しも女の子的にどうかな。直接的な表現よりはマシだけど、品位に欠けるかなぁ。

 しかしエロい事しなくても子作りできるって事は……ハジマリサマは単為生殖が可能って事か? いや、確かにそうかもしれない。ギリシャ神話によると、カオスの中から最初に産まれたガイアは、自らの力だけで4柱の古神、天空神ウラノス、海神ポントス、暗黒神エレボス、性愛神エロスを産み、母となったそうだ。

 その後ウラノスと親子婚をして男女6柱ずつの子供を産むわけだから、やっぱり男がいた方が良いわけで。やっぱり誤解する余地なんてどこにもないんだけどなぁ……。


「いえ、そうじゃありません! そうじゃないんです! ああんもう! なんて言えばいいの?」


 適切な言葉が見つからず、とてももどかしそうだ。ヂマリちゃんは私の心が読めるけど、私はヂマリちゃんの心が読めないからなぁ。


「お父サマ! 少しばかり『お父サマの図書館』をお借りしてもよろしいでしょうか!」


 私の図書館? もしかして脳内知識ってことかな?


「そう、それです! お父サマが頭に貯め込んだ知識にアクセスさせていただきたいのです。お父サマの叡智から、最も相応しい言葉を探させてくださいまし!」

「それはまあ良いけどさ。今更恥ずかしがってもしょうがないし。でも、痛くしない?」

「……多分。でもちょっと頭痛がする…かも?」


 ヂマリちゃんは私の頭を下げさせると両腕で掴み、おデコ同士をコツンとぶつける。私の方が熱があるようで、ヂマリちゃんの額は冷たかった。ヂマリちゃんは「しばらく待っていてください」と言い残し、そのまま動かなくなった。もしかしたらヂマリちゃんの意識が私の脳内世界にダイブしちゃったのかな? 攻殻機動隊みたいだな。……などと考えていると、意識が戻ってきたかのように、ヂマリちゃんが目を開く。


「分かりました! 見つけましたよ、お父サマ♪ 見つかりましたよ、適切な言葉♪」


 嬉しそうなヂマリちゃんは、悲しそうなヂマリちゃんより数十倍は魅力的だ。やっぱり女の子の笑顔は最高だな!

 しかしその笑顔から出た言葉は、思いがけないものだった。


「ハジマリサマがおやりになっているのは、『創作活動』なのですよっ♪」

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