4-22 お父さんといっしょ
「探したぜオトっつぁん! もう勘弁してくれよ。いきなり走り出してどっか行っちまうんだもんなぁ」
「みんなごめんな。ちょっとパニクっちまってさ」
「………で、その子、誰よ」
笑顔で駆け寄ってきたハナナちゃんの顔が、たちまちムッとした顔に豹変する。行方をくらませた私を心配してたのに、見つけてみれば美少女と手を握ってヘラヘラしてるんだから、そりゃあむかつくよなぁ。
ハナナちゃん達がいつ鳥居をくぐり抜けたのか定かではないが、パニックに陥った私が駆け出すところを見ていたのなら、ヂマリさんも目撃してると思うのだが…。私に目が向いて視界に入ってなかったのか? それとも、ジマリさんも私を追いかけていたから、彼女の背中しか見てなかったのかな?
「ハナナ殿。ワタクシは心と言葉が一致する者が好きです。それがあからさまな敵意だとしても、綺麗な言葉で邪悪な欲望を覆い隠そうとする偽善者共より、遥かに好感が持てますよ。ワタクシに向ける貴方の敵意。ピュアで可愛らしくて、実に興味深いです♪」
「なっ、なにキモイ事言ってんだよっ! ……ていうか、なんでアタシの名前知ってるのさ」
「情報源は様々です♪ 心を読んだり、エンジャ殿から話を聞いたり、独自に地上を調査したり。ハナナさんは結構な有名人なのですよ。裏表のない貴方のファンになる『ヒト妖魔』も少なくありません」
「お、おう……」
思いがけない話に困惑するハナナちゃん。そこにフォローのつもりかエンジャ氏が割って入る。エンジャ氏のマントにしがみつくナリザさんは、生まれたての子鹿のように震えながら、後ろからついて来ていた。本当に怖くてたまらないようだ。かわいい♪
「こ~ら~ハナ坊、そのお方はこの神殿の巫女姫、ヂマリ様なるぞ。ちっとは控えなさい。お許しくださいヂマリ様。連れの無礼をお詫びいたします」
「かまいませんよエンジャ殿。今日は無礼講だと申したでしょう? 堅苦しい挨拶など無用。それがハジマリサマのお望みでもありますから」
頭をかきながら苦笑するエンジャ氏。謝罪にしてはずいぶんとノリが軽いと思ったけど、なるほど納得。ハジマリサマの御意向なのね。
「ときにエンジャ殿。神殿内をあちこち嗅ぎ回っておいでのようですが、何か成果はございまして?」
「いやいや、確かに好奇心旺盛な性分ですが、足手まといを2人も連れて潜入捜査なんて無理ですって。普通に迷ってたんですよ」
今のはヂマリさんに確信があったわけじゃなくて、エンジャ氏に探りを入れたって感じだな。質問をぶつければ、その答えを心に浮かべてしまうから、そこをすかさずヂマリさんが読み取るって寸法か。
対してエンジャさんも素直に本音で語っているように思える。心を読めるヂマリさんに隠し立ては悪印象しかないし、唯一の正解なんだろうな。
そう言えば、野薔薇ノ王国はどうして王宮戦士を神殿に派遣したんだろう。攻撃に来たのでないなら誰かの護衛だろうか。それともヂマリさんが探りを入れたように神殿の偵察とか? もしかして、私には想像も付かないような心理戦が2人の間で繰り広げられたりするのかな?
すると、私の心を読んだヂマリさんが疑問に答えてくれた。
「エンジャ殿は『ハジマリ契り』の参加者の1人だったのですよ。他の王宮戦士の方と共に参列しておりました」
「そうっすよ~。ハジマリサマの加護があれば、何かと有利ッスからね。戦いでも常に先手が打てますし、もちろん立身出世にも役立つとくれば参加しない手は無いっしょ」
「それはまた……ごめんなさい」
「いやいや、オトジロさんが謝ることじゃないでしょ。女神様ってのは気まぐれなもんですし、もとよりダメモトでしたからね。気にしないでくださいよ。それにしても……」
…とエンジャ氏が向けた視線は、私の右手に突き刺さる。
はっ!! し、しまった! ヂマリさんと手をつないだままじゃないかっ!!
まずい! このままではロリコンと誤解されてしまうぞっ! 事案が! 事案が発生してしまう!
でもヂマリさんが両手でがっちりホールドしていて離してくれない! 逃げられない!
ん? ヂマリさんの肩が震えてる……? 笑いをこらえているのか。
っていうか、私の心の叫びって、心が読めるヂマリさんにはまる聞こえじゃねーかっ! そりゃ笑われるわ~。
……などと激しく動揺していると、エンジャ氏がさわやかな笑顔でこう言った。
「なんかスッゲェ馴染んでますね。まるで本物の親子って感じッスよ♪」
は? 親子? 変質者と被害者じゃなくて? 言われてみれば確かに……オタクなお父さんが娘にコスプレさせてイベント会場にやってきた……みたいな雰囲気があるな。
ヂマリさんも予想外の発言だったのか、キョトンとしている。エンジャさんの心が読めてなかったのか? まあさっきは私の心の叫びに注意が行っていたみたいだし、複数の人の心をいっぺんに読むのはゴチャゴチャして大変なんだろうな。
「チクショー! 負けたー!!」
今度はハナナちゃんが叫んだ。負けず嫌いのハナナちゃんが戦わずして敗北宣言? 一体、何の勝負でヂマリさんに負けたというのか。もしかして、どっちが私と親子っぽく見えるか競ってたとか?
「ワタクシと雄斗次郎サマが親子……ですか。あながち間違いではありませんね。でしたらワタクシもこれからは、雄斗次郎サマのことはお父サマとお呼びすることにいたしましょう♪」
「な、なんでヂマリさんまでっ」
「ハナナさんが『オトっつぁん』で、ナリザさんが『お父さん』でしょう? ならばワタクシも乗るしか無いじゃありませんか。このビッグウェーブに♪」
「それじゃあオレ様も、オトジロさんのことは父上って呼ぶことにするぜっ♪」
「いやいやいや、何故エンジャさんまで便乗するんですかっ! 男は基本NGなんですがっ!」
「そんな露骨に嫌がらないでくださいよ~。だってほら、ハナ坊はオレ様の弟分だし、ナリザは妹みたいなものじゃないすか♪ ならば父上とお呼びするのも必然っすよ♪」
エンジャ氏の露骨な脈無しアピールに、「ウエ~~ン」と涙目でエンジャさんの背中を連打するナリザさん。うん。今は泣いていい。
それにしても、どうしてみんな私を父親視するんだ? 確かに年相応ではあるけど…。ハナナちゃんくらいの子がいても違和感無いけど…。でも、父親らしい威厳ある姿なんて一度も見せた事なんて無いんだぜ? 情けない姿ばかり晒しているのにさ。
野薔薇ノ王国って深刻な男不足だと思ってたけど、本当に深刻なのは父親不足なんじゃなかろうか。
ん?
ちょっとまて……。さっきヂマリさんは、なんて言った? 確か「あながち間違いじゃない」とかなんとか……
するとすかさずヂマリさんが笑顔で反応する。
「確かに申しましたよ。ですからワタクシもお父サマと呼ぶことにすると。確かに申しました♪
お父サマって、いつもはビックリするほど察しが良いのに、こういう時は呆れるほど鈍くなるのですね。これが現実逃避というものなのでしょうか」
「え、え〜っと、ヂマリさん? それはどういうことなんでしょう?」
「それはあれっすよ父上。年貢の納め時ってヤツっす」
「だからおめーは息子面してんじゃねーっ!!」
「ええ〜〜〜! ショックだなぁ。認知してくださいっすよ、ち・ち・う・え〜〜♪」
くそっ! コイツめ、完全に遊んでやがる! みんなもニヤニヤしやがって!
……まあ、楽しんでもらえるならかまわないのだけど。
「えええっ、か、かまわないのですか?」と即座に反応するヂマリさん。
「面子とかプライドのたぐいなんて今の私には無用の長物ですからね。とっくの昔に捨て去りましたよ。体育会系的縦の繋がりも昔から大っ嫌いでしたし。それに今は無礼講なのでしょう?」
「無礼講ですか。……なるほど。やはりお父サマとハジマリサマとの相性は、とても良いようですね。ワタクシ安堵いたしました♪
きっと良い子が産まれると思います♪」
やっぱり『ハジマリ契り』ってそういうことですかぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!




