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4-19 契りの間

 ギリシャ神話によると、カオスより生まれ、様々な神や怪物を産み出した大地の女神ガイア。しかし最強最悪の怪物テュポンを産んだ後は、表舞台から姿をくらませていた。テュポンが神王ゼウスによって倒された後、彼女はどこで何をしていたのか? その答えがこの《ハジマリ》の神殿だ。

 彼女は地下に潜り、神でも怪物でもない新たな生命体『妖魔』を産んでいたのだ。

 だけど目的はなんだろう。ゼウスへの復讐だろうか? ガイアにとってはゼウスも息子だが、ゼウスに倒された巨人族や醜い怪物もまた愛しい子供達。神王として権力を一手に握り、我がもの顔で君臨するゼウスは許せない。だからゼウスを懲らしめるべく、テュポンよりも強い怪物を産みだろうとしていたのだろうか………


「雄斗次郎サマ!」


 ヂマリさんだ。

 どこからかヂマリさんの声が響いてくる。

 その必死な声は、私を呼んでいるようだ。


「雄斗次郎サマ、しっかり! しっかりしてくださいまし!」


 気がつくと、ヂマリさんが心配そうに、私の顔を覗き込んでいる。

 かわいい。

 この子が妖魔だなんて…。幾度も地上に侵攻し、人々を恐怖させてきた妖魔の一員だなんて…、とても信じられない。

 いや、それ自体が誤解で偏見か。地上の人々はともかく、私は今し方妖魔の真実を知ったのだ。妖魔にも色々いる。恐ろしい怪物のような妖魔もいるが、可愛らしくて素敵な妖魔もいるのだ。

 それはそれとして………


「ええっと、あの、ヂマリさん? ちょっと照れ臭いのですけど…、どうして私の両手を握ってらっしゃるのですか?」

「覚えていらっしゃらない……のですね。雄斗次郎サマは突然、叫び声を上げながら走り出してしまったのですよ。両手で捕まえているのは、また走り出さないためです」


 どうやら私は、あまりにもトンデモナイ状況に気がついて、パニックを起こしてしまったらしい。一時的な狂気ってやつか。


「これはまた、とんだ失態を……。申し訳ありません、ヂマリさん」

「察しが良いというのも考え物ですね。肝を冷やしました。神殿で無闇に走らないでくださいね。無闇に入ると危険な場所もあるのですから」

「以後気をつけます。ところで……そろそろ手を離していただけませんでしょうか」

「ダメです」

「ええっと……何故なんでしょう?」

「想定以上に雄斗次郎さんのメンタルが弱くて、気が気でないからです」

「重ね重ね、申し訳ありません」

「少なくともワタクシが安心できるまでは決して離しませんので、我慢してくださいね」


 いやいや、カワイコちゃんとのスキンシップなんて、むしろご褒美なんですがっ!!!


 ところで………ここはどこだ?

 私達が立っていたのは大きなホールだった。中央には何も無く、天井にはまばゆいシャンデリアが吊されている。

 辺りを見回すと、ホールの右端に沢山の料理の置かれたテーブルが見える。バイキング形式の立食パーティーでもしていたのか、複数の人が食べ散らかした形跡があった。だけど今は誰もいない。

 ホールの左端を見ると複数の椅子の上に様々な楽器が置かれていた。楽団が演奏をしていたように見えるが、休憩で席を外しているのか、こちらも今は誰もいない。

 正面を見ると、ホールの奧には5段ほどの横長な階段があり、その上には王座を思わせる豪華な椅子が置かれていた。

 これはもしかして、舞踏会の会場ではないだろうか? それも普通のダンスホールではなく、おとぎ話に出てくるような、お城の舞踏会会場に見える。

 

「ここは間違いなく神殿ですよ、雄斗次郎サマ。『契りの間』と呼ばれています」

「契りの間……と言いますと?」

「ハジマリサマと契り交わす殿方を選ぶための広間です」

「ええっと……ごめんなさいヂマリさん。もう少し詳しくお願いします。今日ここで、一体何が行われようとしていたのでしょう?」

「そうですね。雄斗次郎サマにとっても重要なことですし、順序立ててお話いたしましょう」


 ヂマリさんは静かに話し始めた…。

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