4-17 神域へ 【8/21挿絵追加しました】
「なあなあニキよぉ、一体どんな神様が祀られているのさ。《ハジマリ》の神殿なんて聞いたことないよ」
「そりゃそうだろう。オレ様だってあんな神殿、今日初めて知ったからな。何しろ参拝できるのは百年に一度きり。地下神殿で正確な所在は不明。おまけに唯一の入り口は妖魔窟の最深部にあるときた。つまり、この奧だ」
そう言うと、エンジャ氏はラスボス部屋の奧を指さした。
そんな馬鹿な、と私は困惑する。ナノミノノ妖魔窟の最深部は、このラスボス部屋だ。この奧に神殿を築けるような広い空間なんて無いはずだ。迷宮ナビにだって何も…………ん?
迷宮ナビが表示する第5階層マップをよく見ると、ラスボス部屋の奧に何かある。なんだろう。もしかして隠し扉だろうか。
「ちなみに、祀られている神様はハジマリサマって名前らしいぞ。巫女の話を聞く限り、子孫繁栄とか、安産祈願の神様みたいだったな」
ええっと…。御利益からして、ものすご〜く庶民受けしそうな、平和的な神様なんですが……。
ハジマリサマって確か、妖魔窟の主でしたよね? 私の勘違いじゃないですよね?
たわいのない話をしながら、私達はラスボス部屋の奧へと歩いてゆく。
エンジャ氏と話すハナナちゃんは、活き活きしてて本当に楽しそうだ。今でも心から慕っているのだろう。なんだか微笑ましい。
エンジャ氏に一矢報いたいナリザさんは、ギラギラしてて本当に悔しそうだ。今でも心から慕っているのだろう。なんだかやるせない。
「うりゃ〜〜〜〜〜!」
唐突に雄叫びを上げて突撃するが、エンジャ氏には難なく避けられる。
「おいおいナリザよ、それで不意打ちのつもりかぁ? 殺気出し過ぎ。声に気合い入れすぎ。そんなんじゃオトジロさんにだって避けられちまうよ」
エンジャ氏それは買いかぶりすぎだよ! 私はリナリアちゃんのグーパンすら避けられない、運動神経の鈍い男なんだよ! リナリアちゃんのグーパンだったら、むしろこちらから喰らいに行っちゃうけどさ。
エンジャ氏は再び繰り出された猛ラッシュを避け続けていたが、いい加減うざくなったか、ナリザさんを羽交い締めにしてしまう。スタミナ切れか、力無く抵抗するナリザさん。その姿がどこか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか? 切ないなぁ……
そして辿り着いたラスボス部屋の奧。壁際に建てられていたのは、人がくぐれるほどの大きさの鳥居だった。
そう、それは確かに鳥居だった。日本の鳥居とは明らかに別物だが、二本の柱と上端に渡された梁という形状は、正に鳥居と呼ぶしかない代物だった。違いは様式がギリシャ建築に酷似している事だった。特に白大理石で造られた二本の柱は古代ギリシャの遺跡を彷彿とさせた。
迷宮ナビが表示していたものの正体は、間違いなくこの鳥居だ。だけど、鳥居のすぐ先には洞窟の壁があり、地下神殿のありそうな空間なんてどこにもない。……となると、考えられるのは一つだけ。我が故郷ガングワルドではおおよそあり得ない事だが、ここは魔法やドラゴンが実在する世界、オトギワルドだ。そして鳥居とは、神域への入り口を示すもの。つまり、この鳥居こそが地下神殿への入り口なのだ。
「ところで二人とも、オレ様の任務はオトジロさんをハジマリの神殿に連れて行く事なんだが、オマエラまで連れて来いとは言われてないんだよな。おとなしくしてるって約束できるなら連れて行ってもいいし、怖いならここで待っててもいい。どうするね」
羽交い締めにされているナリザさんが、ジタバタしながら返答する。
「ナリザ達、ここにはお仕事で来てるんです〜! お父さんを無事に連れ帰る責任があるんです〜! ナリザもついて行くに決まってるんです〜!」
ハナナちゃんも冷や汗をかきながら返答する。
「いやいや、ここってラスボス部屋だぜ? 独りで残る方がよっぽどコエエよ! だからアタシも行く!」
「じゃあ最後にオトジロさん」
「え? あれ? 私に選択権なんてありましたっけ?」
「はっはっはっ♪ そうでしたそうでした♪ では早速」
「いや、ちょっと待って! まだ心構えがっ! あ〜〜〜〜〜っ!」
エンジャ氏の容赦ない背中押しで、私は無理矢理鳥居に押し込まれ……
気がつけば、見知らぬ部屋で膝を地に付けていた。
第一印象は『まぶしい』だった。
照明は明るく、部屋の壁は白い。しかも迷宮では夜目に慣れていたので、余計にまぶしかった。
第二印象は『異様』だった。
目が明るさに慣れてきたので辺りを見回すと、自分が鳥居に囲まれている事に気付く。
どれも同じ大きさで、人がくぐれるサイズの鳥居が、合計11基。アナログ時計の1時から11時の文字盤に当たる部分に鳥居が一つずつある。これらは門なのだ。11基の鳥居全てがどこかの妖魔窟に繋がっているのだろう。そして12時にあたる部分には何も無い。恐らくは通路。この先へ進めば神殿に行けるのだろう。
そして第三印象は『萌え』だった。
気がつくと、古代ギリシャを思わせる白いキトンを着た少女が側にいた。見上げると、12〜3歳の可愛らしい萌え美少女だと分かる。肌は白く、紫の髪には特長のあるツノの髪飾りを付けていた。
彼女の気品溢れる姿に、私は思わずその場に正座してしまう。すると何を思ったか、彼女もその場で正座した。私の咄嗟の行動を異世界の礼儀作法と解釈して、なるべく礼を失せぬよう模倣した……のだろうか? あながち間違いではないが、色々間違っているような気がする。
そして少女は、私にこのように語りかけてきた。
「大黒雄斗次郎サマ。《ハジマリ》の神殿へようこそいらっしゃいました。
ワタクシは《ハジマリ》の神殿の巫女姫、ヂマリと申します」




