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4-16 王宮戦士

 野薔薇ノ王国には軍隊が無い。武装組織と呼べるのは、街の治安を護る憲兵団。王族や政府中枢を護る近衛団。情報機関の公安団の三組織のみである。

 昔はあったのだが、資金面と人材面から維持が困難と判断し、当時の政権が廃止してしまった。曰く「金食い虫で平時は役立たずの軍隊は無くすべきである。国土防衛は帝国を頼ればよい」

 国防を帝国に頼れば、帝国軍の駐留を許すことになる。属国で済むならまだ良いが、国内で武装蜂起されれば抵抗する術はない。王家は滅ぼされ、富は奪われ、民は陵辱しつくされ…。縁もゆかりもない者達によって,彼の地は支配されるだろう。そんな風に危機感を覚えたのが当時の女王陛下だった。

 野薔薇ノ王国は野バラ姫を始祖とする王国。その尊き血筋を後世に残すため、王位は女系女子にのみ継承されている。政は夫となる国王に全て委ねられ、口出しは出来ない。だけど女王陛下にはたった一つ切り札があった。王家の資産は全て女王陛下が相続していたのだ。

 長年引き継がれてきた王家の資産は,小国にしては莫大だったが、それでも軍を組織するには心細かった。国と民を護るためとはいえ、大切な資産を食いつぶしてはご先祖様に申し訳が立たない。最小限の出費で、最大限の効果を出さねば意味が無いのだ。苦悩する女王陛下に思いがけない提案をしたのは、お付きのメイドだった。


「軍隊を作れないなら、軍隊に匹敵するほど強い戦士を招いてはどうでしょう」


 それが王宮戦士計画の始まりだった。

 とんでもない逆転の発想だが、オトギワルドには化け物じみて強い人達が実際いるのだ。ただ、多くはその強さ故に誤解され、人や社会との距離が掴めず、犯罪者として投獄されたり、世捨て人として孤独に生きていた。

 彼らを招き、王国と民を外敵から護ってもらう。報酬には個人が受け取るには法外な金品と、王国内での地位と名誉を保証。活躍次第で尊敬と愛情も上乗せされる。如何なる過去も不問にする。ただし、女子供を殴るのだけは絶対に許さない。王宮戦士に求められる資質とは、そのものズバリ。強くて優しいスーパーヒーローだったのだ。

 以上の条件を満たす戦士を見つけ出すため、その任務は発案者であるお付きのメイドに託された。彼女の名はカワミドリという。彼女は提案したことを心底後悔したそうだが、それでも世界中を巡り、必至に戦士を探して回った。使命の重さに押し潰され、血反吐を吐いたのも一度や二度では無い。何しろ、王国の命運は彼女の肩に掛かっていたのだから。

 こうして見つけた最初の王宮戦士『監獄ノ勇者』は伝説となる。たった一人で数千にも及ぶ妖魔の軍勢と戦い、王国と民を救ったのだ。


 カワミドリと『監獄ノ勇者』のトゥルーラブな物語は、長くなるので割合する。が、偉大なる先駆者のおかげで、王宮戦士は国内外から一目置かれる存在になったわけだ。そんな王宮戦士に、エンジャ氏はスカウトされたのだ。その実力は折り紙付きなのだろう。ハナナちゃんが尊敬の眼差しを向けるのも納得だ。

 そんなエンジャ氏の目が初めて私に向けられる。ヤダ、ハズカシイ! ドウシマショ!


「ええっと、どうも始めましてエンジャさん」

「あんたがオトジロさんかい。弟分が世話になってるって聞いたよ。あんがとさん」

「へ、弟分…ですか? ……誰のことでしたっけ? 思い当たらないのですが」

「鈍いなオトっつぁん。ほら、アタシだよ♪ ア・タ・シ♪」

「こりゃハナナちゃん! そこは納得しちゃいかんでしょ!」

「いやいや、自分で言うのもなんだけど、昔のアタシはほんと酷かったんだから! 二つ名も『ハナタレ小僧』だったし」

「まあ、言い訳ってわけじゃないんですがね、オトジロさん。小僧のふりしてた方が比較的『安全』だッたんスよ」

「安全? ああ、なるほど。……確かに一理ありますね」 


 冒険者ってのは大体外国人で荒くれ者ばかりだし、犯罪者予備軍みたいなものだからな。……まあそれ以前に、幼い女の子が冒険者やってたことの方が問題な気もするけど。


「ああそうだっ! 忘れてたっ! 感動の再会とか喜んでる場合じゃないんだよ! 助けてよニキ!」


 ハナナちゃんが突然、アタフタし始める。


「助けてって……何がどうしたよハナ坊」

「大変なんだよ! アタシら迷宮に閉じ込められちゃったんだよ! ニキなら火炎で岩だって熔かせるだろ! 助けてよ!」

「なるほど。そう来るかぁ…。

 確かにそうだよなぁ。オレ様チョ〜格好良くて頼りになるし、ハナ坊はアホの子だからなぁ」

「誰がアホだぁっ! アタシはアホじゃねぇ!」

「う〜ん………」

「何考え込んでんだよ。もしかしてニキ、出来ねーの?」

「いや、岩を溶かすくらいならわけないぞ。ただな…。こんな狭い迷宮で岩を溶かすほど火力を上げると、先にお前らがコンガリと焼け死んじまうからなぁ」

「う……、それじゃあダメかぁ」

「それよりハナ坊よ。何かおかしいって気付かないか? アホじゃないなら気付くよな?」

「あ、当たり前だぁ! もうとっくに気付いてるっての!」


 そう言うと、ハナナちゃんは困り顔で私をガン見する。一目で判る、あからさまなアイコンタクトだった。

 あー、はいはい。出しますよ。出しますともさ。助け船、出港しま〜す。


「もちろんハナナちゃんもおかしいって思ってますよ。どうしてエンジャさんが、ここにいるんだろうって」

「そうそう♪ アタシもおかしいと思ったんだよ♪ どうしてエンジャニキがここにいるんだろうって……え?

 いやオトっつぁん、そこは別におかしくねーよ! アタシらに会いに来たに決まってんじゃん!」


 するとエンジャさんが大笑いした。嬉しそうに、ホッとしたかのように。


「はっはっはっ♪ いやいや流石、ガングビトは違いますなぁ♪ 知性に溢れてらっしゃる♪ 冒険者ってのは脳筋ばかりでねぇ。時々ウンザリするんですわ〜♪

 いいかハナ坊。順序立てて話すからちゃんと聞けよ。

 一昔前の勇者みたいな赤い服に白マント。これは王宮戦士の制服だ。オレ様がこの制服を着てるって事は、王宮戦士として任務遂行中って事だ。つまりオレ様は、迷宮に迷ったわけではなくて、任務のためにここにいる。それは判るよなハナ坊?」

「お、おう」

「次に、オレ様がここにいるのは、今日、ナリザが仕事で潜るのを知ってたからさ。巻き込むなら、身内が行った方が良いだろうって上の判断な。ハナ坊までいるのは予想外だったが。つまり、お前達に会うのは任務のついでって事よ。ガッカリさせて悪いなハナ坊♪」

「なんだよニキ〜。ヒドイよ〜」

「でな、オレ様が受けた任務ってのが……。

 あんたですよ、オトジロさん♪ あんたの護送がオレ様の任務って訳だ♪」


 あ〜、やっぱりかぁ〜。

 確証は無かったけど、予感はしてた。


「流石はガングビト。『あ~、やっぱりかぁ~』って顔をしてますな♪ 察しが良さそうなんで聞きますが。どこに連れて行かれると思ってます?」

「今の状況からして、この迷宮の主がいるところ……ですよねぇ」

「いやいや、素晴らしい! 御明察の通りですわ♪」


 エンジャ氏は姿勢を正すと私に向かって敬礼し、私にこう言った。


「ガングビトのオトジロさん。これより貴方を《ハジマリ》の神殿へとお連れいたします」

「連行…ですか」

「はははっ♪ まさかまさか♪ そんなそんな♪ でもまあ、抵抗は無駄だってのは確かですな♪」


 そりゃまあ、退路を断たれた上に、王宮戦士のお出迎えとなれば、大人しく付いて行く以外の選択肢は無い。

 それにしても分からない。迷宮に現れる妖魔って、人類の敵だよね? でも王宮戦士は人類の味方。少なくとも王国の味方だ。そしてこれから向かうのが《ハジマリ》の神殿…。《ハジマリ》って『始まり』のことか?

 一体何が始まるんだ? 迷宮の主って一体何者なんだ?

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