4-15 エンジャ
「おいおいナリザどうしたよ♪ ずいぶんとおしとやかになったじゃないか♪ 拳も蹴りもしおらしいぞ?」
「うるさい! ウルサイ! 五月蠅い!」
「あ~、ワリィワリィ♪ オレ様が強くなり過ぎちったんだな♪ ほ〜ら、捕まえてごら〜〜ん♪」
「ふぎ〜〜〜!!!」
なんて殺伐としたキャッキャウフフ♪なのだろう。話を聞きたいけど、迂闊に近寄れば命にかかわるし…。気が済むまで待つしかないのか。でも時間を無駄にはしたくないし……。しょうがない。別の情報源を頼るか……
「なあハナナちゃん。あの人って知り合い……なんだよね?」
「エンジャニキのこと? そだよ。アタシにとっちゃ頼もしい兄貴分ってとこかな」
「じゃあ、ナリザさんにとっては何なのよ? エンジャさん相手にえらい荒れようだけど」
「え〜っとね…。なんて言うか…。恋人……かな?」
「こっ、恋人!? てことは、エンジャさんに捨てられたっ? あれって修羅場ってるの!?」
「あっ、ゴメン! 今のはウソ! 正確にはね、え〜っと…そうだ! 『恋人のつもり』なんだよ!」
「ええぇ……」
つまりこう言うことだ。エンジャ氏は付き合う気なんてまったく無いのに、ナリザさんの方で勝手に盛り上がってしまったと……
そこにナリザさんの痛々しい魂の叫びが切なく響く。
「ナリザは! エンジャの子が産みたかったのっ! みんなで家族になりたかったのっ! だからエロエロな恰好して誘惑してきたのに! 何でこれっぽっちも反応しないのよ〜〜〜っ!!!!」
「あのなナリザ。オレ様は野薔薇ノ民なの! 女神みたいな美人がゴロゴロしてる下町で、チヤホヤされながら育ったの! オマエごときの色仕掛けなんざピクリとも反応しねぇってのっ!
それにお前をスカウトした時、オレ、ちゃ〜んと話したよな! 色恋沙汰は一切無し! 『エンジャーズ』は純粋に強さを求めるチームだってな」
「だって仕方ないじゃない! ナリザ、あんなに優しくしてもらったの、初めてだったんだもの!」
初めて優しくしてもらった…。
それってもしかして、ずっとボッチだったのに、初めて仲間として受け入れてくれたって事なのだろうか。ああ痛い。心が張り裂けそうに痛いよ。
でも、エンジャ氏的にはスッゲェ迷惑ってのも分かるので、安易に同情も出来ない。悲しいなぁ。
ところで、『エンジャーズ』って何よ! エンジャ氏、自己主張激しすぎなんですけどっ!
「そりゃまあ、エンジャニキが自分の名を売るために作ったチームだかんね。
かつて最凶最悪の愚連隊と恐れられた冒険者チーム。その名も『エンジャーズ』。メンバーはニキの方針で、実力はあるけど群れるのを嫌う、はみ出し者ばかり集めてたっけ。メンバーの入れ替わりが激しくてさ、人数も増えたり減ったりを繰り返してた。前科者も多かったから、役人連中にはかなり嫌われてたね」
「でも、それって2年〜5年くらい前の話だろ? エンジャさんも今よりずっと若いわけで…。癖のあるメンバーをよくもまとめたもんだ」
「だってニキってめっちゃ強いんだぜ! 何しろ炎を自在に操る火炎使いだかんね。言うこと聞かないメンバーの尻に火を付けるのが大好きだったよ♪ そこから付いた二つ名が『ぐれんのエンジャ』。赤い炎って意味の紅蓮と、愚連隊をかけてるんだって」
「なるほど、力ならぬ火力でねじ伏せるか…。実に愚連隊って感じだな。……あれ? でもエンジャさん、ちっとも炎使ってないよね。ナリザさんの猛攻を体術だけで避けてるし」
「なんでも下町時代に、世話になってた近所のお姉さんから『乙女の柔肌を焼いちゃいけません!』って、指切りさせられたかららしいよ」
近所のお姉さんが初恋の人…かどうかは分からないが、特別な人であることは間違いなさそうだ。何となくエンジャ氏の人物像が見えてきた。それにしても、まるで本気を出していないのに全力のナリザさんを手玉に取るって、どんだけ強いのさ!
「ところでハナナちゃんとナリザさんがチーム入りしたのはいつ頃よ?」
「そうだなぁ、解散する1年前くらいかなぁ。チーム入りはアタシの方がちょっと早かったけど、大体同じだね。ナリザは当時の狂犬ぶりを気に入ってスカウトしたらしいけど、なんでアタシが誘われたのかはよくわかんないよ。ニキはアタシに将来性があるって言うんだけど、一体何の将来性なのやら…
で、ナリザはニキにラブラブだったし、アタシは他に行き場が無かったから、解散するまでずっと一緒だった。何故か分からないけど、その頃から新メンバーの追加はぐっと減ってきて、3人チームでいる事が多くなったな。ほんと、なんでだろう?」
話の流れから察するに、ナリザさんが恋路の邪魔をする輩やライバルを増やさないよう裏工作していたような気がするが、憶測の域を出ないので、邪推は止めておこう。
「でもチームが解散したんだよな。一体なんでさ」
「エンジャニキがスカウトされたんだよ! 王国がニキの実力を認めたのさ!」
「そう! かつて下町のならず者だったガキンチョが、女王陛下に認められるまでに大出世したってわけだ!」
突然エンジャ氏が話に割って入ってきた。あれ? ナリザさんは?
洞窟の奧を見ると、ゼイゼイと息を切らして、今にも膝を突きそうだ。全力攻撃を十数分も続けていれば流石のナリザさんもスタミナ切れか。……って、あれ? エンジャ氏は息も切らせていないぞ! あれだけ動いて汗すらかいてないなんて、どうなってんだ?
私達の側まで歩み寄ったエンジャ氏は、腕を組み、満面の笑みで自己紹介する。
「今のオレ様は、野薔薇ノ王国、王家直属の王宮戦士! 王宮戦士エンジャ様よ!」




