4-14 堂々巡り
エンジャニキ? エンジャって……さっきハナナちゃんが口にした名前だ。確か『死ぬ時は前のめり』が心情だったか。ナリザさんも知ってるようだったし、かつてのチームメンバーと見て間違いなさそうだ。
見たところ二十歳前後の男性だ。やはり『ニキ』は兄貴の略称のようだな。誰だよ! 2ちゃん用語をオトギワルドに持ち込んだのは! まあそれはともかくとして……
かつての仲間であるエンジャ氏が、何故このタイミングでここにいるんだ?
確かに冒険者同士なら、街中ですれ違う確立より、迷宮で遭遇する方が高いかもしれない。だけど今は週に一度の死体回収日。妖魔狩りは出来ない。偶然、ここに居合わせたわけではないだろう。
そうだ。今日は週に一度の死体回収日。『めいぜんっ!』の日だ。ナリザさんが死体回収のために迷宮に潜るのは、ちょっと調べるだけで分かる事。つまりエンジャ氏は、ナリザさんに用があってラスボス部屋で待っていた…のか?
なるほど、辻褄は合っている。普段ならそれで納得も出来ただろう。迷宮に閉じ込められているという危機的状況さえなければ。
私の見込みでは、ラスボス部屋に留まる人には二つの可能性があった。一つは黒幕及びその関係者。もう一つは可能性は低いが、全く無関係な遭難者だ。いずれにせよ、待っているのは私達の知らない人物だろうと確信していた。
だけど現れたのは、ナリザさんとハナナちゃんのかつての冒険者仲間だ。私は完全に面食らってしまった。やはりエンジャ氏は無関係。黒幕及びその関係者とは到底考えられない。考えられないのだが……
ならばこの違和感は何なのだ? 第3の可能性がある? だとしたら、それは………
突然私の脳内にまさかの可能性が湧き上がる。あり得ないと分かっていても拭いきれない可能性……。
ミミック(なりすまし)か!?
いや、それはあり得ない。あり得ないはずだ!
ラスボス部屋は今、ロウソクの匂いで充満している。妖魔が留まれる状況ではないはずだ。
仮に人に成り済ますことが出来たとしても、エンジャ氏に成り済ますなんてあり得ない。あまりにもピンポイント過ぎる。ナリザさんやハナナちゃんの記憶を覗き見でもしない限り、出来ないはずだ。
……ちょっと待て!
つい1時間ほど前に私は、記憶を覗き見されたのではなかったか? 眠っている間に、頭の中を探られたのではなかったか?
だとしたら、ナリザさんやハナナちゃんの記憶が覗かれていたとしても不思議はない。成り済ましも妖魔ではなく、もっと上位の存在だとしたら? エンジャ氏に化けているのが、ロウソクが効かない別質の存在だとしたら?
もしかしたら、それが……邪神?
「エンジャ……エンジャ~!!」
突然、感極まったナリザさんが、青年に向かって駆け出した。
しまった! 思考の迷路に囚われて、二人に警鐘を鳴らしそびれてしまった! これが罠ならナリザさんが危ない!
しかし私の反応速度では、何もかもが手遅れ。もはや事態を見届ける以外、私には何も出来なかった。
「死ねやドチクショウがぁぁぁ!!!」
…は?
ナリザさんは悲鳴にも似た雄叫びを上げながら、強烈な蹴りを繰り出したっ! しかしエンジャ氏には当たらず、代わりに背後の大岩を粉々に粉砕する!
あ、あれれ? 感動の再会に感極まって…とかじゃないの!? どう見ても殺る気マンマンなんですけど〜っ!
「おいおい、ご挨拶だな。久しぶりに会ったってのに、いきなり跳び蹴りとか酷くね?」
「どの面下げて現れたんだっ! この裏切り者〜〜〜っ!!」
「え〜? おっかしいなぁ。オレ、裏切った覚えなんてこれっぽっちも無いんだけどな〜」
「すっとぼけんな〜っ! 死ね死ね死ね~っ!」
「はっはっはっ♪ こやつめぇ♪ 殺れるもんなら殺ってごら〜ん♪」
「ムキ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!! ゼッテーにぶっコロ〜〜すっ!!」
エンジャ氏の挑発に激高したナリザさんは、更なる殺気をまき散らしながら拳と蹴りを繰り出す。猛烈なラッシュ! しかし、当たらない。
エンジャ氏はナリザさんのラッシュを笑いながら全て避けていた。ナリザさん、完全に手玉に取られてるよっ!
「あ〜、オトっつぁん、アタシの後ろに隠れといた方が良いぜ。巻き込まれるのもあほらしいだろ?」
「え〜っと、ハナナさん? これって、もしかして……」
「うん。そうだよ。犬も食わない痴話ゲンカってヤツ。チームでいた時は毎日のようにやってたよ。酒場を建物ごと更地にしたこともあったっけ。クッソ迷惑なヤツらなんだよ、二人とも♪」
そう言うハナナちゃんの口元は、懐かしげに微笑んでいた。
ナリザさんの殺意と、ハナナちゃんの微笑み。二人の馴染んだ感じからして、どうやらエンジャ氏は正真正銘のご本人で間違いなさそうだ。
だけどそうなると分からなくなる。エンジャ氏は何故ここにいるんだ?




