4-11 招待
「たはは…。大変お見苦しいところを、お見せしてしまいまして〜♪ 思いっきり泣いたらスッキリしちゃいました〜♪」
目を腫らしたナリザさんが、頭をかきながら照れ臭そうに笑う。まあなんであれ、正気を取り戻してくれて良かったよ。
「全くだぜっ! 見苦しいったらありゃしない! いい年してファザコンかよ!」
えっ!! ハナナちゃん、君がそれを言っちゃうの? それともファザコンが許されるのはJKまでとか思っちゃってるのかな?
「ナ、ナリザ、ファザコンじゃありませんよ〜! 強いて言うならファミコンです〜!」
顔を真っ赤にしながら否定するナリザさん。……ていうかファミコン!?
「え、ええっと〜、ファミリーコンプレックスのことですけど〜。略し方、間違ってませんよね〜?」
「あ、ああ、なるほど。ええそうですね、間違ってませんよ。間違ってませんとも」
「ナリザ、物心ついた時から孤児院生活でしたから〜、家族が欲しくて欲しくてたまらなかったんです〜♪ だから〜、ハナナさんのことだって、本当の妹のように愛でてたんですよ〜♪ 忘れちゃいましたか〜?」
「忘れるわけねーだろ! 何かにつけてベタベタと触ってきやがって! ほんっとキモかったわっ!」
二人の認識の違いを見るに、ナリザさんがハナナちゃんに百合百合しい行為を強要していたのでは? と、けしからん妄想が浮かんでしまうが、それより驚いたのは、二人の間柄が予想していた以上に親しいことだった。
「へ? …ああ、そのことか。ナリザとは昔、チームだったんだよ。三人パーティーのさ」
「ごめんなさいお父さん〜。あの頃のことはナリザ、あまり思い出したくないのです〜」
そう言うと、二人とも黙ってしまった。私も過去の辛い記憶を掘り起こされるのは嫌なので、それ以上は追求しない。三人目がどんな人物だったのか気になるけど。凄く気になるけど。
あれ? そういえばハナナちゃんって今、16歳だったよな、確か。てことは、12〜3歳の頃にはすでに冒険者してたのか? ハナナちゃんの家族って、どんな人達なんだろう。
気になることは山のようにあるけど、今はそれどころじゃない。目の前の問題を片付けなくては。
「二人とも、落ち着いて聞いてください。今、私達がいる第3階層についてです」
迷宮ナビが提供するデータは私にしか見えない。だからその情報を二人に伝えるため、シャーペンで迷宮地図の裏面に、変貌した第3階層のマップデータを書き込んでゆく。
「ナリザさんはナノミノノ妖魔窟の迷宮が、巨大な立方体のブロックを並べることで構成されているってこと、把握してますよね?」
「え、ええ。壁も柱もそこに置いてあるだけで、固定されてないってことでしたら〜。人並み外れた怪力があれば、動かせるかもって………へ?
ちょっ! ちょっと待ってくださいよお父さん~! これが今の第3階層だって言うんですか~っ!」
「あくまで、迷宮ナビが提供する情報が正しければ…ですけどね」
ナリザさんが驚くのも無理はない。第3階層は、蛇のように曲がりくねってはいるが、ほぼ一本道のルートが四つあるだけの、極めてシンプルな迷宮だった。それが今、中央のボス部屋を除き、すっかり変わり果ててしまっている。その形を例えるなら……目玉だろうか。
中央のボス部屋の周囲に、ほとんどの立方体ブロックが集中し、何重もの壁を形成していた。もはや壁ではなく岩盤だ。更に念が入ったことに、第2階層へと登る四つの階段は全てブロックで蓋がされている。つまり、我々が脱出できないばかりでなく、救援も一切期待できないということ。
「この状況は恐らく……ですけど、この迷宮は、古代文明人によって築かれた建造物であると推測されます。ここまでは良いですか?」
「そ、そうですね〜。明らかに人工物ですし〜、そう考えた方が分かりやすいですよね〜」
「で、これまで死んでいたと思ってた古代遺跡が、実は今なお生きていて、何らかの理由で突然動き出してしまった。私達が閉じ込められたのは、防衛システムが働いた結果ではないかと考えられます」
「それはつまり……この遺跡の防衛システムを止めれば、第3階層も元に戻って、脱出できるのですか?」
「断定は出来ませんが、それに賭ける以外に方法がありません。入り口だけは開いていますから」
私は中央部屋の、更に中央を指さす。そこには第4階層へ進む階段が、口を開けたまま我々を待っていた。
「罠……ではないでしょうか〜?」
「その可能性も十分あります。ですが、私達を殺す気ならとっくにやってますよ。ブロックで押し潰すだけで終わりますからね。それに,迷宮ナビは今も私に情報を提供し続けています」
「お父さんは、この状況をどのように考えているのですか〜?」
「そうですね……迷宮の主が私達を招待しているのではないかと。さしずめ迷宮ナビは招待状ですかね」
「ハナナさんは…お父さんのお話、どう思いますか〜?」
「そんな難しいこと、アタシに分かるわけ無いじゃん! でも逃げ場なんて無いんでしょ! だったら前に進もうよ! エンジャニキも言ってたろ? 『死ぬ時は前のめり』にってさ」
「んもぉ〜〜〜! 思い出させないでくださいよぉ〜〜〜〜〜!!」
どうやら二人とも覚悟は決まったようだ。
それにしても、エンジャニキ? エンジャ兄貴ってことか? もしかして……三人目のメンバーのことだろうか。




