4-9 少女の微笑み
かわいい女の子同士で罵り合いとか、殴り合いとか、殺し合いとか、本当に勘弁してほしい。
女の子がやって良い戦争は『正妻戦争』だけなんだからね! いや、まあ、あれはあれで大変なんだけど…。
「ていうか、アタシ達の事はどうだっていいんだよ!」
「そうです~っ! 今はお父さんですよ~っ! 呪いを何とかしなくてはいけません~っ!
帝国に、悪魔払いの専門組織があります~! 教会に戻りましたら、司祭様にお願いして、呼んでいただきましょ~!」
我に返ったら、二人は改めてあたふたし始めるのだった。なあ二人とも、ちょっと落ち着こうせ?
とりあえず、現状を整理してみると……
1)この球体にはナビ機能があり、ナノミノノ妖魔窟の情報が手に取るように分かる。
これは本当に便利だ。ただ、便利すぎて逆に不安になる。
2)この球体は私から離れたくないらしい。
現状では、唯一呪いと呼べる効果である。ほとんどデメリットになっていないため、他にも呪いがあるのではないかと疑いたくなる。
3)今のところ危険はない。邪悪な気配は感じない。
だからと言って安全とも言い切れない。地雷や時限爆弾のように、後になって突然発動するかもしれないし。
4)この球体の入手方法が夢を見たこと。これが邪神とのコンタクトに酷似しているらしい。
しかしコンタクトの方法が邪神っぽいからと言って、決めつけるのはどうかと思う。
つまり、判断材料が全く足りてないってことだ。結論など出しようがない。
ナリザさんの言う、悪魔払いの専門組織を頼るにしても、もっと情報を集めるべきだろう。
「なあオトっつぁん、夢の中で邪神にあったんだろ? どんなヤツだったか覚えてないの?」
「え? そうだな………女の子だった」
「はぁ?」
「いや、夢の中に出てきたのは女の子だったんだよ」
「ったく、こんな時まで妄想かよっ!」
「ハナナさん落ち着いて~。お父さんを驚かせないよう、女の子の姿を借りて現れたって事ですよ~
それでお父さん~。その女の子はなんと言ったのです~?」
そういえば何か言ってたよな? 弁財天美の姿を借りて、なんて言ったんだっけ?
「ああ、そういえば……この、ナノミノノ妖魔窟の主とか言ってたような……」
…………
……………………
………………………………
しばしの沈黙の後、二人はパニックに陥った!
「ヤバいよヤバいよ! ナリザ! 急いで悪魔払い呼ぼう! 今呼ぼう! すぐ呼ぼう! ただちに呼ぼう!」
「そそそ、そうですね~! もうお仕事してる場合じゃありません~! 急いで教会に戻りましょ~!!!」
「ちょっと待った~~~~~!!! 二人とも何で慌ててるんだよ! 分かるように説明してくれよ!」
「オトっつぁんこそこの状況で、何でそんなに冷静でいられるんだよぉ~~~!!!」
「いいですかお父さん~っ! よく聞いてください~っ! ここは妖魔窟なんです~っ! 妖魔の根城なんです~っ! そこの主と言ったら、妖魔以外にあり得ないんです~っ!!!」
「妖魔王の先兵なんだよ! 人類の敵なんだよ! 邪神確定じゃん!! 絶対ヤバいって!!
「二人とも集まってください~っ!! 迷宮から脱出します~っ!」
ナリザさんは私とハナナちゃんを掴むと、間髪入れず詠唱した。迷宮脱出の魔法…じゃなくて奇跡か。しかし……
ナリザさんの顔がみるみるうちに絶望に歪められてゆく。
「何も起きないぞ! どうしたんだよナリザ! 慌てて呪文間違えたのかよ!」
「そんな…こんな事…あり得ない…です」
「あり得ないって何がだよ!」
「奇跡が……奇跡の技が……打ち消されてしまいました…」
打ちひしがれたナリザさんは、力無く床にしゃがみ込んでしまう。
「ったく、使えねぇ修道女だな! だったら足を使えばいいだろっ! 突っ走れば10分とかかんねぇよ!」
ナリザさんの腕を掴み、駆け出そうとしたハナナちゃんは、しかし、その一歩を踏み出せなかった。立ち尽くしたまま前を見て、左右を見て、背後を見て、ナリザさんの腕を放した。
さっきまであったはずの通路が、四つとも無くなっていた。
私達はようやく気付いた。妖魔窟自体が主の身体の一部だったのだと。私達は妖魔窟の主の胎内にいるのだと。
私は何も出来ず、ただ立ち尽くしていると、ふいに少女の笑い声が聞こえた気がした。
まんまと罠にはまった私達を見て、あざ笑っているのだろうか。




