4-6 呪いの正体
私は第3階層のボス部屋に陣取り、二人の帰りを待っていた。
私達が通った南東ルートは階段側に一体。バルカスさんの報告にあった北西ルートはボス部屋の手前に二体。残るルートに一体ずつなので、北東ルートにはナリザさん、南西ルートにはハナナちゃんに向かってもらっている。
この第3階層で全滅したチームは『突撃野郎アルファ組』。ライダー型冒険者集団として目下売り出し中の、ナウでヤングなオリュンポスニンジャチームだ。
合言葉は「死して屍拾うもの無し!」。まあ実際は、ナリザさんのような回収業者が拾ってるんですけどね。
ボスを四方から攻めるべく別れたが、力及ばず半数が道半ばで倒され、残りでボスに挑むものの、力及ばなかったようだ。
ちなみに、オリュンポスニンジャとは、魔法と忍法を融合した『オリュンポス忍法』を習得した忍者の総称で、約三百年前の江戸時代、オトギワルドに迷い込んだリアルニンジャによって創設された流派だと言われている。
しかし、免許皆伝した本物のオリュンポスニンジャは一握りしかいない。多くのニンジャ達は、世間に大量に出回っている『写本 虎の巻』を元に修行を積んだ自称ニンジャなのだそうだ。自称することで、誰でもなれるのが冒険者だからね。仕方ないね。
「見つけましたよ〜♪ お父さんの言った通りの場所で力尽きていました〜♪」
先に帰ってきたのはナリザさん。なんだかとても嬉しそうだ。
「ただいま。言われた通り、第3階層を全部見て回ったよ。指示されたとこ以外には、確かに何も無かったな」
少し遅れて戻ってきたのはハナナちゃん。彼女のスピードを頼りに、通路を全部確認してもらっていた。ありがとう! おかげで迷宮ナビの精度に裏付けが取れたよ。この球体のナビ機能は信用して良さそうだ。
これで第3階層の全滅遭難者はコンプリート。第4階層へ進める。
「凄いですね〜! ナリザ、もう一年以上迷宮の死体回収してますけど〜、こんなに効率よく動けたのは〜、生まれて初めてです〜!」
「はははっ、ナリザさんは大げさですねぇ♪」
「ねえねえお父さん〜♪ その迷宮ナビ、ナリザに貸してもらえませんか〜?」
「ええ、いいですよ」
「ヤッタ〜! ありがとうございます〜♪」
ナリザさんが興味津々なのはよく分かる。これがあれば、地下迷宮での死体回収もグッと楽になるのだから。嬉しそうなナリザさんに対し、ハナナちゃんはリアクションが薄い。かといって興味が無いわけではなく、黙って見つめていた。
球体を受け取ったナリザさんは、早速機能を試そうと、私がやったように球体を握り、そして念じた。
「キャ〜〜〜〜〜〜!!!!」
突然ナリザさんが悲鳴をあげると、球体を投げ出す。球体は天井と床を跳ね、私の手の平に戻って来た。
「今刺しました〜っ! プスって! ナリザの手を刺しました〜っ!!」
右手を押さえ、涙目で訴えるナリザさん。しかし、ナリザさんの手の平には傷一つ無かった。
「あ、あれ? もう痛くないです〜。今のは……なんなのでしょう〜…。幻痛のたぐいでしょうか〜?」
「多分、オトっつぁん以外には触られたくないってことじゃね? もしくは、おとっつぁんから離れたくない…とか?」
ずっと黙っていたハナナちゃんが口を開いた。
「そいつの呪いってさ、ひょっとすると、オトっつぁんの周囲に災いを起こすタイプじゃね? オトっつぁんには一切の害はなくてさ」
えええ!! つまり『ぼっちの呪い』っすか!? 今の私にとって、それが一番キツイやつじゃないですかヤダー!
「もしくは……呪いじゃないのかもしれない。そいつはただ、オトっつぁんが好きなだけで、くっついているのかも…」
「ハナナさん……。オマエは一体何を言ってる、ですか〜? 頭にウジでも湧いちゃいましたか〜?」
「うっさいわ! アタシだって自分の言ってることがおかしいって分かってるよ! でも、ナリザだって言ってただろ! 邪気を感じないとか! 子供か小動物みたいだとか!
あれを見た目通りに呪いアイテムと見るより、オトっつぁんのことが大好きな子供かワンコだと考えた方が、腑に落ちるんだよ!」
するとナリザさんは、腕を組んで考え始めた。ハナナちゃんの考えに、思い当たる節でもあったのだろうか。
「そういえばお父さん〜。その迷宮ナビはどうやって手に入れたのですか〜? ロウソクの匂いが充満した大広間に妖魔が現れたとも思えませんし〜、お父さんに独りで勝利するだけの戦闘力があるとも思えませんし〜。大広間に落ちていたのですか〜?」
「いや、それが……二人を待っている時、うっかり眠りこけてしまいまして。気がついたら手に握ってたんですよ」
「こ、この迷宮で、眠りこけた、ですか〜? もしかして、もしかすると、夢とか見てたりします〜?」
「み、見てましたけど……」
「あああ……なんと言うことでしょう…。夢を通して生け贄に接触するのが…ヤツらの常套手段なんですよ〜」
「ナリザさん。……ヤツらって誰です? 何者です?」
ナリザさんは、顔に絶望の相を浮かべながら力無く笑い、頭を抱えながら言った。
「邪神…です」




