3-30 秘策
残りの4人は状態が酷いため、私には刺激が強すぎるだろうとの判断から、私を遠ざけた上でナリザさんが回収した。いずれも回収率100%。私達が教会に無事届ければ、全員五体満足で復活できる。
もちろんペナルティはある。復活したとはいえ瀕死に近い状態だし、手持ちの軍資金と迷宮での戦利品の実に半分を『お布施』の名目で強制的に徴収されてしまうのだ。だけど、その程度のペナルティなんて、どうって事は無いだろう。だって、みんな生きているんだから。これからの人生でいくらでも取り返せるさ。生きてさえいればね。
「チームパライソはこれで完了です~♪ お疲れ様でした~♪」
「おー♪ パチパチパチ♪ やんややんや♪」
「なんだもう終わりか。とっとと帰って一杯やろうぜ♪ ヨーソロー♪」
「だといいんですけどね~~~。残念ながら悲しいお知らせです~。二組目が最悪なんですよ~」
ナリザさんが泣きそうだ。
「第2階層の分断トラップに、まんまと引っかかったみたいでして~」
「うっわ最悪じゃん! アタシも泣きそう」
「2人とも、一体どういうことだってばよっ!」
「つまりですね~、こういうことです~」
唐突にナリザさんの独り寸劇が始まる。
「大広間で大型妖魔を避でだら、みんな違う通路に逃げ込んでバラバラになっちまっただぁ! どうすべ!
大丈夫だぁ~。通路は全部繋がっでるからぁ~、回り道して合流ずれば良いべぇ
おめぇ天才だなや! そしたらばぁ合流ポイントば決めっから、みんなしてそこに向かうべぇ~!
……こうしてチームは合流できないまま、全滅してしまうのでした。な~む~♪」
南無って何よ! 南無って! もしかして唯一神教ってキリスト教だけじゃなくて仏教も混ざってるの? 南無阿弥陀仏じゃなくて、南無唯一神って唱えてるのっ!?
激しくツッコミを入れたかったが、今はそれどころではないので黙ってよう。
「つまりですね~、チーム全員がバラバラに散ったまま全滅しちゃったんですよぉ~! 毎週一組は必ず出るんですよね〜。ホント頭痛の種ですよ〜」
ああ、なるほど。ど素人の私にも理解できたぞ。つまり、この妖魔窟で一番広い第2階層を、くまなく探さないといけないってことだ。
「そこで提案ですけど~、二手に分かれませんか〜?」
「私達も分断ですか? 確かに効率は上がると思いますけど、彼ら全滅チームと同じ轍を踏んだりしませんか?」
「大丈夫ですよぉ〜♪
第1に、ナリザ達にはこのロウソクがあります〜♪ しかも3人で使っていますから〜、匂いもいつもより広範囲に広がっていますしね〜♪
第2に、ナリザもハナナさんも、可憐でか弱い清らかな乙女ですけど〜♪ 実は結構強いんですよ〜♪ 第2階層の雑魚ごときに遅れなど取りません〜♪」
うん、突っ込まないよ。突っ込まないからね。
「問題があるとすれば〜、どちらが残るかですね〜。お父さんを一人にはできませんもの〜」
あー…。そうだよなぁ。そうなるよなぁ…。二人とも、足手まといでごめんな。
「じゃあアタシが残る。ナリザが残ったら、暗闇に乗じてオトっつぁんにどんなエロいことするか分からないしなっ!」
「しっ、失敬な事言わないでください〜! ナリザはお父さんとは清い関係でいたいんです〜! そもそもナリザが狙っているのは司祭様なんですからね〜っ!」
何か色々ととんでもない話をしているように見えるんですけど! もしかしてこれが、ガールズトークってやつなんですかっ? なんだか居たたまれないんですけどっ!
「というわけで〜、お父さんが決めてください〜っ! どっちと残りたいのか〜っ!」
「そうだな。オトっつぁんが決めてよっ! どっちと残りたいかっ!」
「えっ! 私に振るの? っていうか、趣旨が変わってやしない?」
「似たようなものです〜っ!」
「似たようなものだよ〜っ!」
最後の「す」と「よ」以外は思いっきりハモってるよ、まったく。仲が良いんだか悪いんだか。
え〜っと、ちょっと整理してみようかな?
ハナナちゃんは音速剣士。そのスキルを発揮すれば、素早く動ける。第2階層の探索もあっという間だろう。
だけどスキルを最大限に活かそうと思ったら、余計な荷物は持ち歩けない。リュックはチェストプロテクターが邪魔をして背負えないし、片手はランタンを持つせいで塞がってしまう。残る片手で持てるのは棺の小箱が一つだけ。私なら2つ持てるが、ハナナちゃんの手はかわいいからな。しょうがない。
ちなみに、チェストプロテクターを外せばリュックは背負えるようになるが、特殊効果持ちの装備なので、ハナナちゃんの能力も低下してしまう。何より胸元の装甲を失うと、心細くて恥ずかしい(!)らしく、無意識に両腕でガードしてしまうため、戦闘不能に陥ってしまうのだ。
一方のナリザさんは、ナノミノノ妖魔窟のみならず、王国周辺の迷宮で頻繁に回収業を行っている大ベテランである。その経験から、全滅ポイントも把握しており、敗北した冒険者達を効率よく探して回れる。また、私のリュックを背負っているから、棺の小箱も10個以上持ち歩ける。1チーム分の回収なら単独でも余裕だ。
あらゆる点で完璧なナリザさんだが、致命的な問題が一つだけある。ナリザさんが別行動を取った場合、ハナナちゃんは私の護衛をすることになる。ハナナちゃんの音速剣士としての特性がまったく活かせないのだ。
せっかくの逸材がいるのだ。より効率的に活用しなければもったいない。
ベテランのナリザさんなら別行動でも効率よく回収業務を勤められる。だけど、スピード特化のハナナちゃんを私のお守りに回すなんて愚の骨頂だ。だとしたら…。最適解は…。
「よし決めた! ここは3人に別れましょう!」
「え〜〜〜〜〜〜〜!!!」
お〜〜、ハモってるハモってる。やっぱりこの二人、仲良いよなぁ。
私は第2階層の地図を見せながら、二人に説明する。
「二人とも、北側からスタートします。一人は時計回りに、もう一人は反時計回りに探索を始めます。で、南側で二人が合流したら、そこで探索終了と」
「それで、オトっつぁんは何してるのさ」
「私はこの大広間で、荷物番♪」
これぞ我が秘策、その名も『お父さんの休日』作戦だ!
仕事で疲れているお父さん。休日くらいはゆっくり休みたい。だけどなんてこったい! 次のお休みは家族サービスで、子供達を連れて遊園地に行かなければならないのだ! しかしお父さんには秘策があった。そう! 荷物番だ!
子供達にはお小遣いをあげ、時間を指定した上で自由に遊んでもらう。その間お父さんは、休憩所で荷物を死守しながら、明日のため家族のため、体力回復に専念するのだ!
全国の疲れているお父さん、ありがとう! 皆さんの処世術、拝借させていただきます!
あ、二人して一斉に冷めた目つきに変わったぞ。仲良し姉妹かよ! べ、別に怠けたいわけじゃないんだからねっ!
……とりあえず弁明か。
「だぁ〜ってしょうがないじゃんよ! この状況じゃ、どう考えたって私が一番のお荷物だし。ここに荷物とお荷物を置いておけば、二人とも自由に行動できるでしょ? 絶対その方が作業効率上がるって」
「確かに〜、ロウソクの匂いは大広間を中心に広がっていますから〜、第2階層では一番安全だと追いますけど〜。でもお父さん、本当に大丈夫ですか〜? 暗闇で独りぼっちって、結構精神にクルものがありますよ〜?」
「大丈夫大丈夫♪ 伊達に引き籠もってないって♪ 全然自慢にならねーけど」
「アタシ、小箱は一つしか持てないけど、どうすりゃいいのさ」
「一人回収する度に大広間に戻って、小箱を交換すりゃいい。道の途中で合流するのは大変だけど、ここになら迷わず戻れるだろ?」
「あ〜〜〜! 何かハナナさんだけズルイ気がします〜! ナリザも近くに来たら経過報告に戻りますからね〜!」
「うん、いいんじゃないかな」
「よし分かった! どっちが早く探索できるか、勝負だな!」
「ふっふっふ〜〜♪ このナリザに勝負を挑むなど、百万年早いと知るが良いです〜〜〜♪」
二人とも納得してくれたみたいで、オッサンも感無量。『勝負』というキーワードを発した途端に、険悪なムードになっているような気もするけど、きっと気のせいだろう♪
二人とも頑張れ〜〜♪




