3-29 初めての回収
「あ、ナリザさん、ちょっと待ってください」
私のランタンの火がフッと消えた。一本目のロウソクが燃え尽きてしまったのだ。ということは、20分が経過したという事か。
ハナナちゃんのロウソクもそろそろ消えそうだ。ちなみにナリザさんのロウソクは時間差にしているので、すでに10分前に交換済みである。と言うわけでナリザさん。周囲の警戒、よろしくお願いいたします。
私とハナナちゃんはカボチャ頭のランタンを床に置くと、頭の蓋を外し、中に固定しているロウソク立てを外した。続いてカボチャ頭の後頭部にあるロウソクホルダーから一本抜き取る。種火はハナナちゃんの一本目がまだ燃えていたのでそこからもらい、ロウソク立てに立てた。ナリザさんの百円ライターは、オトギワルドでは貴重品だ。なるべく使わないようにしないと勿体ない。
次はハナナちゃんの番。二本目のロウソクを抜き取ると、私のロウソクから火をもらい、ロウソク立てに立てた。あとはカボチャ頭に戻せば完了だ。
ナリザさんは退屈そうに待っていた……かと思いきや、意外にも真面目に周囲を警戒している。何か気になる事でもあるのだろうか。
「ナリザさん、お待たせです」
「は~い♪ では行きましょう~♪ 一組目はすぐそこですからね~♪」
一組目は本当にすぐそこだった。大広間の端っこで力尽きていたのだ。
「今回は大丈夫ですよ~♪ そんなにグロくありませんから~♪」
「あー…、はい」
様子を見てきたナリザさんがにこやかに話すが、まあ、色々と覚悟が必要だろうな。何しろ致命傷を受けて、死ぬ直前で固まっているわけだし…。
本日の全滅探索者回収第1号は6人パーティーだった。第2階層にて果敢にも大型妖魔に立ち向かうも……か。
「ええっと~、壁に叩きつけられたのが2人で~、踏みつぶされたのが2人で~、消し炭が2人ですね~♪」
「け、消し炭って……本当に生き返るんですか? 細胞レベルで完全に死んでいるような気がするんですけどっ!」
「神の奇跡を信じなさ~い♪ 硬質化しているからには大丈夫ですよ~♪」
なるほど…。この状況で生き返られるなら、宗教替えだってするかもな。命あっての物種だし。
「じゃあお父さん~♪ リュックから小箱を6つ出しちゃってください~♪」
「了解です」
私は大きなリュックを床に置くと、棺の小箱を六つ取り出し、ナリザさんとハナナちゃんに二つずつ渡した。
「せっかくですので~、お父さんにも使い方説明しますね~♪ じゃあ、まずは一番原形を留めている人のところに行きましょ~♪」
そう言うと、ナリザさんは壁の側にうずくまっている冒険者に近寄る。どうやら彼は、激しく壁に叩きつけられ、複雑骨折した状態で息絶えたようだ。
「まずは小箱が空っぽである事を確認します〜♪ やり方はカンタン♪ 棺の上に描かれたシンボルを押してください~♪ そうです~♪ そのマルバツボタンです~♪ 押しても何も反応しなければ空っぽですよ〜♪
はい、空っぽなのを確認しました~♪ 次にですね~、小箱を硬質化した死体の上に置きます~♪ あ、小箱の底が死体に当たるように置いてくださいね~♪
はい、死体の上に置きました~♪ そしたら~、改めてマルバツボタンを押してください~♪ すると~、こうなります~♪」
ナリザさんがマルバツボタンをカチッと押すと、死体は一瞬光に包まれ、棺の小箱にヒュンと吸い込まれた。そして小箱は床にコトンと落ちる。
「ちなみに生きている人や、硬質化してない普通の死体は回収できないようになってます~♪」
「なっ! 何ですか今のっ! 魔法? 魔法ですか!?」
「魔法じゃなくて~、奇跡です~♪」
「な、なるほど! つまりこの小箱は、マジックアイテムではなく、ミラクルアイテムなのですねっ!」
「御名答~♪ さすがお父さんですね~♪
それと、この状態でマルバツボタンを押しますと、回収した死体の情報や、回収率が表示されますよ~♪
じゃあ早速ですけど~、お父さんもやってみてください~♪」
私は壁際に倒れたもう一人の冒険者に近寄る。彼は壁に叩きつけられた後、身体が変な風に曲がってしまい、お尻を突き出したような間抜けな姿で力尽きていた。可哀想に…。この姿勢で硬質化された彼は何日も間抜けな姿をさらし、冒険者達の笑いものにされていたのだろう。
可哀想なんだけど…、ええっとごめんなさい。不謹慎なのは百も承知なんですが、も、もう我慢できません。
「あ~~~~~はっはっはっはっ♪」
「アハハハハハハハハハハハハッ♪」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ♪」
三人が落ち着いたところで回収業を再開する。まだ私のターンだ。手にした小箱で彼を回収しなければ。
まずは小箱の底が当たるように置くと。ええっと、置きやすいのは…ここかな。
私は棺の小箱を、彼の突き出したお尻の上にチョコンと乗せた。
「だからっ♪ 笑わせるなって♪ 言ってんだろっ♪ がっ♪」
「だってっ♪ しょうがないだろっ♪ ここしかっ♪ 置きようがっ♪ ないんだっ♪ よっ♪」
「ベッ別に~っ♪ 当てるだけ~ッ♪ でも、いいんです~っ♪ けどっ♪」
「あ~~~~~はっはっはっはっ♪」
「アハハハハハハハハハハハハッ♪」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ♪」
二度目の馬鹿笑いが迷宮中に響いたあと、ようやく三人は落ち着いた。
私は悟りの境地に達したような無表情で、マルバツボタンを押す。よし。回収成功っと。
床に落ちた小箱を拾い、もう一度マルバツボタンを押してみる。すると小箱の上の空間に四角い枠が浮かび上がり、死体の名前と所属するチーム名、そして100%という文字が表示される。
「100%ってことは、身体を全部回収したって事です~♪ これでお尻ちゃんは、教会で完全復活できますよ~♪」
「だからっ♪ お尻ちゃん言うなしっ♪」
危ない危ない。三度目は何とか笑いをこらえたぜ。
回収第1号。チームパライソ。
いつもは4人パーティーだが、仲間を2人追加し、6人パーティーで妖魔窟に挑む。だが第2階層にて大型妖魔に立ち向かい、あえなく全滅。パライソとは確か、ポルトガル語で天国って意味だ。唯一神教の信者になってなければ、その名の通り、今頃は天国へ登っていたのかもしれない…。
さ、次行きましょ次。




