3-22 お父さん
「ぐぎゃ~~~~~~!!! なっ! 何やってやがるんですか~~~~~!!!!」
ナリザさんは奇声にも似た悲鳴を上げながら駆け寄ってくると、速攻で封書を取り上げ、自分の鼻に押しつけたかと思うと、クンカクンカと匂いを嗅ぎ始めた。
犬なの? 今日のワンコなの? そういえば冒険者時代の二つ名は『狂犬』だっけ。
「うえ~~~~ん! お父さんの加齢臭しかしないじゃないですか~~~!!」
今度はマジ泣きだ! 玩具を取り上げられた子供みたいに泣きじゃくってる。
私が困惑していると、ハナナちゃんが冷ややかな目で、こう言った。
「もしかしたら、中の手紙は無事なんじゃねーの?」
「はっっっ!!! そ、そうですねっ! そうかもしれませんねっ!!」
ナリザさんは封を破って手紙を取り出すと、やはり自分の鼻に押しつけてクンカクンカする。
「良かった~~♪ 残ってた~~~♪ 司祭様の匂い~~~♪」
あ--…… そういう…
その後、正気を取り戻したナリザさんに、軽く説教されてしまった。
一方的に私に非があるので、大人しく反省していたが……
「も~っ、お父さんっ! お手紙を預かったなら、ただちに渡していただけないと困ります~~!
ミュリエルラ司祭様の残り香が消えてしまうでしょ~~! 気をつけてくださいね~~!!」
どこまでもブレないナリザさんだった。
「それで? 手紙には何が書いてあるのさ」
「キャ~~♪ 司祭様の字って走り書きでもキレイです~~♪」
「は~や~く~し~ろ~っ!!」
「はいはい、分かりましたよっ! ハナナさんセッカチなんだから~~。
ええっとですね~。ふむふむ~。ほう~。なるほどなるほど~。
ナリザが出発した後に冒険家族のバルカス一家が来てたのですね~♪
…ん? は? ええええっ!!」
手紙を読んでいたナリザさんの顔が固まったかと思うと、みるみる青ざめてゆく。何が書いてあるんだろう。
「お、お、お、お父さん! 本当に、ガングビトなのですかっ!!」
「あ~~、はははっ、はい」
「じゃあ、ハナナちゃんのお父さんというのは、真っ赤な嘘!?」
「え~? アタシ、オトっつぁんとは言ったけど、お父さんなんて一言も言ってないよ~♪♪♪」
すっとぼけるハナナちゃん。
「名前がオトジローだから…オトっつぁん……?
あ~~ん! くやし~~~!! ナリザ完全に騙されました~~!!
確かにお二人はゼンゼン似てませんけど~~、めっちゃ仲良し親子してたじゃないですか~!!
てっきり血の繋がらない義理の親子だと思ってましたのに~~~!!」
ナリザさんは地団駄を踏み出した。
地団駄を踏むとは、悔しがったり怒ったりしながら激しく地を何度も踏みつけると言う意味だが、本当に激しく地を踏みつけながら悔しがる人を見るのは初めてだ。
「え〜〜っと、その〜……、オ、オ、オトジロー……さん?」
「はい」
「なんか違います〜〜〜! 今更お名前でなんて呼べませんよぉ〜! やっぱりお父さんはお父さんでないとしっくり来ませんですよ〜!
ですので〜、お父さんの事はこれからもお父さんって呼ぶ事にしますからね〜っ! イイですよね? お父さんっ♪」
「え、ええっと………」
「ゴラァ! 腕を組むな腕を! オトっつぁんから離れろやっ!」
「ハナナさんだけズルイですよ〜! ナリザだってお父さん欲しかったんです〜!」
「だからお父さんじゃなくて、オトっつぁんだっての!!」
「そんなのただの言葉遊びじゃないですか〜♪ ナリザは騙されませんよ〜だ♪」
「二人とも腕を引っ張るな〜〜! 千切れるから! 腕が千切れるから!」
年頃の若い娘に両腕を掴まれて、両手に花と言えば聞こえは良いが、単にオモチャにされているだけである。
何しろ冒険者と元冒険者。パワフルな二人が本気で引っ張ったら、ひ弱な私の腕など簡単に引き千切られてしまうだろう。
そんなシャレにならない状況なのに、ヘラヘラしてしまっている私は、もしかして大物なのだろうか……?
……いや、単に女の子が大好きなだけだな。




