3-21 思い…出した!
「それでは~、これから迷宮に入りますけど~、お二人とも大丈夫ですか~? 何かありましたら今のうちですよ~♪」
「お腹は満たされてるし、お便所にも行ったばかりだし…。うん。アタシは万全だよ」
「あああっ!」
「な、なんだよオトっつぁん! 脅かすなよ! 何がどうしたの!」
「どうしたのですか~、お父さん~!」
「もしかしたら……、やらかしたかもしれない」
私は頭を抱えた。あの時どうしたっけ? どうしても思い出せない。
「さっき、宝箱の話をして気がついたんですが……。
宿とか下宿先の部屋って、貴重品なんかを入れる個人用の金庫が常備されてるじゃないですか。宝箱の形をした。
それを閉めたあと、鍵をかけた記憶が無いんです……」
「あ〜〜〜。それはやらかしてしまいましたね〜〜〜。ご愁傷様です〜〜」
「大丈夫じゃね? 下宿先には管理人しかいないんでしょ?」
「いや、リナリアちゃんもいるからねっ! ちゃんと現実に存在してるからねっ!」
あのオンボロ屋敷が、泥棒に入られる可能性は極めて低い。ゼロではないが。
リナリアちゃんは朝から熱っぽくて、今頃ベッドで大人しくしているだろうから、イタズラして開ける事もないだろう。
となると、一番の心配は管理人さんか。
管理人さんには部屋の掃除も頼んでいるから、必ず私の部屋に入ってくる。宝箱に鍵がかかっていないと気付けば、好奇心に負けて開けてしまうかもしれない。神話で語られる『パンドラの壺』が事実なら、管理人さんだってパンドラの末裔だ。神々が仕組んだ好奇心というトラップに抗うのは至難の業だろう。
そして宝箱の中身は、貧乏暮らしが長かった管理人さんには目の毒だ。もしかしたら魔が差してしまうかもしれない。
「なんです、なんです~? もしかしてイヤラシイ秘蔵コレクションでも入っているんですか~~?」
「いや~~~! ははははっ! どうなんでしょうね~~~~♪ ナイショです」
中身についてははぐらかしておくしかないよな。うっかり話せば、たちまち噂が広まって、本当に泥棒や強盗に狙われるかもしれないし。壁に耳あり障子に目ありだ。
「どうしますか〜〜? 今からでも下宿先に引き返します〜?」
「いや、それはさすがに……。
きっと大丈夫ですよ。私の記憶に無いだけでちゃんと鍵をかけているかもしれませんし、管理人さんもいますから。
きっと大丈夫です」
管理人さんを信じよう。きっと杞憂に終わるさ。でもダメだったら……。うん。その時はその時考えよう!
「それでは~、今度こそ迷宮に入りますけど~、お二人とも大丈夫ですよね~? 忘れ物はありませんよね〜〜? 奥に入ってからですと戻るのも一苦労ですから〜、何かありましたら今のうちですよ~♪」
「アタシは……まあ、酒場にツケがたまってるくらいかな。二ヶ月くらい」
ああもうこの娘は!! 今日の収入で絶対ツケを払わせるからなっ!
それはそれとして、私は大丈夫なのか? 今一度、朝から順を追って考えてみよう。
まず早朝、リナリアちゃんに起こされただろ? それから身支度をしたあと、リナリアちゃんがおんぶ女神になって…
そして…… それから……
「ああああっっ!!!」
「な、なんだよオトっつぁん! 脅かすなよ! 何がどうしたの!」
「どうしたのですか~、お父さん~!」
「ううう、ナリザさんごめんなさい、思いっきりやらかしていました…」
私は胸ポケットから封書を取り出す。
それは、ミュリエルラ司祭からナリザさんへと預かった手紙だった。




