3-20 成り済まし
ナリザさんは落ちていた金属球を拾うと…
「これが倒した妖魔から手に入る、コアメタルですよ〜♪ せっかくですし、お父さんに差し上げ…
ギャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
…と、けたたましい悲鳴を上げた。なんだ? 何ごと?
「おっ、お父さん! 何があったんですか〜!!」
「え? わ、私ですか?」
「怪我してるじゃないですか〜っ! 血がッ! 血が出ていますよ〜〜!!
鼻からっ!!」
慌てて鼻を触ると、ポタポタと何かが滴り、手にべっとりと付いた。鼻血だった。
「もしかしたらナリザのせいですか〜っ! さっき跳び回し蹴りした時に、何か跳ねて飛んできましたか〜〜!! ごめんなさい〜〜!!」
実は先週の私は鼻風邪を引いていた。鼻水は止まらないし、むずがゆいしで、イライラしていた。そこで思いっきり鼻をかんだら、鼻血が出てしまった。それ以来、私は鼻血が出やすくなっていたのだ。
それにしても、このタイミングで鼻血を出すなんて、まるで漫画だよ。
だからナリザさんのせいではない……こともないかなぁ?
たくし上げたスカートからチラリチラリと覗く太ももが眩しかったとか。
蹴り技の一連の動きが舞うようで美しかったとか。
回転した際、ふわりと広がるロングスカートが花びらのようだったとか!!
そして見えそうなのに、決して見えないところがまた素晴らしい!!!
うん! やっぱりスカートは最高だなっ!
そんな私を見つめる冷ややかな瞳。
ハナナちゃんもたまには女の子らしい格好をして欲しいなぁ。
それはまあ、それとして…
私がポケットティッシュを鼻に詰めている間、ハナナちゃんとナリザさんは情報共有をしていた。
冒険者にとって生の情報は極めて重要だ。ミッションをこなすために。お金を稼ぐために。そして何より、生き残るために。
「この成り済まし妖魔はですね〜、大敵である油断を誘うのが得意中の得意なんですよね~♪ 熟練の戦士だって虚を突かれれば瞬殺ですもの〜♪」
「アタシが討伐ミッションから離れている間に、こんな奴が出回ってるのかよ…。最悪じゃん」
「いえいえ〜。今のところ、報告があるのはナノミノノ妖魔窟のみですね〜♪
それと、これはミュリエルラ司祭様の私見ですけど〜、『一過性の流行みたいなもので、長くは続かないだろう』とのことですよ〜♪」
「どうしてそんな事が分かるのさ」
「妖魔が変質するのは勝つためです〜。強さを求めて進化するわけですね〜♪ ところが今回の成り済まし、実は大して強くないんですよ~♪ きっと擬態能力を優先するあまり、基本的な戦闘能力をおざなりにしちゃったんでしょうね~♪ だまし討ちは得意でも〜、正攻法ではまるでダメダメなんです〜♪」
「あ〜なるほど。だまし討ちが通用するのなんて最初だけだもんね。二回目以降はカモネギになっちまうと」
「妖魔にとって、勝てない変質は意味ありませんですから〜、ほどなくいつもの妖魔に戻ると思いますよ〜♪
とはいえ、洗礼を受けてないハナナさんには保険がありませんから、気をつけてくださいね〜♪」
「そんなのわかってらぁ!」
洗礼を受け、唯一神教の信者となった冒険者は、迷宮で倒されても教会で蘇る事が出来る。これがいわゆる『保険』だ。
その『保険』欲しさに宗教変えをしたり、宗教の二股がけをする冒険者は後を絶たない。ところがハナナちゃんは頑なに洗礼を拒絶している。
つまり、ハナナちゃんが迷宮で力尽きた時、それはハナナちゃんの死を意味する。
不意打ちが得意なミミック妖魔は、ハナナちゃんにとって命にかかわる脅威なのだ。深刻になるのも分かる。
とはいえ、ちょっと深刻になりすぎな気もするな。
気晴らしに、私の知っているゲーム世界のミミックの事でも話してみようか。
「ところで、ミミックと言えば宝箱だよね」
「はい〜?
ごめんなさいお父さん〜。ミミックと宝箱にどのような因果関係があるのでしょう〜?」
「え? あれ?」
二人から、お前は何を言ってるんだ?…という怪訝な顔をされてしまった。
「いや、ミミックと言えば、宝箱に成り済まして、迷宮奥深くで冒険者を待っている……んじゃないのかな? かな?」
「はぁ? 宝箱に…ですか〜? 確かにミミック妖魔なら無生物にだって成り済ます事は出来るでしょうけど〜、聞いた事ありませんね〜」
「オトっつぁんよ〜。オトギワルド中の遺跡や迷宮は、とっくの昔に全部荒らされちまってるよ。お宝なんて今更残ってるわけ無いっての。なのに宝箱がこれ見よがしに残ってたら、誰だって怪しむって」
確かに迷宮に宝箱がないのなら、宝箱型のミミックはお役御免だよな。
仮にオトギワルドにいたとしても、絶滅危惧種か、もう絶滅してるかもしれない。悲しいなぁ。
……あれ? …宝箱? 何か、忘れているような……




