3-19 些細な異変
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「あっ! ……あ、あれ?」
四つ足の獣がナリザさんへ飛びかかった! …と思ったら、ナリザさんにたどり着く前に、大地で寝転んでいた。
何があった? もしかして転んだ? ドジッ子? ドジッ子モンスターなの?
ところがナリザさんはロープを解くのに夢中で、背後で寝転ぶ獣のことなど気にも留めていないようだ。
「あ~~ん、も~っ! 全然取れませ~~ん! ハナナさん、ロープを斬ってもらえますか~?」
「はいはい」
振り返ったナリザさんの視線の先にあるのは、大の字で寝転がる四つ足の獣。更にその先にはハナナちゃんが立っていた。右手には抜刀したショートソードを握っている。
えっ? ハナナちゃん? ハナナちゃんなら後ろにいたはずなのに!
慌てて振り返ると、ついさっきまでハナナちゃんがいた場所には、脱ぎ捨てられたマントが残されるのみだった。
いつの間に降りたんだ?
ハナナちゃんに瞬間移動の能力なんて無い。傾斜の壁は私がずっと見ていたから、ここから降りたとも思えない。
と言うことは、直接縦穴に飛び降りたか、直角の壁を利用して三角跳びならぬ三角降りをしたのだ。
つまり、扉から現れた獣に気付いたハナナちゃんが、目にも止まらぬ早さで縦穴に飛び込み、獣を瞬殺したってことか。
そういえばハナナちゃんって、スピードに特化した音速剣士だっけ。凄まじいな。
そしてナリザさんが背後に無関心だったのは、ハナナちゃんを信頼してる証……なのかな?
「は~い、お父さ~ん! もういいですよ~! 早く降りて来てくださ~い!」
「あ~、オトっつぁん! アタシのマントもよろしくね~!」
「お、お~~! 今行きま~す!」
どうやらリュックもロープから解放されたようだ。私はハナナちゃんのマントを腰に巻くと、ロープを伝って降りてゆく。
アスレチックまがいのことをするのは、ずいぶんと久しぶりだ。ちょっとテンションが上がった。
縦穴の底にたどり着いた私は、目の前に転がっている毛むくじゃらが気になってしょうがなかった。これほどの巨体は動物園でしか見たことがない。
「ハナナちゃんよぉ。この獣は何? これが妖魔なのか?」
「うんにゃ、コイツは魔獣だね。名前は、え~っと…タテガミグマだっけ? 確か風系魔法を使うやつ」
ちなみに『妖魔』は実体を持った幽霊のようなもの。謎が多く、いまだ生態は解明されていない。
対して『魔獣』は魔法を使う獣のこと。魔法が使える以外はガングワルドの動物とさほど変わらない。
「するとこいつは、この迷宮に生息してるのかな?」
「いや、それはないね。『妖魔窟』と呼ばれる迷宮は、妖魔しかいないからそう呼ばれているわけだし。多分、近くの草原を徘徊してるうちに、この縦穴に迷い込んだんじゃないかな。
……でも、おかしいなぁ」
「おかしいって何が?」
「タテガミグマの生息地って、もっと南なんだよね。王国周辺にはいないはずなんだけどなぁ」
ハナナちゃんが首をかしげていると、ナリザさんが茶々を入れてくる。
「おやおや~? ハナナさんて、腕は立つのに情報収集はカラッキシなんですね~♪ 酒場に入り浸っているなら活かしましょうよ~♪」
「うっせーな! 酒場ってのは楽しく酒を飲むための場所なんだよ! それ以外のことをしてたら酒がまずくなるじゃねーか!」
酒を飲み交わしながら情報収集をしたり、ミッションに必要なメンバー探しをする。これが冒険者にとっての、正しい酒場の利用方法なんだけどなぁ……。ハナナちゃんが頑なにソロにこだわる事と関係あるのだろうか?
「せっかですし、ナリザがタダで情報提供してさし上げましょう~♪
実は先月あたりからですね~♪ このナノミノノ妖魔窟で~♪ 些細な異変が起きているんですよね~♪」
「異変って……もしかして、妖魔窟に魔獣が住み着くようになったのか?」
「いえいえ~~~♪ そう言うわけではないのですよ~~♪ まあ、口で説明するよりは、ですよね~。ちょっと見ててくださ~~い♪」
そう言うと、ナリザさんは寝転がっているタテガミグマの頭に近寄っていく。
はてさて、何が始まるのか。私とハナナちゃんは、ナリザさんの行動を注意深く見守る。
「それでは~いきますよ~~♪」
そう言うとナリザさんは、膝下20センチくらいのロングスカートを両手で掴み、迷わずたくし上げた!!
たちまち色白の太ももがむき出しになる。それは実に美脚であった!!
ナリザさんは次に前屈みになると、左足を軸にして、右足を後ろへと振り上げていく。
ああっ! それ以上はいけない! スカートをたくし上げたまま、そんな姿勢を取ってしまうと、みっ、見えてしまいますぞ!
ところが、ナリザさんは絶対防衛ラインを熟知しているのか、見えそうなのに全然見えない! それ絶対見えるだろって姿勢でも、チラリとも見えない! ま、まさか……穿いてない?
私がハラハラしていると、ナリザさんは振り上げていた右足を一気に振り下ろした! これは……サッカーキック!?
凄まじいスピードで振り下ろされた爪先は、魔獣の鼻面にヒットすると、そのまま蹴り上げられる!
すると、けたたましい悲鳴を上げながら魔獣が立ち上がった!
…ていうか、コイツ生きとったんかいっ!!
「こいつらは死んだふりが得意でして~♪ 油断した冒険者が,何チームも犠牲になってるんですよね~♪ おかげで忙しいったらありゃしませんよ~♪」
鼻を押さえて苦しむ魔獣に、ナリザさんはとどめの跳び回し蹴りをお見舞いする。頭部に直撃を喰らった魔獣は、断末魔の悲鳴を上げ、そして……
突然、破裂した! 緑色のけむりが一気に広がり、そして消えてゆく。
そして、さっきまで魔獣がいた場所にはビー玉くらいの金属球が一つ、残されていた。
「そしてコイツは魔獣じゃありませ~ん♪ 妖魔が成り済ましていたんですね~♪ 擬態化する妖魔。すなわち~♪」
ふざけていたナリザさんが真面目な顔になり、そして言った。
「ミミックです」




