3-13 食事休憩
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「ところでナリザさん、もうじき12時ですよ」
「そうですねぇ~。もうお昼ですねぇ~」
なんだか気のない返事である。心ここにあらずといった感じだ。
「待機時間もまだあることですし、今のうちに食事休憩とりませんか?」
私がそう提案した途端、眠っていたハナナちゃんが元気いっぱいに立ち上がる。
「っしゃー!! 昼飯だぁぁぁ!!!!」
食事休憩とは、仕事の合間に設けられた、栄養補給と心身を休めるための時間だ。日勤にせよ夜勤せよ、大体時計の短針が12時頃を指した頃にとるので、お昼休みとも呼ばれる。
ガングワルドでは労働基準法によって休憩時間を設けるよう定められているわけだが、オトギワルドでは事情が違う。
なんと! 経営者側から『食事休憩不要論』なるトンデモ論が出ており、物議を醸しているのだ!
曰く、かつて伝説の勇者とその仲間達は、回復魔法のおかげで、食事も休息もとらずに一週間ぶっ通しで闘い続けて来れた。
回復魔法は、かつて魔法使いでなければ使えなかった。しかし魔法紙の普及によって、今では誰もが手軽に扱える。
回復魔法さえあれば、スタミナどころか怪我さえも治ってしまう。だというのに、なにゆえ休憩が必要なのか?
栄養補給に関しても、8時間程度の労働なら朝食と夕食でも十分事足りるし、むしろ食事の後に眠気を誘って仕事に支障をきたしている。
故に、食事休憩は害悪である。…とのこと。
それに対し真っ向から反対したのは、王国お抱えの大魔道士だ。名前は確か…ラズ老師だったか。
曰く、かつての勇者達が闘い続けられたのは、妖魔軍団の侵攻という非常事態である上に、特殊な訓練と修行を続けて来た戦闘エリート達だからだ。平時の、しかも一般労働者に当てはめられるようなことではない。
回復魔法は確かに便利だが、決して万能ではない。身体の疲労は治せてても、心の疲労までは治せないからだ。
故に、疲れた心を癒すため、食事休憩は必要なのだ。…とのこと。
私も、ラズ老師の主張に全面的に賛同する。
食事休憩によって得られる、ささやかな楽しみと一時の安らぎは、またとない心の癒しなのだ。
だから、大喜びではしゃぐハナナちゃんの気持ちはわかる。少々はしゃぎすぎな気もするが。
ところがナリザさんは憂鬱そうだ。もしかして唯一神教団は、食事休憩不要論を支持しているのだろうか?
「お父さんとハナナさんは〜……お弁当があるのですか〜?」
「はい♪ 下宿先の管理人さんがサンドイッチを作ってくれたんですよ」
「まあ〜! それはステキですね~♪ 実はナリザも司祭様にお弁当を作っていただいたんですよ~♪」
なんと! 司祭さん! イケメン三十代なのに女子力まで高いのかっ! そりゃあ、乙女だったらほっとけないよな。
それにしても、どんなお弁当を作ったんだろう。気になる。
「では、ナリザは個室で食べておりますので〜…」
というと、ナリザさんはそそくさと便所に入り、鍵を閉めてしまった。
え!? 何!? 便所メシってどういうことなの!?
「ハナナちゃん、もしかしてナリザさんをいじめてる?」
「あ? なんでそうなるんだよ!」
「そうだよな…。そんなタマじゃないよな、ナリザさんて。やられたら倍返ししそうだし」
じゃあなんだ? 司祭さんのお弁当が人に見せられないような代物なら、あんな自慢げに話さないだろうし…
はっ! もしかして……見栄を張っているのか?
私はふと、昔聞いた話を思い出す。
かつて小学校はお弁当を持ってくるのが普通だった。だけど、貧しい児童はお弁当を作ってもらう余裕が無い。それを恥ずかしく思った貧困児童は、「家で食べてくる」と言って学校を抜け出し、お昼休みが終わるまでどこかで適当に時間を潰してから戻ってきたそうな。そんな子供達を憐れに思って始めたのが、学校給食の起源なんだとか。
「どうしたのオトっつぁん。悲しそうな顔してさ」
「いや、ちょっとナリザさんが憐れに思えてね」
「憐れねぇ……。まあたしかに、ちょっと頭が可哀想な人だとは思うけど」
「ちょっとハナナちゃんに相談があるんだけど…………いいかな?」
「え〜〜〜。………いや、それはそれで面白いか。うん! いいよ♪ いいよ♪」
いくらナリザさんと話をするためとはいえ、私が便所の側に近寄って聞き耳を立てては、完全に変質者である。
そこで話は、煽り上手なハナナちゃんにしてもらうことにした。
「お〜い、ナリザ〜! オトっつぁんがさ、一緒にサンドイッチ食べないかって誘ってるぜ。
ただし!
恐怖のルーレットサンドイッチだけどな! クックックッ♪」
ドアが開くとナリザさんがユラ〜リと現れる。煽り耐性が低いのか、ハナナちゃんの挑発にいささかキレ気味である。
「きょうふぅ? 今ハナナさん、恐怖とかおっしゃったかしら〜?
このナリザが恐ろしいのはこの世でただひと〜つ! ミュリエルラ司祭様がキレた時だけよ〜!!」
あの温厚な司祭さんもキレることがあるのか! そりゃあ確かに怖いかもしれないな。もっとも、キレる原因は大体ナリザさんにあるような気がするけど。
「ヘヘッ♪ 別にいいんだぜ? 逃げたってよぉ」
「あ? ハナナさん面白いことを言いますねぇ〜。また痛い目に遭いたいんですかぁ?」
二人とも不良漫画みたいにメンチを切ってるな。これ以上放置しておくと流血騒ぎになりそうだ。ナリザさんも便所から出てきたことだし、もう変質者扱いはされないな。よし! 止めに入ろう。
「ああよかった♪ 実はですねナリザさん、下宿先の管理人さんが張り切っていっぱい作ってくれまして。私達だけでは食べきれなかったんですよ」
「まあ! そういうことでしたの〜♪ なんだか申し訳ありませんけど〜、ナリザもお相伴にあずかります♪」
かわいい笑顔で応えるナリザさん。ついさっきまで、ハナナちゃんとメンチ切りをしていたとは思えないほどの豹変ぶりであった。




