3-12 暇つぶし
何はともあれ、一時間は待ってないといけないわけだが、ここで気になるのが時間の計り方だ。
電子機器が普及しているガングワルドであれば、携帯やスマホを使えば、秒単位で知ることが出来るが、電気の普及していないオトギワルドでは、充電式の機器は使い物にならない。
また、標準電波の送信局がないので、電波時計も役に立たない。時刻合わせは手動でやるしかないのだ。
電池式は正確に時を刻んでくれるが、年に一度電池交換が必要。ゼンマイ式は一日に一度ゼンマイを巻き、時刻を合わせなければ、少しずつ時刻が狂い始めたり、止まってしまう。
置き時計にせよ、腕時計にせよ、懐中時計にせよ、ガングワルド製は高価なので、金持ちでないとそもそも所持できないわけだが。
では、一般市民はどうやって時間を計るのか。時計塔だ。
王都ノイバラのような大きな街には時計塔があり、朝7時から夜7時までは1時間単位で鐘を鳴らしている。
更に夜中の12時には、1日の終わりと新たな始まりを表すため、鐘が12回打ち鳴らされる。真夜中に鳴らすのは迷惑千万だが、真夜中の鐘はオトギワルドの伝統なのでしょうがない。それに、この鐘があったおかげでシンデレラも魔法が解ける前に、舞踏会から無事逃げ出せたわけだしね。
小さな町や村でも時報代わりに鐘を鳴らすが、どのタイミングで鳴らすかには地域差がある。朝の5時から夜の12時まで毎時間鳴らすセッカチな町もあれば、朝と昼と夕方と三回だけのノンビリな村もある。時間に追われることを嫌う人は、鐘を鳴らす回数の少ない地域に行きたがるらしい。私は……どっちがいいかなぁ。
では、人里離れた場所で時間を計るにはどうするか。やはり日時計さんが大活躍だ。夜は使い物にならないし、雨や曇りの日も役に立たないが、メンテナンスが楽なのは非常にありがたい。
他にも、先ほどの緑のロウソクは1本が燃え尽きるのに約20分かかるそうだから、それを利用して計ることも出来るだろう。
あとは私は現物をまだ見たことはないのだけど、一時間単位や半日単位、そして一日単位の砂時計もあるそうだ。
幸い、避難小屋の側にも日時計が設置されており、太陽も出ている。今は何時かな? え〜っと……11時半…か。なんだよ! 気がつけばもうじきお昼じゃないか! 朝から仕事をするはずだったのに、私は何をやってるんだろうなぁ。まあ、待機も仕事のうちなんだけどさ。
とにかく一時間、私達は時間をつぶさないといけないわけだ。
ハナナちゃんは寝不足だったようで、椅子に座るとテーブルに伏して眠り始めた。うむ、悪くない時間の潰し方だ。
ナリザさんは退屈だからと、お祈りを始めていた。それって退屈しのぎにやることなのかな? ま、まあいいや。異国の宗教に口を挟んでもろくな事にならない。
私はと言えば、メモ帳とシャーペンを引っ張り出して、目下落書き中である。先ほど閃いたクロリスたんを、必死になって描きとめていたところだ。ふふっ、紙と筆記用具さえあれば、いくらでも有意義な時間が過ごせるぜっ!
「なぁ〜にをやってらっしゃるんですかぁ〜?」
不意に足下からナリザさんの声。見ると、しゃがみ込んだナリザさんが、獲物を狙うネコのように目を光らせていた。
「ちぇい!」
不意に飛びかかってきたかと思うと、右手に持っていたメモ帳が消えた! むう、ぬかった!
「や〜め〜て〜! か〜え〜し〜て〜!」
「お父さんは何を書いてらっしゃるのですかね〜♪ おおおおっ!! こ、これは!!
お父さん! 絵心あったんですね!」
ああ! ちくしょう! バッチリ見られた! もう居直るしかない!
「なんと言いますか……エロい絵ですね♪」
「失敬なことを言うなぁ! 健全な絵しか描いとらんわい!」
「いやいや、何をおっしゃいます♪ 確かにどれも服を着てますけど、健全そうに見えるタッチの節々から、激しいリビドーを感じますデスよ♪ ナリザ違いの分かる女ですから、よぉっく分かります〜♪ ………それにしても、女の子ばっかりですね」
「だってしょうがないじゃない! 好きなんだもの!」
「ハナナさ〜〜〜ん! お父さん凄いですよ〜〜〜! こんなにエロい絵を描いてるんです〜〜〜!」
「ぎゃ〜〜〜!! 拡散しちゃダメ〜〜!!」
するとハナナちゃんは、気だるそうに頭をもたげると、
「アタシ二次元とかキョーミねーから」
と言い残して再び眠りについた。うん。健全なイイ子だ。
「ゲー術が分からないなんて、ハナナちゃんは残念美少女ですねぇ〜♪」
「いや、別に分からなくていいからね。むしろ分かってる君の方が残念美人だから!」
「ナリザ、お父さんにお願いがあるのですけど、聞いてもらえますか〜?」
「な、なんですか? 見習い修道女が上目遣いでおねだりとか、そういう卑怯なコトしちゃいけませんよ」
「この調子で描いてくださいよぉ♪ 男の子でリビドー溢れる絵を是非♪」
「それが目的か〜い! って、無理に決まってるでしょ! 同性にリビドーなんて感じないし、もし感じるようになったら色々と終わってしまうからっ!」
「そんなこと言わないで、描いてくださいよぅ〜♪ お・と・う・さ・ん♪」
「い・や・じゃ!」
…ってな感じで、一時間はあっという間に過ぎてしまうのだった。
なんだかナリザさんとも親しくなれたようで、よかった……のかな?




