3-11 神頼み
とりあえずナリザさんは、破戒僧とか、生臭坊主と呼ばれるたぐいの、コッマッタチャンなのだと分かった。
心中お察しいたしますですよ、ミュリエルラ司祭さん。
「まあ、ハナナさんの秘めたる性癖を暴くのは、次の女子会に譲るとしまして……。
本当にごめんなさいね、お父さん。成り行きで小一時間ほど小屋で待機しなくてはいけなくなってしまいました」
「それはかまわないのですが……」
「お父さ〜〜ん。そんな困り顔で言われましても」
「えっ!! 私、困った顔してます?」
「メッチャしてますよ〜。ねえ、ハナナさん」
「ああ、してるしてる、チョ〜困ったって顔してる」
認めよう。確かに私は困っている。リナリアちゃんとの約束を何がなんでも果たさなければならというのに、今の私は首都ノイバラから歩いて2日かかる僻地にいるのだ。おまけに一見のどかな景色でも、どこからモンスターが現れるか分からないと来ている。
自力での帰宅はほぼ不可能。仕事が終わるまでは拘束が解かれることはないだろう。
「ナリザさん、回収作業というのはどのくらい時間がかかるものなのですか?」
「状況の応じて変わりますけど〜。目安としては1パーティーに1時間ですかね〜。
今日は四チームが行方不明ですから〜、単純計算ですと4時間かかる事になりますね〜♪」
「4時間ですか。それなら夕方には帰れそうですね。よかった♪ それなら大丈夫です」
「でも〜、探索者がバラバラにされてたりしたら、話は別なんですよ〜♪
例えば〜、首をはねられていたとするじゃないですか〜♪
その首が、コロコロ転がってどこかへ行ってしまって、回収できなかったら〜、身体だけを復活させても死んじゃうんですよ〜。
ですから〜、絶対に身体の全てを探し出さないといけません〜。その場合、何時間かかるのかは見当も付きませんね〜」
「ああ、それは……絶望しか見えないですね」
「でもでも〜、逆の可能性もあるんですよ〜。四つのパーティー全てがナノミノノ妖魔窟で全滅したとは限りませんから〜。妖魔窟で一人も見つからなかったら、それはそれでお仕事終了ですから〜。早ければ一時間で終わっちゃいますよ〜♪」
「運次第ということですか」
「神の御心次第とも言いますね〜♪」
「つまり、今の私には、神に祈るしか無いわけですね」
はて。私はどの神様に祈ればいいんだ?
例えば日本人らしく日本の神々に祈るとして、異世界からの祈りが八百万の神々に届くのだろうか。
ならばオトギワルドの神様に祈るとして、どの神様に祈るといい? 地下迷宮の神様なんていたっけ? 地下と言ったらギリシャ神話的には冥王神ハデスの領域だけど……。
いやまてよ? もしかしたら………。
「おいおいオトっつぁん。なんで祈り始めてるのさ。いきなり信仰に目覚めちゃったわけ?」
「うむ。苦しい時だけの神頼みってヤツよ」
「別にいいけどさ、どの神様を頼るのよ」
「フフフッ♪ それよ! 地下と言ったら冥王神ハデスの領域だろ? だけど野薔薇ノ王国にはハデスの神殿なんて無い。私の祈りも届くはずがない。
だがちょっと待て! ハデスには奥さんがいる! その名もベルセポネ。彼女のお母さんは豊穣の女神デメテルだ。
そして野薔薇ノ王国が国をあげて信仰しているのは、花の女神クロリスなんだよ!」
「そりゃあ知ってるけど……。デメテルとクロリスって血縁でもなんでもないよね。何か関係あったっけ?」
「クロリスもデメテルも、大地に芽吹く植物を豊かに育てるという意味で共通してる。言うなれば同業者だ。同業者のよしみで願いを仲介してくれるよう、クロリスに頼むんだよ。
ダメモトだけど、もしかしたらハデスも私の願いを聞いてくれるかもしれないだろ?」
私が熱く解説しているのとは裏腹に、ハナナちゃんはどんどん脱力していくのが分かる。
「オトっつぁんよぉ〜〜。可哀想だから止めたげなよ〜。うちの女神様、カワイイだけが取り柄なんだぜ? 絶対草葉の陰で泣いてるって。『無茶振りです〜。勘弁してください〜』ってぐずってるって」
くっ! ハナナちゃんの具体的な描写のおかげで、幼女っぽいイメージが湧き上がってしまったじゃないか!
どうしてくれるんだチクショウめ〜〜!!
忘れないうちに幼女クロリスたんを描きとめておかなくてはっ!
ああっ! シャーペンはっ! メモ帳はどこだぁぁ!!




