3-10 狂犬
「大丈夫だよ、オトっつぁん」
不安に駆られる私を気遣ってくれたのか。ハナナちゃんが背中をポンポンと叩いてくる。
「ああ見えてナリザは強いんぜ。シスターに転職する前は、格闘家の冒険者だったんだから。しかも冒険者仲間から付けられた二つ名が『狂犬ナリザ』だし」
「きょ、狂犬?」
「まぁ見てなよ。あの程度の筋肉、瞬殺しちまうからさ♪」
ナリザさんより1.5倍は背の高い筋肉男3人を瞬殺? 指先一つでダウンしちゃうの?
それは注目せずにはいられない!!
「わっかりました!」
突然、ナリザさんが筋肉男達に叫ぶ。どうやら脅迫めいた話し合いに進展があったようだ。
「あなた方の駆け込み探索、認めましょう! ただし、タイムリミットは一時間です! 今日の日銭を稼ぐ程度でしたら十分でしょう。一時間過ぎたら回収を始めます。よろしいですね!」
「おおう、十分でい。シスターから許可が出たぞ! お前ら、唯一神様に感謝だ♪」
形ばかりの感謝を示すと、『筋肉鋼組』の3人は迷宮に降りていった。
……………………………。
え〜っと……。今のナリザさんの言動に、狂犬要素ってあったっけ?
説明を求めようと振り返ると、誰よりもハナナちゃんがめっちゃ動揺していた。目の前で起きたことが信じられないって感じだ。
そこにナリザさんがため息をつきながら、すごすごと戻ってくる。
「おいおいおい! どうしちまったんだ!! 『狂犬ナリザ』に何があったんだよ!」
「その二つ名で呼ぶのはよしてくださいよ〜。ナリザは過去の栄光にすがる気なんて無いんです〜」
え、栄光なのか…。てっきり黒歴史かと思ったんだけど…。
ああそうか、元冒険者だもんな。悪名で呼ばれるのは箔が付いてむしろステイタスなのね。
「なんのことはありません♪ かつての『狂犬』は、『忠犬』に転職したのです〜♪
ただそれだけのことなのです〜♪」
ああなるほど、神の愛か。確かに、犯罪者や荒くれ者が信仰心に目覚めたことで改心するという話はよく聞く。有名なところではジャン・ヴァルジャンとか。
「ミュリエルラ司祭様とお会いしてからというもの、ナリザは愛の忠犬なのです〜♪
争いや殺戮は極力避けるよう、司祭様から堅く言いつけられておりますから〜」
ああ分かった。さっきは司祭に言われて自重したと。愛の力は偉大だねぇ。
………ん?
おや? あれ? え、え〜っと………修道女って確か、禁欲的な信仰生活をしてるんじゃなかったっけ?
「あっそうだハナナさん♪ 最近、家族で冒険者してるチームが教会に来るようになったんですけどね。長男のフランツ君がかわい〜〜んですよぉ〜♪ 特にあのキュッとしたお尻がかわいいんですぅ♪」
「このエロエロシスターがっ! 煩悩だらけじゃねーかよっ!」
「何言ってるんですかぁ♪ ハナナさんだって猥談とか好きなくせにぃ♪ もっと素直になりましょうよぉ♪」
「いっしょにするなぁぁぁ!!!!」
あ〜〜〜〜〜〜………
エロエロってそういう意味なのね……
これが聖職者なのかと思うと、軽くドン引きしてしまうけど……
煩悩好き同士、案外わかり合えるかも? とかちょっと思ってしまった。




