3-9 駆け込み探索者
「……たく、しょうがないなぁ~」
「え? あ、なんですか? 何か私、ヘマでもしました?」
「あ~~~、いえいえ♪ こっちの話ですよ、こっちの話〜。……そうだ、お父さん、リュックにこの荷物を詰め込んでいてもらえますか~?」
ナリザさんは外が気になるようで、チラリチラリと窓を眺めている。何だろう? 天候を気にしているのかな?
大きなリュックサックを開けてみると、袋の中は前後で仕切られていた。
「棺箱は全部、袋の中の仕切りの背中側に入れてください~。後ろ側には何も入れないでくださいね~。それとロウソクは、側面のポケットにお願いしま~す」
よーし。指示をもらったぞ! お仕事♪ お仕事♪
棺箱は手のひらサイズ。頑丈で軽いが、作りは少々荒かった。特に塗りは小学生の工作レベルだ。数が足りなくて、急ごしらえで大量生産したのかな?
バラバラに入れるとかさばってしまうので、積み木を積み重ねるように入れてゆく。その間、ハナナちゃんは緑のロウソクを左右のポケットに詰め込んでいた。
机に出された棺箱を全て詰め込むと、さすがにリュックも重たくなっていた。左右のポケットも、緑のロウソクでパンパンだ。女性が背負うにはかなりキツそうだ。私達が来なかったら、ナリザさん一人でこんな大荷物を抱えるところだったのか……。
さて、次はどうするのかな?
指示をもらおうと辺りを見回すが、避難小屋の中にナリザさんの人影はなかった。どこだ? トイレか? 地下室か? それとも……
「あ~~、そこの人! 冒険者の方ですか~? 冒険者の方ですよね~?」
外だった。
窓から外を覗くと、ナリザさんの他にも誰かいる。厳つい顔をしたガラの悪いムサ男が三人。年齢は30台くらいだろうか。全員大柄のマッチョマン。外国人だ。
武装はいずれも巨大なハンマーや金棒のような打撃系武器を装備。技よりも力を信奉するタイプだと分かる。
防具は上半身裸に直接鎧を着込んでおり、トゲ付きの肩パットやツノの付いた兜が目立つ。世紀末救世主伝説に出てきそうな、典型的『ヒャッハー』ファッションだ。
教会で見かけたバランス型のバルカス一家は家族のチームだったけど、こちらは打撃系に特化した筋肉至上主義の3人パーティーで、同じ趣味の集まりって感じに見える。全員同じコスチュームなのは仲良しアピールかな?
「冒険者ならご存じですよね~? 週に一度の遭難者回収日~。今日がその日なんですよ~。
ですから、妖魔狩りは遠慮してください~! それか、回収の終わる夕方まで、避難小屋で待ってもらえませんかね~?」
「おいおい、ねーちゃんよ! 勘弁してくれよ! 回収の後じゃ、迷宮中がロウソク臭くて妖魔が出てこねーじゃんかよ!」
「そう言われましても、遭難者回収は毎週行われると決まっていますし、各ギルドにも通達しています〜!」
「別に中止しろって言ってんじゃねーよ。オレ達が妖魔狩りしているちょっとの間、回収を待っててくれって言ってるんだよ!」
「駆け込み探索はヒッジョ〜に迷惑です! これも冒険者ギルドには特に苦情を入れているんですけど、聞いてませんか〜?」
「オレ達だって日銭を稼がないと生きていけねーんだよ! ちょっとぐらい融通きかせろや!」
どうやらナリザさんは、冒険者パーティーと揉めているみたいだ。
「あ〜。誰かと思えば『筋肉鋼組』かよ」
「知ってるのかハナナちゃん! …っていうか、なんだよその名前…」
「あいつらのチーム名だよ。ガタイは良いけど性格は悪いんだよな。幸か不幸か、娘にちょっかいを出す気配が欠片も無いんだけど、代わりにガチホモ疑惑があんだよね♪」
「かかわりたくないでござる! 絶対にかかわりたくないでござるっ!!」
週に一度の遭難者回収の日はみんな知っているから、良識的な冒険者なら遠慮する。つまり迷宮内にライバルがいないということであり、妖魔狩りで大もうけするまたとないチャンスなのだ。しかし回収側にしてみれば、迷惑この上ない。
さしずめ、駆け込み需要を狙うお店と、駆け込み乗車に苛立つ車掌さんの対決ってところか。
うむ。我ながら、意味の判らない例えだな。
「ったく堅苦しいな! そんなんだからお前ら野薔薇ん所の女は、どいつもこいつも結婚できねーんだよ!」
「あん?」
「あん?」
今、ハナナちゃんとナリザさんが同時に反応した! これは…殺意の波動!?
馬鹿か筋肉ホモがっ! よりにもよって一番デリケートな問題に踏み込みやがって!
まずい! 止めないと死人が出るぞ!! でも無理! 筋肉三人組が二重の意味で怖くて私は避難小屋を出られない!
隣にいるハナナちゃんだけでも止めるか? でもそんなことしたら、ナリザさん独りで筋肉三人と対峙させることに……
ど、どうすればいいんだ! 何が正解なんだっ!
パニックを起こした私は結局、事態を見守ることしかできなかった。




