2-14 骨董品
気を取り直して、ハナナちゃんが見つけたもう一つの男物の箱を開けてみる。
案の定、サイズの大きな靴が入っていた。入ってはいたのだが……
「ククルリさん、こっちの靴、えらくでかいですけど、宣伝用に作った見本か何かですか?」
「うんにゃ、全部中古品だよ。でも、レストアしてるから新品同様だろ?」
もしかしてオトギワルドには、ジャンボマックスみたいな巨漢が普通にいるのだろうか……?
それにしても困った。サイズの合う靴が一つもないぞ。小さい靴と違って足は入るから、靴紐を絞れば履けなくはないが、これじゃあ完全にドタ靴だ。これなんて長さがハンバーガー四つ分だし、赤いアフロのカツラと黄色いつなぎさえあれば、嬉しくなるとついやっちゃうピエロさんに早変わりだな。らんらんるー♪
「らんらんるーってなに? 呪文?」
「い、いや、何でもない。何でもないぞハナナちゃん。……それにしても困ったなぁ」
「ああそうだ! だったら女物で大きい靴を探せばいいんじゃね?」
「婦人靴ぅ? …いやまあ、それでもサイズが合うなら万々歳だけど。そこのところ、どうなんですかククルリさん」
「そうだねぇ……女物だと、余計な装飾があったりするから、同じサイズでも値が張ったりするんだけど、それでも良いかい?」
「高く付くのは困りますねぇ。別に女装したいわけでもありませんし…。あっ! 私、女装癖無いですしっ!」
「あははは♪
……そうだねぇ。オトジっちの靴が仕上がるまでのつなぎなのに、高い金を払ってサイズの合わない靴を買うなんて馬鹿馬鹿しいしねぇ……。そうだっ!」
突然、何かを思い出したのか、ククルリさんはポンと手を叩くと、荷車の木箱を探り出す。
「あれはどこだっけか…。いやね、アタシは革靴専門だから、基本的には扱っていないんだけどね、付き合いで仕方なく引き取った質流れ品が……ああ、あった、あった! これ、これ!」
ククルリさんは木箱から取り出したのは、足全体を覆う形の重厚な造形物だった。色は薄い褐色で装飾はなく、木目があった。
それはまさしく木靴であった。
「昔は革靴がとんでもなく高かったから、庶民の間で普及してたんだけど、近年は革靴も値が下がってきたからね。今じゃただの骨董品さ。わざわざ好んで履く人なんて、ブトウカくらいなもんさね。
あ、格闘技の武闘家と、踊る方の舞踏家の両方ね。
木靴は見ての通り頑丈だから、武闘キックでダメージアップを期待できるし、民族舞踊でカタコト鳴らしながら踊る時に木靴を使ってるのを見たことあるよ。どっちにしても骨董品なんだけどね。
在庫ばかり溜まるもんだから、いっそのこと暖炉にくべちまおうかとも思ったけど、どこかで植木鉢に活かすってアイデアを聞いてさ、それ以来、買い物客へにおまけで付けることにしたのさ。
だからオトジっちが良ければ、好きなのを一足あげるよ」
「マジっすか! マジでいいんっすか!」
「うん、マジ、マジ」
「ありがとうございます! ありがたくいただきますです!」
木靴! 嗚呼、何というロマンの固まりかっ!
子供の頃、アニメ化された児童文学の少年少女が履いているのを見て以来、木靴に憧れを抱いていたものだ。中高生になってからは別のジャンルに興味を持ち始めて、すっかり忘れていたが、この年になって子供の頃の憧れを思い出すことになろうとはっ!
サイズの合う木靴があると良いのだけど……。
「あ、そうそう、木靴はね、ぴったりフィットするヤツはダメだよ。靴の後ろに親指が入るくらいの隙間が必要なんだ」
「でもそれじゃあ、すぐ脱げちゃうんじゃないです?」
「厚手の靴下を重ね着して調整するんだよ♪」
「なるほどー。面白いですね。でもそうなると、靴下も買わないといけないか……」
その時突然、私は熱い眼差しを感じとった。誰だ? 誰が私を見ているのだ?
振り返ると、ククルリさんの出店の隣に立っていた少女が、思い詰めた顔をして私を見つめている。年齢は12~3歳くらいだろうか。ご多分に漏れず美少女である。
何ごとだろう? もしかして、何かトラブルに巻き込まれているのだろうか? だけど声に出すとひどい目に合わせられるので、無言で私に助けを求めているとか?
お隣は靴下屋さんだった…。




