2-15 福の神
不覚。昨日はせっかくの休みだったので、仕事疲れでずっと眠ってました。
連続投稿記録が止まって悔しい。
「オトっつぁんどうよ? 木靴の履き心地は」
「うん、悪くないよ。まあ、多少違和感はあるけど、慣れちまえばどうってことない」
ボロ靴を託してククルリさんの出店を離れた私達は、そのまま朝市巡りをすることに。
買い物は明日の予定だったのだが、ハナナちゃんが馴染みの店を紹介してくれるというので、予定を前倒しにしたのだ。
ところで…………私は何のために、リナリアちゃんに朝早く起こしてもらったんだっけ?
だけど、ハナナちゃんの楽しそうな笑顔を見ていると、これはこれで良いような気がしてきた。仕事は明日に先送りだな。
冒険女子のハナナちゃんにとっての馴染みの店と言えば、もちろん武器屋と防具屋である。
これらは冒険者御用達の店だけに、一般庶民の私には敷居が高すぎて、一度も入ったことがない。柄が悪くて怖い客ばかり…というのもあるが、扱う商品の価格が桁違いなので、買い物自体が不可能なのだ。
だけど、市場なら話は別だ。武器屋も防具屋も客層に合わせて安価な掘り出し物を置いている。安価と言っても庶民には高嶺の花だが、それでも頑張って貯めれば、何とか手が届くくらいの価格だった。ハナナちゃんが初めて買い揃えた装備も朝市の掘り出し物だったそうだ。
今日のところは冷やかしだが、いつの日か買う日が来るかもしれない。そう言う意味では有益な情報だった。
結局戦利品は、今のところこんな感じ。
ククルリさんに教えてもらった魔法紙専門店で『唱えっきり魔法陣』の回復魔法紙10枚セット。これはハナナちゃんにお金を渡し、代わりに買ってもらう。よそ者の私では定価だが、野薔薇ノ民であるハナナちゃんなら国民割引が適用されて格安になるからだ。ありがたや。ありがたや。
更に無生物用回復魔法紙を試しに1枚。こちらは割引が適用されないので、貧乏人にはキツい価格設定だった。
ククルリさんの靴屋でボロ靴を預け、木靴をもらう。更にリナリアちゃんの靴を購入。
その隣の靴下屋で紳士用厚手の靴下をまとめ買い。うち3足は木靴を履くためにその場で重ね着。
「それにしてもビックリしたね、あの靴下屋の女の子。オトっつぁんが靴下を買うって言ったら、泣いて喜ぶんだもん」
「確かに…。在庫を抱えてて困ってたんだろうか。私は木靴を履くのに必要だから買っただけなのに…」
「へぇ〜、そうなんだ〜♪ それで靴下を3ダースも買うんだ〜♪ 使い潰すのに何年かかるんだろうね〜〜♪」
確かに買いすぎたかもしれない……。だけどあんなかわいい子に『助けてオーラ』を出されたら、放っておけないじゃないのよさ。
「アタシ思うんだけどさ」
「ん?」
「オトっつぁんって、ホントは福の神じゃないの?」
「はっ!?」
「だってさ、さっきも女の子を一人幸せにしてあげたじゃん」
「いやいやいや、何言ってるの! 美少女の笑顔が見たくて靴下買っただけでしょ! 泣かれちゃったけど」
「そうかな〜」
「そうだよ」
「それもそうか♪」
「そうそう」
「……でもさ、もしかすると、オトっつぁんには福の神の加護があるのかもしれないぜ?
ほら、オンボロ屋敷の管理人だって、オトっつぁんが下宿して大助かりしてるわけだし」
「ねーよ。ステキ美人に良い顔したくて張り切ってるだけの、ただのオッサンだっての!」
「そうかな〜」
「そうだよ」
「それもそうか♪」
「そうそう」
む〜、分からん。ハナナちゃんは何をしたいのだ? 私をおだてて、持ち上げて…。何かおねだりしたいことでもあるのかな?
「オトっちゃん、アタシと初めて会った時の事覚えてる?」
「そりゃあ、忘れないよ。この世界に迷い込んで森を彷徨っていた時、初めて会ったのがハナナちゃんだし、会って早々、密輸の容疑をかけられて首根っこ掴まれてしょっ引かれたし」
「ソウデシタッケ? ウフフフフッ♪」
「おいこら忘れんなや!」
「あはははっ♪ ゴメンゴメン。でさ、その出会った場所ってのは『深キ深キ森』だったのよ」
「それって王国の北にある、とてつもなく深い森だよな。人外魔境だって聞いたけど」
「そうそう。だからあん時、アタシが見つけてなかったら、オトっつぁんは化け物に喰い殺されていたかもしれないわけよ。これはもう、アタシに感謝してもしきれないくらいだよね」
「そうだねプロテインだね。で、それがどうしたの」
「『深キ深キ森』にはさ、冒険者なら誰もが知っている伝説があるんだよ。『七福の方舟伝説』って言うんだけどね」
「七福の方舟伝説ぅ? なんだそりゃ」
「太古の昔、福を授ける七柱の神々を信仰する王国があったんだって。だけど大洪水が起きて滅んでしまった。
だけど王国が滅びる前、神託を授かった神官が方舟を造ったの。七福の神々のご神体と、秘宝を山積みにしてね。
そして、いつしか王国が復興できるよう、若い王子と神官の娘に方舟を託したんだって。だけど方舟は、大洪水に流されて行方不明。いまだ痕跡すら発見できていないんだよね」
「その方舟が『深キ深キ森』にあると?」
「確証がある訳じゃないけど、信じている人は多いよ。何しろあの森は、今なお人知が及ばない未知の領域だからね。森の奧は化け物だらけで迂闊に入れないしさ。…で、」
「で?」
「オトっつぁんは謎また謎の森の中で、発見されたわけよ。
気になるじゃん♪ 方舟伝説と関係あるんじゃないかって。興味が湧くじゃん♪ オトギワルドに来た意味とか。
アタシにしてみれば、オトっつぁんはロマンそのものなわけよ」
「え〜〜〜〜〜〜〜。勘弁してくれよ〜〜〜〜」
なるほど、お宝に歴史ミステリーか。それは確かにロマンだな。一攫千金も、歴史の謎に迫るのも。
で、ハナナちゃんにとっては、私が夢と冒険の手がかりなわけだ。期待はずれだと思うけどなぁ。
それにしても、日本では縁起物の七福神が、オトギワルドでは妙な形で広まってるんだな。なかなか興味深い。
「とにかく私と七福神とは、何の関係もないからな。妙な期待をされても困るぞ」
「そうかな~」
「そうだよ」
「それもそうか♪」
「そうそう」
うん、きっとそうだよ。
オトギワルドでは一度も名乗っていないけど、私の苗字が『大黒』なのも…。
子供の頃にあだ名で『大黒天』と呼ばれていたのも…。
ただの偶然さ。
「ああそうだ、次は保存食のお店見に行こう! これが結構大事なんだよ! ダンジョン探索じゃ現地調達はほぼ不可能だからね」
私の腕を引っ張りながら、嬉しそうなハナナちゃん。はしゃぐその姿は、父親に甘える幼い娘を思わせた。
そういえば、ハナナちゃんの本当のお父さんは、今どこで何をしているのだろうな。
「ゴラァ! なにやっとんじゃぁ!!」
ドキッとした。まさかっ、ハナナちゃんのお父さん!?
いや、ぜんぜん違うか。その怒鳴り声はとても愛らしく、空から聞こえてきたのだから。
リンゴン・ベルだった。




