2-8 陰り
2章もようやくゴールが見えてきました。まだあと何回続くかとは言えませんが、多分1章よりは短いです。
「リララさんの要望ですと、出荷管理課か、冬花課か、春花3課のどれかですね」
「ふええ〜〜〜。どうしよう……」
「それでは、少し考えててくださいね。おはようございますダリアナさん。お待たせしました」
「おはようモモカさん。今日は20人いるんだけど、いつものところお願いできるかい?」
「そうですね。『夏花1課』はあと18人で定員一杯ですから、二人は他の職場に行っていただくことになりますね」
「あちゃ〜。どうにかならないのかい? ……どうにもならないよね〜」
「はい、ごめんなさい。春花1課か春花2課、もしくは出荷管理課でしたら、今なら全員入れられますが…」
「ちょっと相談させておくれ」
「はい、わかりました。それでリララさん、決まりました?」
「じゃぁ……出荷管理課…かな?」
「それでは出荷管理課で。リンゴンお願い」
「あーい。ホラホラ、このバッジを胸に付ける付ける! 絶対無くすなよ〜!」
「それでは次の方」
「ふえっ、あのっ、初めての職場だから、アタシ場所がわかんないですけど」
「……ったく、外に同じバッジを付けた人がいんだろが! 一緒に待ってろっての!」
「ふええっ…」
「これっ! リンゴっ! ……そう言うことですので、出発する時は声をかけますから、勝手に行かないでくださいよ。次の方どうぞ。おはようございますマロークスさん」
モモカさんは第一窓口をグループ用に、第二窓口を個人用に使い、効率よく捌いているようだ。
読み書きできる人用の第三窓口に行く者は一人もいない。まるで私が来るのを待っているかのようだ。だがしかし…
「なあオトっつぁん。仕事探さねぇの?」
「え?」
「えーっと……、何のために早起きしたんだっけ? モモカ姐をボンヤリと見とれていたかったの?」
「いや、決してそんなことはないぞ。ただなぁ…」
私が立ち見に疲れて窓の下にしゃがむと、つられてハナナちゃんもしゃがみ、体育座りをする。
「サポートにリンゴン・ベルがいるとはいえ、実質、二つの窓口をモモカさん一人で捌いてるんだぞ? 私が入ったら三つ目の窓口を使うわけだし、一時的とはいえ、これ以上の負担はモモカさんが大変じゃないか?」
「そんなこと言っても仕方ないじゃん。それがモモカ姐さんの仕事なんだからさ」
「そうは言っても……。めっちゃ気が引けるんだよな…」
「じゃあ、どうすんのよ?」
「もう少し行列が減ってきてからにするよ。それまでは、ボンヤリとモモカさんに見とれているよ」
「けっ、勝手にしてろっ」
ハナナちゃんの拗ねる姿は、ちょっとかわいい。本人は女を捨てた気でいるかもしれないけど、まだまだ捨てたもんじゃないって思うな。
再び立ち上がり、部屋を覗き込んでみると……少々空気が変わっていた。
「あの…どうしてもダメなんでしょうか。正直、マロークスさんを頼りにしていたのですけど…」
「すまんなぁ。モモカちゃんの力にはなりたいんじゃが、もう歳でな。体が言うことを聞かんのよ」
「そう……ですか……」
モモカさんの顔に陰りが見えた。何か深刻な事態が起きているのだろうか。そう思った矢先、モモカさんに笑顔が戻る。
「分かりました♪ こちらで何とかします」
「すまんなぁ。本当にすまんなぁ」
「いいえ。どうかお気になさらないでください。こちらこそ、これまでずっと頼ったままでしたから…。それで、今日はどこにいたしますか?」
「久々に花工場に行きたいな。花の匂いは良いもんじゃ」
「分かりました。それでは、春花1課はいかがでしょう?」
「ああ、懐かしいな。あそこはワシが初めて行った職場だよ。そこで頼む」
それからのモモカさんは、決して笑顔を絶やさなかったが……。なんだろう。何か、焦っているように見えた。
受付に男性が現れる度に、片っ端から頼み事をしているのだ。しかし、誰もが二つ返事で断っている。中にはモモカさんが口を開く前から断る者もいた。
察するに、誰もが嫌がる3K職場があるのだけど、今までやってきたマロークスさんって人が降りてしまったから、後継者探しで困ってるってところか。
なるほど。つまりこれは……
モモカさんの好感度を上げるには、またとない機会ということだなっ!
またとない機会なんだけど……またとない機会なんだろうけど……。
「ん? オトっつぁん、ふさぎ込んでどうしたよ?」
「いや…ね。下心を動機にするには、若さが足りないな〜って思ってさ」
「なんだそりゃ?」
モモカさんには申し訳ないけど、昔の苦い過去を思い出してしまう。
3K職場は嫌だなぁ……。




