2-7 モモカとリンゴン・ベル
書き忘れてましたが、『オトギ生活』は前回2-6で、通算20話達成です。
やったね!
動き出した行列は、斡旋処の正面口の右寄りに吸い込まれてゆき、程なくして正面口左の隙間からから人が吐き出されていく。吸い込まれ、間を置いて吐き出す。また吸い込まれ、間を置いてまた吐き出す。まるで呼吸のリズムを繰り返しているようだ。
斡旋処から出た人々は、みんな特長あるバッジを胸に付けていた。そして、同じ柄のバッジを付けた人が十人そこら集まると、列を作って一緒に歩き去ってゆく。
「それでオトっつぁんどうすんの? 入る?」
ハナナちゃんが聞いてきた。私が反対側の歩道から斡旋処の様子をじっと眺めていたので、じれったくなってきたみたいだ。しかし斡旋処は今、モモカさんが遅れてきたこともあって、早く職場に行きたがっている人達で溢れかえっている。
「そうだな…少し待つよ。人混み嫌いだし」
「なんか…早く来た意味無くなっちまったなぁ」
「そうでもないさ。早朝の状況も知っておきたかったからね。それにハナナちゃんが一緒だと、楽しいし、頼もしい」
「なんだそりゃ? 褒めてるのか?」
「もちろん。ベタ褒めよっ♪」
「ふふっ、惚れるなよぉ♪」
「うん、それはないな」
いや、まあ…ハナナちゃんもかわいいんだけど…。16歳の年頃の乙女だってのにオヤジ臭がハンパ無いから、酒飲み友達としては最高なんだけど、どうしても異性として見れないんだよね。おかげで男友達みたいに気兼ねなく話せるんだけどさ。
「ああそうだ。せっかくだしモモカ姐さんの仕事っぷりも見ておこうぜ」
「おおいいね」
私とハナナちゃんは道路を横断し、斡旋処の窓から中を覗いてみることにした。
行列の先頭は初老の男性だった。窓口にたどり着き、奧にいるモモカさんに挨拶している。
「おはよう、モモカちゃん。相変わらずピチピチじゃのっ!」
「おはようございます♪ ミロクおじいさんも、お元気そうで何よりですね♪ それで…職場とメンバーはいつも通りですか?」
「ああ、職場はいつもの『秋花1課』で頼む。で、メンバーじゃが、孫娘のスミレと大姪のビオラが風邪を引いてな」
「すると、二人欠勤ですか…」
「いや、『二人が心配だから看病する』ってな、お隣の娘のパンジーも休みおった」
「う〜ん、仲良し三人組が揃って欠勤ですか。それは大変ですね。では三人マイナスで、メンバーは九人…っと」
モモカさんが書類に書き込んでいると、発光浮游生命体が二人の会話に割って入る。
「あ〜、臭い臭い♪ 仮病の匂いがプンプンすりゅ〜♪」
「これっ! リンゴったら!」
「うーむ、やっぱりそうかのう…。わしも若い頃は怠け者だったしのう…」
「真偽はともかく、時には休息も必要ですから。今日はしっかり休んでもらって、明日頑張ってもらいましょう♪
リンゴ、この書類を『夏花1課』の棚にしまってちょうだい。それと、『秋花1課』のバッジを九つ出して」
「あいあーい♪」
あのバッジは証明章だ。斡旋処から派遣された証であり、その柄はどの職場で雇われたかを示している。これが無ければ職場に入れないし、斡旋処に返還しないと日当ももらえない。かつてはただのおはじきだったが、紛失事故が後を絶たなかった。そこで裏に安全ピンを付け、胸に付けることを義務づけることになったのだとか。
「バッジは胸のあたりにちゃんと付けてくださいね。絶対無くさないでくださいよ。あ、それと一人、『秋花一課』に連れて行ってあげてください。マキアさ〜ん! ミロクおじいさんのグループと職場同じですから、一緒に行ってくださ〜い! おねがいしますねっ。……では次の方、おはようございます!」
おおおっ、モモカさんがどんどん行列を捌いている!
モモカさんは記憶力がずば抜けていて、一度見た人の顔は決して忘れないのだそうだ。斡旋処を利用する人達がみんなモモカさんを知っているように、モモカさんもみんなを覚えている。一人一人の出勤状況や、登録番号までも覚えているから、必要な書類もすぐに探し出せるらしい。
そしてリンゴン・ベルも、かなり優秀な使い魔のようだ。受付から動けないモモカさんに代わり、モモカさんの指示を完璧に理解し、手足のように雑務をこなしている。毒舌さえなければ完璧なだったろうに。
だけどここまで完璧だと、逆に怖くなってくる。みんな、モモカさん一人に頼りすぎではないだろうか。これでは、もしモモカさんに何かあれば、斡旋処はたちまち成り行かなくなってしまう。正規の所員が無理なら、せめて助手を雇って負担を減らしてほしい。モモカさんが壊れないうちに……。
でも、私がここまで心配になるってことは、この嫌な予感はいつものように的中しないだろう。きっと大丈夫だ。
うん。きっと…大丈夫…。




