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2-5 第三の選択

なんか、今回はメッチャ手こずりました(><)

「あちゃ~。アタシが寝てる間に、こりゃまた結構な行列が……」


 仕事を求める長い行列は、斡旋処の正面ドアから始まり、歩道の右に長々と伸びていた。私が来た時点ですでに三十人くらいだったが、ハナナちゃんと表口に戻ると更に伸びている。今は百人以上並んでいるだろうか。


「ごめん、オトっつぁん」

「気にしない気にしない。昨日話したろ? 今日は様子見だって」


 ハナナちゃんがしおらしいとは珍しい。まあ今回は、彼女の誘いに応じる形で時間を変更したから、ハナナちゃんなりに責任を感じているのだろう。

 深夜から早朝のうちに行列に一番乗りして、遅れてきた私と交代…もしくは合流させるというパーフェクトプランは、肝心のハナナちゃんが寝過ごしてしまい、並び損ねてしまったわけだ。


「ああ、ちくしょう! 昨日飲み過ぎなければこんな事には……」

「飲み過ぎたって… え?」


 私は昨夜の記憶を掘り起こす。仕事を終えた夕方、ハナナちゃんと合流して酒場へ直行。酒と肴をちびちびやりながら、今日のことを打ち合わせ。日が暮れたあたりでお勘定を済ませて別れ、ボルゴ屋敷に帰宅した。時間にして大体二時間くらいだ。飲んだといっても精々3~4杯。酔いつぶれるような量じゃない。

 ………まさか、ハシゴした?


「いやぁ実はさ、オトっつぁんと別れた後、斡旋処の表口に野宿しようと思って陣取ってたら、遅くまで残業してたモモカ姐さんに見つかってさ、説教がてら飲みに連れ回されて、タダ酒ご馳走になっちゃって……。

 でも、どうやって斡旋処の裏口まで戻ったのか、記憶に無いんだよね。あはははは♪

 …ん? オトっつぁん、頭抑えてどうした? 二日酔いか?」


 嗚呼、モモカさん、貴方でしたか……。


 この町内で、モモカさんを知らない者はいないだろう。斡旋処の受付嬢……と言うより、看板娘と言うべきお人だ。知的で聡明で世話好きな眼鏡美人。年齢は二十歳と聞いている。

 まだまだ若いし、魔法使いの上級資格を持ったエリートのはずなのに、何故かこんな場末の事務職をやっている。何かやらかして左遷されたのか、それとも上司からの嫌がらせなのか……。プライベートに口を突っ込む気は更々ないのだけれど……妄想がはかどりますな♪

 それにしてもモモカさん。聡明な貴方が、ハナナちゃんを連れ回したくなるほどストレス溜め込んでるなんて…。

 ハナナちゃんのカンゾー君も心配だけど、モモカさんのココロちゃんもかなり心配だ。私に何か出来ることでもあればいいのだけど………


 行列は更に伸びていた。だけど、ただまっすぐ伸びるだけではない。列を長い糸に例えるなら、列の途中に結び目のような膨らみがいくつも出来ている。遅れて来た人が、先に並んでいた仲間に合流して出来たグループだ。数にして8~9群ほどか。


「オトっつぁんどうする? 大人しく後ろに並ぶ? それともどこかのグループに入れてもらう?」

「うんにゃ、どっちもしない。私には第三の選択があるからね」

「第三の選択って……まさか、並んでる人脅迫して、無理矢理割り込むとか?」

「やらねーってのっ!」

「じゃあどうすんのさ」

「ハナナ君、大事なことを忘れてはいませんかね?」

「……………なんだろう、わかんない」

「この雄斗次郎、識字率99,8%の国からやってきたんですぜ?」

「………だから、なんなの? 頭が良いって自慢したいの?」

「いや違う。そうじゃない。………分かったもういい。ネタバレしよう」

「なんだよ。もったいぶらずに話してよ」

「読み書きが出来る人は、行列に並ばなくても良いんだよ」

「なっ! なんだって~~~~!!!」


 読み書きが出来るなら、斡旋処内の壁一面に張り出されている求職情報を自分でチェックできるし、必要な書類も自分で記入できる。受付の人もチェックするだけなので、手続きも早く終わるし大助かりだ。しかし、斡旋処に来るような求職者に、学がある者は希である。だから、読み書きできる人専用の窓口が人で溢れた事はただの一度もない。

 ようするに、読み書きできない人が多すぎるから、長い行列が出来てしまうのだ。


「なんかズルイ」と、ふくれっ面になるハナナちゃん。

「ズルくねーよ! むしろモモカさんから感謝されるくらいだよ! 悔しいなら教えてやるから勉強しろ!」

「い~~や~~じゃ~~~~!」

「お前はカンペー師匠かっ!」


 思わずオトギワルドの住民には理解できないツッコミを入れてしまった。まったくこの娘は……。剣の修行なら命をかける事もいとわないのに、何故勉強は嫌がるのだろう? もしや……これが脳筋っ!?

 いや、ハナナちゃんに限らない。管理人さんもリナリアちゃんも読み書きが出来ないのだ。この国の識字率の低さは致命的なんじゃないか? 王国政府は教育の重要性に気付いていないのだろうか。それとも、教育に予算を割く余裕が無いのか……


「……おーい、おーい、オトっつぁ~ん。もしも~し。聞こえる~?」

「お? おお、すまんハナナちゃん。それでなんだ?」


 気がつくと、ハナナちゃんが私の顔を覗き込んでいた。


「並ばないんだったら、朝飯行こうぜ。あたし腹減っちまったよ」

「そうか。ハナナちゃんはハラヘリンコか……。だけど私は食べてきたんだな、これが」

「なんだよ付き合い悪いなぁ…。しょうがねぇ。どっかで食べてくるか……」

「だがしかーーーしっ! こう言うこともあろうかと! 管理人さんにお弁当を多めに作ってもらったのだっ!」

「えっ! ……それってもしかして、アタシの分もあるって事?」

「おふこーす! その通りだよハナナ君っ!」


 一瞬泣きそうな顔になるが、ハッと我に返るハナナちゃん。


「ちょっと待った! 管理人さんって事は……噂に名高い不味い料理ってことか? やめてくれよ。アタシャまだ死にたくないんだよ!」

「失礼なことを言うな。最近は『事故率』も下がってきてるんだぞ! 最新の比率は7対3。つまり10のうち7つは美味しくいただけるわけだ。残り3つに当たった場合は……まあ、運が無かったと思って諦めてくれ」

「へへっ面白れぇ♪ 運試しってわけかいっ! アタシの引きの強さ、見せてやろうじゃないかっ!」


 ううっ。管理人さん、一生懸命作ってくれたのに、ネタにしてごめんなさいっ! だけど、管理人さんに少しでも多く仕事をお願いしようと思ったら、これくらいしか思いつかなかったんです!

 管理人さんの作ったお弁当を食べて思い起こしたのは、昔流行ったロシアンルーレットガム。複数あるガムのうち、一つだけ酸っぱいガムが入ってるヤツね。ここ最近の『事故率』ならいけるだろうと思って、ハナナちゃんの分まで作ってもらったのだけど………。なんか予想以上に好評です!

 ハナナちゃんがっ! ハナナちゃんがっ、めっちゃ闘志燃やしてるぅぅぅっ!

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