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2-3 うらやま

ちょっと今回は作業環境が変わったこともあって、少々手こずりました。

 寝込みを襲われても大丈夫ってことは分かった。しかしそれでも分からない。ハナナちゃんは剣士ギルドと冒険者ギルドに加入している。仕事のギャラも高額で、斡旋処しか頼れない私より、金回りはずっと良いはずだ。なのに何故、わざわざ野宿する? 何故宿に泊まらない?


「そりゃあ、グッスリ眠るなら宿の方が良いに決まってるけど、高いんだよ宿代が! ああいう所はね、壮絶なバトルを繰り広げて、死ぬ寸前ってくらいボロボロになってから、初めて行くものなの!」


 確かにビデオゲームのRPGを遊んでいる時、プレイキャラクターにHPやMPが十分あるなら、宿に泊まるなんて馬鹿はしない。ボロボロになるまで資金&経験値稼ぎをひたすら繰り返すだろう。しかし、それはあくまでゲームでの話だ。リアルでそんな無茶が出来るはずない……はずなんだけど、そんな無茶をやれてしまうのが、冒険者ってヤツなんだな。回復魔法が充実しているとはいえ、本当にタフだよ。


「それに、性能の良い武具や防具、冒険に役立つお役立ちアイテムなんかを買い揃えたら、お金なんてあっという間に吹っ飛んじまうんだよ。無駄使いなんてできないのっ! あたしら冒険者は、オトっつぁんが思ってるほど金持ちじゃないんだぜ?」


 これまたビデオゲームのRPGと同じだけど、冒険者が装備する武具や防具はやたらと高い。一軒家どころか城一つが買えそうな価格の武具なんてざらだし、伝説の武具となると、小国の国家予算よりも高く付くとか。だけど、これにはちゃんと訳がある。

 量産品の安物武具は、カタログスペックが高くても壊れやすい。それでも、最初から使い捨てる前提なら用途もある。例えば軍隊のように組織的に動くなら、後方支援として補給部隊に武具を大量に持たせればよい。前線で戦う戦士の武具が壊れても、すぐに新しい武具と交換すれば、ただちに前線復帰するだろう。

 だけど冒険者は、言うなればワンマンアーミー。必要なものは全て自分で持ち歩かねばならず、そこには重量制限という決して越えられない壁がある。だから冒険者は僅かな持ち物に命を預けざる負えず、軽くて、壊れなくて、性能の良い武具を買い求める事となる。

 需要があるから、供給する側も期待に応えようとするが、そのためには材質から製法にいたるまで、あらゆるものにこだわらねばならず、この時点で価格も一桁跳ね上がる。見事作り上げても、供給が需要に追いつかないため、市場原理で価格は更に一桁跳ね上がる。腕の良い職人の武具となると、新品を手に入れることはほぼ不可能。運良く中古市場に出回っても、最悪なことにオークションにかけられてしまう。何が最悪って、金に糸目を付けない武具蒐集家がしゃしゃり出てくるのだ。おかげで落札価格は天井知らず。それでも、冒険者達は少しでも性能のよい武器を求めざる負えない。今日を生き抜くために…。

 しかし、そんなにお金が無いのなら、どうして仕事上がりで酒場に向かうのだろう?


「馬鹿言っちゃいけないよ! 体の疲労は魔法でも回復出来るけど、心の疲労は回復出来ないの! じゃあどうするか? 酒だよ酒っ♪ 仕事上がりに飲む酒がさいっこーに美味いんだよ! 正に命の洗濯だねぇ♪ っていうわけで、今夜も一杯やろうぜっ♪」

「昨夜だって行っただろーがっ! ったく、なに毎晩のように飲んでんだよ! アル中になるぞ!」

「え? なに? アタシに説教か? おいおい、オトっつぁん、いつからアタシのとーちゃんになったんだよっ!」


 などと口では反抗的なわりに、やけに嬉しそうな顔をするハナナちゃん。ツンデレ? ツンデレなの? それとも叱られることに喜びを感じるドM体質なの? だとしたらちょっと引くわ〜。


「とにかく今日は早く帰るって約束したから、ダメ〜っ! もし約束を破ったら、指を切って、万の拳を喰らって、千の針を飲まなけりゃならんのだ。ハナナちゃんもやめとけ。カンゾー君だって休息は必要だぞ?」


 するとハナナちゃんはふくれっ面になる。それはそれで可愛いが、少々可愛くないことを言い始めた。


「けっ、なんだよこの……ロリコンがっ」

「ろっろ、ろろっ、ロリコンちゃうわっ!」

「いやいや、自覚しろよ。どー考えてもロリコンだから。どうせ約束したのだって下宿先の幼女だろ」

「まったくもってその通りだが、それとこれとは関係ないわい! あのな、幼い子と交わした約束は絶対なんだよ! 心の底から私を信じて待ってるんだぞ。それを裏切ったらどれだけ傷つくことか! そんな残酷なことができるものかっ! 幼女ならば尚のことだっ!」

「いや、だから……その発想がロリコンなんだっての」

「あ、あれ? ………いや、そんなことはないぞ、うん。だって管理人さんにもときめいてるし、年上でもいけると思うし…。そんなわけで、私は正常だからなっ。単に節操がないだけだからなっ」


 力説しながらも、自分が何を言っているのか分からなくなってきた。ロリコンと節操なし。どっちがましなのかな? ……どっちも駄目なような気がする。


「ちぇっ、うらや…」

「…え? 裏山?」

「なっ、なんでもねーよっ! いくぞ」


 そう吐き捨てるように言うと、抜け道へと歩いてゆく。私は後を付いていきながら、先ほどのハナナちゃんの言葉の意味を考えていた。ハナナちゃんはもしかして『羨ましい』と呟いたのではないだろうか。一体誰が羨ましいのだろう。

 私がか? いや……きっとリナリアちゃんが、だろうな。


 酒の席で聞かせてもらったが、ハナナちゃんの父親も冒険者だったそうだ。だけど父親は、ハナナちゃんが幼い頃に行方不明。それから10年くらい経っているから、もう死んでいるだろうけど、どこかで生きている可能性も僅かながらある。女だてらに冒険者になったのも、父親を捜したかったのかもしれないと…。

 これは推測だけど、父親は行方不明になった事で、約束を守れなかったのではないだろうか。ハナナちゃんは今でもそれを引きずっていて……。だとしたら、彼女がおっさんの私に絡みたがるのも分かる気がする。

 なんということだろう。ハナナちゃんは、ファザコンをこじらしてしまったのだ。可哀想に……。

 考え事をしているうちに、私は歩みを止めていた。先に抜け道を出たハナナちゃんがそれに気付き、私を急かしてこう言った。


「なにやってんの! 早く来いや! このロリコンがッ!」

「ろっろ、ろろっ、ロリコンちゃうわっ!」

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