2-2 冒険女子ハナナ 【8/21挿絵追加しました】
というわけで、第三のヒロインハナナちゃん登場であります。
私が抜け道を通り、斡旋所の裏口へと回ってみると……
いた! 本当にいやがった!
一人の若者が裏口のドアの側に座り込み、静かに寝息を立てていた。寝顔は化粧っ気がないので少年のようにも見えるが、栗毛色のポニーテールと、マントからニョキッと伸びた太ももが、かろうじて娘アピールをしていた。ふと太ももを見ると、スパッツのような短いズボンを履いているとわかる。
野薔薇ノ王国の女性の服飾は大半がロングスカートで、ミニスカートやズボンなどは特殊な業務に就く者に限られる。目立つことや動きやすさを重視する職業…。例えば、冒険者とか。
どうやら初老の男性の話しの通り、ハナナちゃんで間違いないようだ。
毛布代わりにマントで身をくるんでいるとはいえ、よくもこんな寒空で眠れるものだ。タフだねぇ。だけど、いくら冒険者だからって、若い娘が野宿なんて感心しない。王都ノイバラは治安が良いのかもしれないが、それでも良からぬ事をしでかす輩はいる。何かあってからでは遅いのだが……。まあ、聞く耳なんて持っちゃくれないんですけどね。
「お〜い、ハナナ〜〜。ハナナちゃ〜〜ん。朝ですよ〜〜」
反応無し。声かけで起こすのは時間がかかりそうだ。しょうがない。揺り動かそう。
ヤレヤレとお寝坊さんのハナナちゃんに歩み寄り、肩を揺り動かそうと手を伸ばした瞬間、首筋に違和感を感じた。ヒヤリとした冷たい何かがかすったのだ。思わず首筋を触れるが何も無い。虫さされでもなければ、切り傷も出血もなかった。今のは一体……。すると、チャキンという金属音と共に、大きなあくびが聞こえてきた。
「ふわわぁぁぁ〜〜。なーんだ、オトっつぁんかよぉ〜。脅かすなよな〜〜」
目覚めた彼女は、起き上がると大きく伸びをした。
冒険女子ハナナ16歳。クラスはスピードに特化した音速剣士である。
音速剣士は本当に音速を出せるわけではないが、ニンジャに食らいつくくらいまでなら加速できると豪語する。戦闘スタイルもスピードを活かしたものとなり、一瞬でカタを付けるか、ヒットアンドウェイで長期戦に持ち込むかの二択。よってスピードを殺すような服飾は御法度であり、必然的に薄着である。
ハナナちゃんの服装はミニスカートのワンピースとスパッツという夏服のような組み合わせで、あとはブーツとグローブのみ。だから手足の露出度が高い。当然、乙女の柔肌が傷ついてしまうが、そこは回復魔法があるので、些細な傷ならノープロブレム。普段はマントを着用しているが、戦闘時には脱ぎ捨てて身軽になるそうだ。
だから武装も防具も最小限で、腰のソードベルトにショートソードが一振りと、板金加工したチェストプロテクターを胸に付けるのみである。
でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。
「ハナナちゃん!」
「ん? どうしたのオトっつぁん。怖い顔しちゃってさ」
「今、チャキッて音したよね? チャキッて! それって剣を鞘に収めた音だよねっ?」
「え〜? なんのこと?」
「もしかしてさっき、剣を抜いてなかった? 抜いたよね? 切っ先を私の首筋に突き立てたよね? よね? よねっ!?」
「まっさか〜。アタシがオトっつぁんにそんな酷いコト、するわけ無いじゃん〜♪ 気のせい気のせい♪」
あからさまに目を逸らすハナナちゃんであった。ああっ、コンチクショウめっ!
だけどまあ、安心した。これなら良からぬ事をしでかす輩に寝込みを襲われても、返り討ちにするだろう。
「ところで『オトっつぁん』はやめてくれない? 知らない人が聞いたら誤解されそうなんだけど」
「え〜、いいじゃん。年相応だろ? それに、親子だって思われた方が都合の良い時もあるしさ♪」
そう言うと、ハナナちゃんはニコっと笑う。
いやまあ、ハナナちゃんはハナナちゃんで、管理人さんやリナリアちゃんには無い『着飾らない魅力』ってやつがあるから、懐かれるのはまんざらでもないのだけれど…
なんで私は気に入られちゃったんだろうな……。本当に謎だ。




