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最初の夜

 ランタンの灯りを頼りに夜道をひたすら歩く。前を歩くヤツの背中を睨みつけながら、俺はどうやって勇者の名を簒奪するかを考えていた。

 王都から来たというお偉方は今頃は村長の立派な家で夢の中なのだろうが、彼らが来たということは王都でもヤツは勇者として有名になっていることだろう。そんなヤツから勇者の名を奪うのは容易ではないのは想像に難くない。

 そのような逆境の中ではあるが、思い付く限りで俺が勇者になる方法は幾つかある。

 一つはヤツではなく俺が魔王を倒すことだ。

 雑魚の梅雨払いはヤツに任せ、俺が本命である魔王を倒しさえすれば晴れて俺が正真正銘の勇者となるのだ。

 ただし、見極めを誤ればヤツどころか俺もやられる可能性がある。魔王の戦力が未知数な為、ヤツにも程々強くなって貰わなければならない。しかし強くなりすぎてヤツが魔王を倒してしまっては本末転倒である。しかし現実的に考えればこれが一番の正攻法なプランであろう。

 それが嫌ならばいっそのこと、ヤツに魔王退治の旅からご退場願うという方法もある。単純な話、もう2度と旅が出来ないようにしてやればいいのだ。脚や手の部位欠損など旅を諦めさせるにはうってつけの怪我である。もちろんそんな器用なことが出来ないなら殺してしまってもいいかもしれない。

 そしてヤツにご退場願った後、満を持して俺が魔王を仕留めれば晴れて正真正銘の勇者として王都に凱旋出来るのだ。もちろん、上手くやらねばヤツに返り討ちにされる可能性もあるし、ヤツがリタイアしたことによる戦力ダウンによって魔王を討伐出来なくなってしまうこともあるかもしれない。

 魔王を倒す確率が高い方に賭けるか、ハイリスクだが手柄を取られる心配無く魔王と戦う方に賭けるか………今思いつく手段としてはこれくらいだろうか。

 とはいえ、この時点でどちらか一方に賭けるのは早計というものだ。魔王の情報を集めれば、何かもっと良い策が思いつくかもしれないし、何かしらのチャンスが巡って来ないとも限らない。

現時点での良作は、両方のプランを視野に入れて行動することだろう。もし、ヤツを殺れるチャンスが巡ってきた場合は状況によりヤツにご退場願う。しかし、そういったチャンスに恵まれなければ、ヤツの成長を見届け、奴の実力の底を分析したあと、最後に美味しいところを俺が持って行けばいいのだ。

 そんな事を思っているうちに、野営するのに丁度いい場所を見つけた。モンスターが現れても即対応できる場所というのは限られているため、こういった場所を見つける能力を持つことが旅人の必須条件だといわれている。

 必須の条件といえば、そもそもの話、こんな夜中に旅に出ること自体が正気の沙汰ではない。

 何故なら魔物は夜になると活性化し始め、同じ相手でも昼間と夜とでは強さが全く違うのだ。王都の偉い学者が言うには、どうやら魔物は太陽の光により弱体化するようで、ダンジョンなどにいる魔物が強いのはそのせいであると王立研究所で世界に向けて発表したのは記憶に新しい。

 話を元に戻すが、勢いでヤツの旅に付いて来てしまったが元々俺は旅に出る予定なんて無かったから、持ち物なんて愛用の木刀と財布くらいしか持って来ておらず、当然テントすら用意していないのだ。我ながら舐めてるとしか言いようが無い装備だが、俺にだって意地がある。奴の野営道具なんぞ借りる事は絶対にしたくない。

 そんな俺の様子を知ってかは分からないがヤツが何か話したそうにしている気配を感じたので無視して焚き火を組み始め、比較的柔らかそうな地面を探して横になった。ヤツも何を言っても無駄だと思ったのか、何かを語ることなく野営道具も使わず俺と同じように地面に横になった。

「…………」

 何も喋らずに時が過ぎ、いつでもおきられるような体制でうとうとし始めた頃、ふいに声が聞こえた。

「魔王を倒してこの旅が終わった時、全てを謝らせて欲しい」

 そうポツリと呟くような声が聞こえてきた。俺はその一方的な物言いに腹が立って怒鳴り返した。

「ふざけるな!俺は俺のやりたいようにやるだけだ!だからお前のことは絶対に許すつもりもない!それに何に対して謝るっていうんだ!?ふざけた事を言うな!無駄な体力を使わせるんじゃない!」

そう怒鳴って俺は、それっきり横になったまま何を言われても無視することにした。

 ヤツは何度か俺に対して何か言っていたようだが、まったく聞いていなかったので反応は返さなかった。その後、無駄だと悟ったのか、何も言わずにヤツが横になったような音が聞こえた。

こうして初めての野営は終わった。

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