#カイ4
フライトシミュレーターでの簡易的な訓練の後、カイたちはトレーニング施設に来ていた。
直近の任務が終わってまだ間もない以上、しばらく新しい任務は来ないだろうと予想できた。体力が有り余っているだろうと、アイカがカイとマリナを誘った。二人とも暇だったので誘われるままついて来たのだが、早々に飽きてアイカのトレーニングを眺めていた。
「やっぱ、シミュレーターでの訓練は味気ないよなあ」
戦場を好むのは、命のやりとりをする臨場感に取り憑かれているのだからだろうか。カイは先程の訓練の物足りなさを思い出さずにはいられなかった。
「だから、アイカちゃんが誘ってくれたのでは?」
「でも俺、そんなに運動は好きじゃないんだよね」
「パイロットである以上、体力はあるに越したことはないでしょうけどね」
「地道な訓練って怠いよなあ」
「ですね〜」
二人して笑い合っているところで、アイカが戻ってきた。
「マリナもカイに毒されているよね。朱に交われば赤くなるってやつ?」
眦を上げながら、アイカは二人の近くに座った。
「あ、アイカちゃんもういいんですか?」
「ちょっと休憩だよ」
「これ、よかったらあげます」
マリナがスポーツドリンクの入ったペットボトルをアイカに寄越した。苦笑しながらも、アイカは受け取った。マリナは気合を入れてスポーツドリンクを事前に用意して来たのだが、気合は数分しか保たなかった。行き場を失ったスポーツドリンクは、アイカに渡ることで結果的に有効活用された。
「俺が毒しているわけじゃねえよ。こいつは元からこういう性格なんだ」
カイとアイカは、マリナとは第31部隊に配属されて知り合った。カイは以前からアイカと同じ部隊だったのだが、部隊が壊滅したことによって行き場を失ったパイロットたちの寄せ集めとして第31部隊が発足したのだ。以来、三人でつるむことが多くなった。
「わたしこれでも、カイくんとアイカちゃんには感謝してるんですよ。部隊に馴染めたのも二人のお陰ですし」
「その俺はあまり馴染めてない気がするんだが……」
「ショウくんとエレナちゃんは、カイくんのことあまり好きじゃないですからね〜」
けらけら笑うマリナに、アイカも不敵な笑みを浮かべて同意を示した。
「わたしもあんまり好きじゃない気がしてきたよ」
「俺はお前に愛されてる自信があるけどな!」
「根拠を示せ、ばか」
根拠はないが、確信はまあまああった。アイカは印象通り、すっきりした考えの持ち主だ。嫌いな人間とわざわざ関わり合うような性格はしていない。マリナはすぐに顔に出るのでわかりやすい。
「あ、そうだ。二人とも知ってます? この前の任務で回収した特務隊の人たちがいたじゃないですか」
マリナの問いにカイが答えた。
「ああ、覚えてるよ」
なにせ直近の任務だ。忘れるほうが難しい。
「医官の友人に聞いたんですけど、二人とも命は助かったみたいですよ」
「せっかく助けたんだからな。簡単に死なれたらつまらん」
「カイくんなりのエールだと思っておきましょう。でも、まだ一人は意識不明で、もう一人もリハビリ中らしいですよ」
「そうなんだ……」
呟くようなか細い声を出したのはアイカだった。その様子を疑問に思ったカイとマリナだったが、追及はしなかった。パイロット同士が知り合いであることは珍しくない。友人が死ぬことは当然に起こり得るのだ。
カイはすぐに別のことを考えていた。
「医官と言えば、今日は診察の予約があるんだったな」
「え、カイくん、どこか悪いんですか?」
素直に驚くマリナに、アイカが呆れた。
「カイの悪いところって、頭に決まってるじゃん」
「んなことねーよ」
カイは断固、抗議する構えだった。
「もう、アイカちゃん。カイくんは頭が悪いんじゃなくて、おかしいんですよ」
「お前ら、今日も言いたい放題だな」
反論するのも面倒だったので、カイは二人の言わせたいようにしておいた。




