#ハインツ13
「一度は目を覚ましたんですがね。今はご覧の通り、眠っています。これまでも何度か目を覚ましているようですが、今回は運が悪かったのかな」
ボサボサの髪の医官、シオ・ワトリングが説明を続けた。レオルドの病室で、ハインツはミア司令官ともに説明を受けていた。
シオ医官からの連絡を受けて、ハインツはすぐにでも病院に向かいたかったのだが、副官としての職務を放棄するわけにもいかない。悩んだ末に、ミア司令官に直談判して、短時間だけ司令部を抜けられないかとハインツは相談したのだが、
「私も行きます。ハインツ副官は護衛として付いてきてください」
「よろしいのですか?」
「これも司令官としての職務ですからね。あなたのため、というわけでもないですよ」
「……ありがとうございます」
ハインツはミア司令官に感謝して、すぐに病院までの自動車を手配した。とは言え、やはり副官としては失格だろう。副官の都合で司令官の予定を変えるなど、本末転倒だ。理解のある上官であったことに感謝するとともに、今後は自制すべきだと密かに反省した。
「それで、シオ医官。レオルド飛行士の容態ですが、率直に聞きます。パイロットへの復帰は可能ですか?」
ミア司令官の単刀直入な物言いに、ハインツも戸惑った。だが、自分たちパイロットにとっては重要なことだ。そこは避けて通れない。
シオ医官も苦笑がちに説明を続ける。
「怪我人の目の前で、このようなことを説明するのも気が引けるのですが、まあ、寝てるからいいか。ハインツ――副官の場合に比べて、重傷なのが問題ですね」
そう言えば、シオ医官とは副官への就任以後は会っていなかったなとふとハインツは思い出していた。レオルドのこともあって忙しいのか、定期診断も別の医官が担当していた。
「怪我は治りますよ。だけどその後は、ハインツ副官よりもずっと過酷なリハビリが必要になりますね。要は、本人次第というところですかね」
言い回しが面倒だが、パイロットへの復帰は可能なのだと認めているらしい。とは言え、レオルドにその気があるのかという問題はあるのだが、ハインツはその点は心配していなかった。パイロットの、その職務への執着は強烈なのだ。
とにかく、レオルドが目を覚ましたことにはハインツも安堵していた。また共にシグルドに乗れる日もそう遠くないのかもしれない。それだけわかっただけでもよかった。
「まあ、レオルド飛行士のことは任せていただきたいところですね。怪我だけでなく、心のケアも必要でしょう。ハインツは、そこは図太いようだったから楽だった」
シオ医官の物言いに、ミア司令官もくすっと微笑した。自覚はあるが、改めて言われると思うところはあった。
「俺が繊細な精神を持っていないとでも?」
「徹底的に解剖しても、出て来ないだろうね。撃墜されて重傷を負ってなお、パイロットへの復帰を迷わないのは、神経が極太だからとしか言いようがない」
「否定はしないが、言い方があるでしょう」
「いいではないですか。そこはむしろ、ハインツ副官の長所では?」
ミア司令官もなぜかシオ医官に同意のようだった。ハインツも反論のしようがない。なにより、自覚的なのだから反論する気力も湧かない。
「俺がどう見られているのかは、今後の課題にしますよ」
「結論が出てる気がするけどねえ」
けらけら笑うシオ医官の無神経さには、腹が立たないでもない。にやにやしているミア司令官は、まあ、上官の機嫌がいいのは悪いことではないかと納得することにした。
「さて、そろそろお暇しましょうか。司令部に戻りましょう、ハインツ副官」
「は、はい。了解しました」
慌てて答えるハインツに、ミア司令官は微笑みながら指摘した。
「そんなに残念そうにしないでください。また、来ればいいでしょう?」
「そう、ですね」
そんなに顔に出ていたかと、ハインツは反省した。今日は反省することが多い。
「そうそう、また来ればいい。彼が生きているのは確かなんだから、ね」
ハインツも、シオ医官のその説明に納得することにした。そう、レオルドは確かに生きているはずなのだ。ハインツが焦る必要はないのである。
シオ医官に見送られながら、ハインツはミア司令官とともに病室を後にした。




