#ハインツ12
レオルド・アビントンは、ハインツにとっては同じ部隊の同僚であり、友人でもあった。そして、格闘技の師でもあった。
ハインツは多くのことをレオルドから学んだ。パイロットとしての技術だけでなく、指揮担当時の振る舞いなど、特務隊での勤務における基本を教わった。
プライベートでもお互いに良き友であった。格闘技はレオルドとの付き合いで始めただけだったが思いの外、熱中した。ハインツは一度としてレオルドの膝を地につけさせることはできなかったのだが。
ハインツはレオルドのことを「レオ」と呼んでいた。本人がそう呼べと要求したからであるが、気づけば最も馴染む呼び名になっていった。
「なあ、ハインツ。俺は特務隊の隊員で良かったよ。やりがいのある任務だけじゃない。お前らのような友と出会えたのもそのお陰なんだからな」
ハインツも同意見だった。特務隊の隊員の間には、友情だけでなく一種の家族愛に似た連帯感があった。度々、照れくさいくらいに友情を語り合ったが、むしろ兄弟のようでさえあったのだ。
特務隊は困難な任務を多く任されてきた。死傷者が出ることもある。だが、その分達成感も大きい。任務を達成し、その度に生き抜いたことを喜び合った。
だが、いま思い返せば、それは慢心でもあったのかとハインツは苦々しい気持ちで思い返していた。つまり、自分は死なないのだと、どこかで思い込んでいたのだろう。
特務隊が壊滅したそのとき、ハインツは慢心を思い知らされた。人は、痛い目を見なければ学ばない。その真実に、ハインツ自身も当て嵌まることを強引に気付かされた。
ハインツにしろレオルドにしろ、運良く生き延びてエデンに帰還することができたのも事実だ。そればかりは、運でしかなかった。
副官としての勤務を始めてからも、ハインツは他の隊員のことを思うことがあった。アレンも、ウルスラも、皮肉屋のファーガスでさえもあの任務を生き延びることはできなかった。自分が生き延びた幸運に、ハインツは複雑な思いを抱いた。
たった二人が生き残った枠に自分が入ってしまったことの幸福と苦痛、そして後ろめたさ。自分でない誰かにこそ生き延びる権利があったのではと、ハインツは自虐的にさえ考えた。
幸運に幸運が重なったのか、ハインツは重傷でこそあったものの副官としての勤務が可能なレベルに快復していた。デスクワーク中心で、まだパイロット復帰には遠いが、ともあれ生きていることには変わりない。
怪我の治療は順調に進んでいる。直属の上官であるミア司令官も、ハインツのパイロット復帰を前向きに考えてくれている。つくづく、自分は恵まれているとハインツは思った。
レオルドは、ハインツ同様に生き延びた。だが、ハインツより重傷であったらしくまだ目を覚まさない。ハインツも何度かレオルドを見舞ったが、お互いに元気だった過去の思い出ばかりが蘇って辛かった。
ハインツはこれが、自分たちに対する罰のようにも思えていた。なにも考えることなく、ただ戦っていれば良かった過去、あるいはなにか超越的な存在が、ハインツたちの無思慮を快く思わなかったのだと。
だが、それも思い違いだ。この世界に、そんなものは存在しないのだから。神が人を造ったのではない、人が神を造ったのだ。この時代において、神は死に、信仰は息絶えた。死者への敬意だけが、慣習として残っている。
人が神なんてものを求めたのは、ハインツも理解できた。何者にも縋ることはできないことのもどかしさを感じていたのだ。なにか足りないものを求める枯渇感だったのかもしれない。
あの任務以来、ハインツは悩みごとがある度に集合墓地を訪れていた。戦死した仲間が、答えを教えてくれるような気がしていた。
とにかく、生きていることには感謝しよう。それだけは確かだった。ハインツが司令部での勤務に慣れた頃にも、レオルドはまだ眠っていると、そう思っていた。
レオルド・アビントンは、エデンで多くの兵士たちが日常を送っているなか、突然、目を覚ました。前触れもなく、それが当たり前のことであるかのように、平然と意識を取り戻した。




