#アイカ9
「ああ、俺の愛機が……」
フェリックスに戻ったアイカとカイは、ブリッジから自分たちの愛機が爆破されるのを見つめていた。さすがに撃墜されたシグルドをそのまま回収することはできないので、機密情報の塊である機体は爆破処理されることになっているのだ。
アイカたちも何度かその任務に就いたことはあるのだが、自分の機体が爆破される光景にはなんとも言えない気持ちが生じていた。
ちなみに、カイの機体を爆破したのはマリナ機だった。気のせいだとは思うが、念入りに攻撃しているようにもアイカには見えた。たぶん、気のせいなのだが。
今回の任務では、第15部隊が護衛任務に就いていた。アイカも所属パイロットたちには会ったことはないが、救世軍の主力部隊の一つだった。
(あとで挨拶しておくか。いや、回収班が先か?)
しばらくアイカがそんなことを考えていると、ブリッジの扉が開いた。現れたのはマリナだった。
「うわあああああああんんんんんアイカちゃああああああんんん!!」
「お、おい。マリナ」
アイカを見つけるなり、マリナは泣きじゃくりながら抱きついてきた。垂れた鼻水が、アイカのパイロットスーツを容赦なく襲った。非常に抵抗はあったが、助けてくれたマリナを無碍にはできない。アイカは覚悟を決めて、マリナを抱きとめた。
「マリナ、ありがと。お陰で私たち、エデンに戻れるよ」
「アイカちゃあああああああんんん、わ、わたしもう会えないかと思って、死んじゃったのかもと思ったり、うわああああああんんん、生きててよかったですううううう!!!」
ちょっと愛が重いでもない気がするが、とにかくアイカはマリナに感謝していた。鼻水が付くのは嫌だったが、それだって本音だった。
「おい、マリナ。鼻水を拭けよ。次は俺を抱きしめてくれるんだろう?」
カイの理解不能な発言に、マリナは噛みつく勢いで反論していた。
「誰がカイくんなんて抱きしめますか! どうせ、私の豊かな胸に触りたいだけでしょう?」
「興味ないこともないが、あえて本人に言われると興味が失せるな」
「むきー!!」
マリナがカイを叩き始める。カイは逃げ回りながら、マリナを抱きしめるジェスチャーをしていた。そうすると、マリナがより攻撃的になった。
「ま、まあ、カイくんも生きていてよかったとは思いますよ? セクハラについて反省してくれれば言うことなしですね」
「いや、それとこれとは関係ないだろう?」
「なんで!?」
「だって、全然関係ないし」
「命の恩人にセクハラすんな!」
「命の恩人だからこそだぞ? セクハラって愛情表現なんだからな」
「だから、一方的な愛情表現をセクハラと呼ぶんだよ!」
アイカの一括にもカイは反省を見せずに、今度はアイカを抱きしめようとした。たぶん、今までにない危機で頭がおかしくなったのだろうとアイカは想像した。躊躇いなく、カイを押し退けた。
「私は、嫌だから。カイはエデンに帰ってから、他の女とセックスでもしてろ」
「言われなくてもそうするさ。前にも言ったろ? セックスとセクハラは別のスポーツだって」
「相変わらず、最低なやつだな……」
カイの発言には呆れずにはいられない。アイカも、どっと疲れた気がした。
「そう言えば、寝てないんだっけ、私たち?」
「アイカが気絶していたのを含まなければ、そうだな」
カイの説明に、アイカは納得した。道理でこんなに眠いんだ。立っているのも億劫でソファに座って、だらしなくもたれた。
「あ、寝てないってそういう意味ですか?」
マリナの素朴な疑問に、アイカは呆れた。どうしてそういう発想になるのか……。
「どういう意味だと思ったんだ……」
「いえ、そういう意味なのかと」
「……ごめん。本当に疲れているから、ツッコミはしない」
「せめて、ツッコんでくださいよおお!」
マリナの泣き声が聞こえるが、アイカの意識は胡乱げになっていた。カイはけらけら笑っていた。
「お前ね、セクハラはやめろよな」
「カイくんに指摘されたくないですよ!」
言い争い合う二人の会話が、アイカには妙に心地よかった。まるで、子守唄のようでさえあった。
「あ、アイカちゃん、寝るなら自室に戻ってくださいよ〜」
「そうだぞ、マリナに襲われるぞ〜」
「襲いませんよ!」
気付いたら、アイカは眠っていた。いろいろと考えていた気がするが、どうでもよくなった。なにかあれば、後でやればいいのだ。
「おい、マリナ。アイカを自室まで運んでやれよ」
「私ですか!? カイくん男の子でしょ!」
「俺も眠いんだが……」
などというやりとりはまあ、ご愛嬌ということで。
起きたらいつもの自分でいようと、アイカは夢の中でほんの少しだけ二人に甘えた。




