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イノセント・スカイ  作者: もちもちな魔族
Part3

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#アイカ8

 見上げる二人の目の前には、向き合う形でシグルドがあった。見間違うはずもない、救世軍の主力戦闘機だ。


「え、シグルド!? なんで……」


 突然の光景に、アイカは混乱していた。


「あの機体、マリナか!」


「え、マリナ!?」


 シグルドを見つめるカイの反応に、アイカも驚いていた。


 よく見ると、そのシグルドには特徴的な長い砲身があった。超長距離攻撃用のレーザー砲だ。見慣れた戦友の愛機に備えられているものだった。


「助けに来てくれたのか!」


 アイカとカイは声を出して歓喜した。これほど、マリナのことを頼もしく思ったことはなかった。いや、少し失礼なことを考えたな、とアイカは反省した。


 ピピピ、とアイカの腕時計型端末が反応した。起動すると、聞き慣れた声が聞こえてきた。


「アイカちゃん、カイくん。機械兵士はこっちで相手するので、逃げてください!」


「逃げるってどこに!?」


 アイカの疑問に、マリナは叫ぶように答えた。


「もちろん、弾が当たらないところにです!!」


「「――え」」


 二人が声を漏らしたのは、それと同時だった。


 マリナのシグルドは、躊躇なくバルカン砲を発射し始めた。絶え間ない弾丸の発射音が響く。耳が痛くなるような轟音だった。


 機械兵士が、面白いくらい簡単に破壊されていく。テラフォーミング施設から出てくるなり、壊される機械兵士たちだった。死体ではなくただの残骸だったのに、アイカはなんとなく物悲しくなった。機械兵士たちを殺戮していた。


 逃げる間もなかった。弾丸がアイカとカイに命中しなかったのは、マリナの腕前のお陰が、運が良かっただけなのか。


「お、お前な! 俺たちまで殺す気か!」


 カイの抗議に、マリナが対抗した。


「レーザー砲を使わなかったんですよ? だいぶ気を使いましたよ!」


「お、お前、戻ったら覚えておけよ!」


「べー、だ!」


 端末の向こうで、マリナが舌を出してカイを挑発する様子を想像した。


「くっそう!」


 カイは見たこともないくらい怒っていた。アイカは怒るより、マリナのことがちょっと怖かったのだが。


「あ、アイカちゃんはごめんなさい。カイくんはどうでもいいけど、アイカちゃんを危ない目に合わせるのはよくなかったですね」


「俺はいいのかよ!」


「はい」


「即答するな!」


「カイくんのあほう!」


「マジでムカつくなあ!」


 二人のやりとりはともかく、これでエデンに帰還できることにアイカは安堵していた。


「今から回収班を呼びますから、大人しく回収されてくださいね。あ、カイくんは戻ってこなくていいですよ?」


「まだ言うか、こいつ!」


 マリナの挑発にいちいち反応するところを見ると、カイもストレスが溜まっていたのかもしれない。撃墜され、慣れない大地を歩かされ、テラフォーミング施設に逃げ込んだのだ。非日常が続いた上、本当にエデンに帰れるのか怪しいところだったのだから、無理もない。


「日頃の恨みですよ! これを機にセクハラはやめてくださいね!」


「ぐぬぬぬぬぬぬ!!!」


「そこは素直に同意しろよ……」


 カイのセクハラへの拘りには呆れるばかりだ。素直にやめたらいいのに……いや、アイカにとっても他人事ではないのだが。


 待つまでもなく、回収班の小型艇が降りてきた。遥か上空には、フェリックス級航空母艦が待機していた。これで本当に帰れるのである。何度かの溜息を吐いて、アイカはクリーム色の空を仰いだ。


「しっかしまあ、もう撃墜されたくはないな。今回は、運が良かっただけだ」


「まったくだ」


 見るからに安堵するカイに、アイカも頷いた。


 そうだ。これで、エデンに戻れるのだ。何度も頷いて、アイカは少しだけ泣いた。


 長かったようで本当は短かった大冒険は、これで終わりだ。

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