#アイカ8
見上げる二人の目の前には、向き合う形でシグルドがあった。見間違うはずもない、救世軍の主力戦闘機だ。
「え、シグルド!? なんで……」
突然の光景に、アイカは混乱していた。
「あの機体、マリナか!」
「え、マリナ!?」
シグルドを見つめるカイの反応に、アイカも驚いていた。
よく見ると、そのシグルドには特徴的な長い砲身があった。超長距離攻撃用のレーザー砲だ。見慣れた戦友の愛機に備えられているものだった。
「助けに来てくれたのか!」
アイカとカイは声を出して歓喜した。これほど、マリナのことを頼もしく思ったことはなかった。いや、少し失礼なことを考えたな、とアイカは反省した。
ピピピ、とアイカの腕時計型端末が反応した。起動すると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「アイカちゃん、カイくん。機械兵士はこっちで相手するので、逃げてください!」
「逃げるってどこに!?」
アイカの疑問に、マリナは叫ぶように答えた。
「もちろん、弾が当たらないところにです!!」
「「――え」」
二人が声を漏らしたのは、それと同時だった。
マリナのシグルドは、躊躇なくバルカン砲を発射し始めた。絶え間ない弾丸の発射音が響く。耳が痛くなるような轟音だった。
機械兵士が、面白いくらい簡単に破壊されていく。テラフォーミング施設から出てくるなり、壊される機械兵士たちだった。死体ではなくただの残骸だったのに、アイカはなんとなく物悲しくなった。機械兵士たちを殺戮していた。
逃げる間もなかった。弾丸がアイカとカイに命中しなかったのは、マリナの腕前のお陰が、運が良かっただけなのか。
「お、お前な! 俺たちまで殺す気か!」
カイの抗議に、マリナが対抗した。
「レーザー砲を使わなかったんですよ? だいぶ気を使いましたよ!」
「お、お前、戻ったら覚えておけよ!」
「べー、だ!」
端末の向こうで、マリナが舌を出してカイを挑発する様子を想像した。
「くっそう!」
カイは見たこともないくらい怒っていた。アイカは怒るより、マリナのことがちょっと怖かったのだが。
「あ、アイカちゃんはごめんなさい。カイくんはどうでもいいけど、アイカちゃんを危ない目に合わせるのはよくなかったですね」
「俺はいいのかよ!」
「はい」
「即答するな!」
「カイくんのあほう!」
「マジでムカつくなあ!」
二人のやりとりはともかく、これでエデンに帰還できることにアイカは安堵していた。
「今から回収班を呼びますから、大人しく回収されてくださいね。あ、カイくんは戻ってこなくていいですよ?」
「まだ言うか、こいつ!」
マリナの挑発にいちいち反応するところを見ると、カイもストレスが溜まっていたのかもしれない。撃墜され、慣れない大地を歩かされ、テラフォーミング施設に逃げ込んだのだ。非日常が続いた上、本当にエデンに帰れるのか怪しいところだったのだから、無理もない。
「日頃の恨みですよ! これを機にセクハラはやめてくださいね!」
「ぐぬぬぬぬぬぬ!!!」
「そこは素直に同意しろよ……」
カイのセクハラへの拘りには呆れるばかりだ。素直にやめたらいいのに……いや、アイカにとっても他人事ではないのだが。
待つまでもなく、回収班の小型艇が降りてきた。遥か上空には、フェリックス級航空母艦が待機していた。これで本当に帰れるのである。何度かの溜息を吐いて、アイカはクリーム色の空を仰いだ。
「しっかしまあ、もう撃墜されたくはないな。今回は、運が良かっただけだ」
「まったくだ」
見るからに安堵するカイに、アイカも頷いた。
そうだ。これで、エデンに戻れるのだ。何度も頷いて、アイカは少しだけ泣いた。
長かったようで本当は短かった大冒険は、これで終わりだ。




