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イノセント・スカイ  作者: もちもちな魔族
Part3

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#アイカ5

 アイカとカイは、すぐにはシグルドのコクピットからは出なかった。ガスが入り込むまでまだ時間があるようだったので、すぐに出る必要はなかったからである。しかし、いよいよという段階になって、決断を迫られた。


「で、どうする?」


「どうするって、私が決めるの?」


「今回の任務の指揮担当は、お前だからな。俺は指示に従うよ」


「こんな状況になって指揮担当もないだろう。卑怯だぞ、カイ」


「ま、そう言うだろうなとは思っていたよ。――じゃあ俺は行くから、アイカも好きにしろよな」


「――ちょっと待って、私も行くから!」


 致死性の毒ガスではあるが、吸ってもすぐに死ぬわけではない。だが、文字通り救出を座して待つのも気分のいい話ではない。救出が間に合わなければ、死ぬのを待つだけなのだから。


「なら、覚悟を決めようぜ。お互いにな」


「その、テラフォーミング施設ってどこにあるの」


「歩いて数十分のところだ。まあ、端末にも地図データを落とし込んでるから、迷いはしないだろう」


 結局、アイカもカイの提案を受け入れることになったのには、気が滅入った。カイの言うことに従う結果になったのはどうでもいいが、毒ガスの中を歩くのはやはり抵抗があるのだ。


 そして、毒ガスの中をしばらく歩いた二人は、テラフォーミング施設の前まで来ていた。


「ていうかさ、テラフォーミング施設って施錠されてないの?」


 ここまで歩いてきて、アイカはやっと思い浮かんだ疑問を言った。ここまで来て毒ガスの中に追い出されたままでは、なんの意味もなかったことになる。


「端末のデータを確認したけどさ、どうもそういうことはないみたいだぞ? 救世軍側でも、撃墜されたパイロットが生きていた場合の避難場所として検討されていたらしい。まあ、これまで撃墜されたら、そんな余裕はなかったんだけどさ」


「そっか、一応ここまで来たのは間違いじゃなかったんだね」


「今更だろ?」


「う、うるさいな。早く入ろう。ガスマスクを付けたまま話すのも不快なんだ」


「はいはい」


 ガスマスクの向こうのカイの表情を想像して、アイカは少し不機嫌になった。カイなら、こんな状況下でも余裕の表情を浮かべていることだろう。なんだか、癪に障った。自分は恐る恐るという気持ちでここまで来たのに、なんだか理不尽な気がした。


「よし。じゃあ、入ろう」


「う、うん」


 カイに促されて、アイカも施設内に足を踏み入れた。入口の扉はなにもしていないのに開いて、アイカは食虫植物に捕食される虫のような気分がしていた。


 幾重の扉を通った後、カイがいきなりガスマスクを脱いだ。


「か、カイ! なにしてるんだ!?」 


 驚くアイカに、カイは平然と言いのけた。


「ここはもう、毒ガスの反応がしてないぞ?」


 アイカは慌てて腕時計型ウェアラブル端末を起動させて、毒ガスの反応を確認した。カイの言う通りだった。途端に気が抜けたが、アイカもガスマスクを脱いだ。


 ガスマスクを付けていたのは短時間だったのに、酷く疲れた気がした。だが、ここまで来た甲斐があったのは確かだった。


「いやあ、さすがに未知の体験だな。地面まで来たのは初めてだよ、俺」


 カイも安堵していたらしい、馬鹿みたいな笑顔を見せてアイカに話しかけてくる。


「私も、ここまで来たのは初めてだな……」


 地面を踏みながら歩いたのは、ちょっと、いやかなり感動だった。ゴツゴツした地面を歩くのは、思ったより疲れた。


「任務で赤い大地の地面まで来るのは、回収班だけだからな。俺たちには、本当は縁がなかったはずなんだ」


 そう、撃墜されなければここまで来ることはなかったのだ。アイカとカイは空で落とされたのである。あのときの記憶が蘇ってきて、アイカは冷や汗をかいた。動悸がして、気が遠退きそうになる。


「おい、アイカ。大丈夫か?」


「平気だから、気にしないで」


「それならいいんだがな」


 カイは平気そうだったが、それがアイカにはなんだか気に入らなかった。だが、この場所においてカイは頼もしくもあった。日頃は無神経な男だが、役に立つこともある。そう思うと、アイカも少し笑えてきた。


 アイカは大きく呼吸して、この場所の安全性を再確認していた。大胆なことをしたせいか、だいぶ気が楽になった。


「ねえ、カイはさ。なんでパイロットやってるの?」


 どうしてそんなことを聞いたのか、アイカにも確信が持てなかった。だけど、聞かずにはいられなかった。

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