#ハインツ8
ハインツは、地下居住区という存在を初めて知った。ミア司令官に連れられるまま、この場所まで来てしまった。機密に近づくことの、ある種の不安を感じていた。恐怖に近いが、そうではない。興奮とも言えそうだが、それとも言い切れなかった。
ミア司令官は手を引くアリサに向かって、優しそうに尋ねた。
「今回の家出は楽しかったですか、アリサ?」
「うん、あのね。アイカとマリナは優しくしてくれたけど、カイは全然優しくなかったよ?」
「それは酷い。ちゃんと処分しておきますね」
「うん」
と、アリサは頷いた。
「もちろん、冗談です」
という台詞は、ハインツに向けたものらしい。危うい冗談だなと、ハインツは内心苦笑した。できれば自分は、冗談でも言われたくない台詞だった。少なくとも、直属の上官であるミア司令官には。
「ではお休みなさい、アリサ。慌てなくとも、出番はいつか来ますよ」
「うん。お休み、ミア」
まるで遺言のようだとさえ思ってしまった。その言葉を残したアリサの姿は、一瞬で消えてしまったのだ。
ハインツはその光景に、絶句しないではいられなかった。確かに、エデンには謎が多い。だが、このようなことを可能にする技術まであったのか。驚くとともに、場違いな自分の存在に不安を感じ始めていた。
「ミア司令官、あの子は一体……」
自分が知っていい存在だったのか。疑問は尽きなかったが、それ以上の言葉を口にすることは憚られた。
「いずれ、そのときが来れば説明します。今はどうか、見なかったことにしてください」
薄暗い室内の中で、ミアのその微笑みだけが、ハインツの不安を和らげていた。




