9.出産
入院からしばらくすると、俺のお腹に異変が起きていた。
ぽっこりと出ていて、重量があるのだ。
直立すると歩くことすら辛く、体力を余計に使うのである。
依然として、主治医の女医は俺に病名を明かしてくれない。
愛する聡美も、気にするなとまともに取り合ってくれない。
俺がベッドで寝ていると、牧田がやってきた。
「警部補、具合はどうですか?」
「最悪だよ。お腹に病気があるみたいだ」
その時、お腹の中で何かが動いた。
ポンと蹴られたような感覚。
何かに寄生でもされてるのか。
そこに女医がやってくる。
「斉藤さん、お加減はいかがです?」
「先生、いい加減教えてください。俺、何かに寄生されてるんですか?」
「大丈夫ですよ。私の見立てではあと数週間くらいで治ると思うので」
「でも、お腹の中で何かが動くんです。なんなんですかこれは?」
「大丈夫、正常な反応ですよ」
女医は微笑みながら言った。
人の病気がそんなに嬉しいのかこの女は。
「痛みが出たりしたらすぐに呼んでくださいね」
そう言って女医は病室を出ていく。
「そういや、聡美から聞かされたよ。あんたら異星人なんだってな。しかも、肉食としての食料として各惑星の生命を食べ回ってる」
「全部聞いたんですね」
「ああ。食べる、という行為の副作用で人間がゾンビ化する」
「その通りです」
「そしてそれは俺も食べればゾンビ化させられるという可能性が浮上している」
「警部補が私たちの仲間であれば、そうなるかもしれませんね」
「できれば人間として死にたかった」
「死ぬ?」
「あ?」
「ゾンビ星人に死はありませんよ」
「え?」
「不老不死なんです。ゾンビ星はそのために食糧難に陥って、宇宙に散り散りになって肉を食べてるんです。もちろん、外部からの衝撃が加われば死にますけど、寿命というものは存在しません」
「マジか」
俺は疑問をぶつけてみることにした。
「もしかして、倉田はそれに気づいた?」
「……………………」
「倉田を殺したのはお前か?」
「……………………」
「オフレコだ。答えてくれ」
「……そうですよ」
「そうか」
「あの人の肉、美味しかったですよ」
吐き気がした。
「それで、警部補はどうするんですか?」
「どうもしねえよ。俺もそっち側かもしれないし」
「こっち側だったら私たちもありがたいですわ。ともにハンターを倒しましょう」
「アンプルを割ったのもわざとか?」
「いや、それは本当に手が滑って。そもそもワクチンを打ったところで私には無意味だし」
「そうか。俺も退院できたら食ってみるか」
「人肉は美味しいですからね。病みつきになりますよ」
「お前、今まで何人食ってる?」
「数えたことないですね」
あ、と続ける牧田。
「警部補にお土産持ってきました」
と、弁当箱を取り出す。
弁当箱の中には肉が入っていた。
ちょうど肉が食いたかった。
病院食は野菜が混じっていて食えたもんじゃない。
「どうぞ」
俺は箸を手に肉を食した。
「美味しい。なんの肉?」
「人間」
「ブフー!」
俺は飲み込もうとした瞬間、噛み砕いて細切れになっていた肉を盛大に吹き出した。
「冗談だろ?」
「いいえ?」
俺は深いため息を吐いた。
「ゾンビって生きてるのか?」
「どうでしょう? 脳に侵入したUV-ZOMBIEが電気信号を出して動かしてるから、死んでても動くんで、死体かもしれません」
「倉田の日記に書かれていたんだが、ゾンビを服従させれるんだってな」
「そうですね。元が私たちの持ってる遺伝子ウィルスで、離れていても量子もつれみたいに瞬時にやりとりができるみたいです。声に出さなくても、頭で考えるだけで動きますよ」
「何そのご都合主義?」
「ソフィア姉さんなんか、何万体でも同時に動かせますわ」
「ソフィア?」
「ああ、聡美姉さんです。我々の星ではソフィアって名前なんです。ちなみに私はアンゼロット」
「それより肉。肉が食いたい」
「さっきの女医さんでも狩ってきましょうか?」
「それはやめて」
その時だった。
急にお腹が痛み出したのだ。
「いてててて!」
「大丈夫ですか?」
俺はナースコールを押す。
「斉藤さん、どうされました?」
看護師が心配そうに訊ねる。
「腹が痛いです」
「ズボン下ろしますね」
看護師が俺のズボンを下ろしていく。
こんな時にこんなところでそんなことをするとはクレイジーなやつだ。
「今クレイジーって思いました?」
と、看護師が訊ねる。
こいつ能力者か。
「本当についてるんですね、一物」
「だからなんなんですか?」
看護師は俺の言葉をスルーして通信機で女医を呼ぶ。
「すぐ終わりますから大丈夫ですよ」
「終わるって何が?」
「実は斉藤さん、赤ちゃんが産まれるんです」
「はあ!? こんな時になんの冗談だ! 出産は女の仕事だろうが!」
「落ち着いてくださいね。興奮すると赤ちゃんも辛いですよ」
腹の中の何かが、お尻の方へと下がっていく。
「うー!」
「ひー、ひー、ふー」
赤ちゃんとはでかい糞の比喩か?
俺の腹に糞がたまってたのだろうか。
「せ、先生……!」
「大丈夫ですよ。深呼吸しましょうね」
あまりの痛みに、その後のことはよく覚えていない。
ただ、意識がはっきりしてきた時に、女の子だと告げられた。
何を言っているのか俺にはさっぱりわからない。
女の子の寄生虫が出てきたということなのうだろうか。
ことが済み、体力の回復のためにしばらく俺は眠りについた。
そして目を覚ました時、聡美が俺の横で赤ちゃんを抱いていた。
「どうしたんだその子? まさか食料に?」
「我が子を食べる親がどこにいるのよ」
「我が子? もしかして連れ子?」
「はあ……」
呆れてため息を吐く聡美。
「まだわかんないの? 吐き気が始まって、お腹が大きくなって、痛みを感じて出てきた」
「だから寄生虫が」
「……あなたの子よ」
そう言えば、初めて会って、一緒に住むことにした時、聡美と肉体関係を持った。
「聡美、いつの間に産んだの?」
その瞬間、赤ちゃんを抱えたまま聡美はひっくり返った。




